1999年のサービス開始から16年が経過し、月間の利用者数は5251万人(今年3月実績)を誇る日本最大級の料理サイト「クックパッド」(前身サイトである「kitchen@coin」は98年にサービス開始)。冷蔵庫の余り食材をどう使おうかと悩む人から、たまの自炊にチャレンジする人まで、簡単にレシピを検索できる点や、自分のつくったレシピを手軽に公開できるという点が人気を呼び、一度は閲覧したことのある人も多いだろう。
しかし、料理研究家や料理専門メディア、プロの料理人などいわゆる料理業界関係者の間では、「プロやメディアが公開したレシピを、一般人が盗作してあたかも自分で開発したかのように掲載している例があまりに多い」という声も大きい。過去には、クックパッドに掲載されたお菓子レシピをまとめた書籍に、有名菓子メーカーのHPに掲載されたレシピがそのまま載っていたと話題になったこともある。こういった点から「クックパッドは著作権侵害だらけ。それによって収益をあげている運営会社にも問題がある」(料理研究家)という見方すら上がっているのだ。
実際にクックパッド上で『キユーピー3分クッキング』『男子ごはん』などのテレビの料理番組名や、「平野レミ」「コウケンテツ」など人気料理研究家の名前で検索をしてみると、「少しアレンジしてみました」とするものから、「覚え書き」ということでまったく同じレシピを掲載している、明らかに「パクリ」と受け止められるものまで存在する。
クックパッドでは利用規約を定めており、その「第15条 禁止事項」の第1項には「(1) 当社、他の利用者もしくはその他の第三者の著作権、商標権等の知的財産権を侵害する行為、または侵害するおそれのある行為」と書かれている。また、「MYキッチンご利用ガイドライン」というレシピ投稿者向けのガイドラインにおいても「『そのまま紹介したい』場合は、ご本人の許可を得る」と書かれている。
●レシピと著作権
こうした状態は、法的に問題があるのであろうか。弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPC執行役で弁護士の山岸純氏は、次のように解説する。
「著作権法で保護される著作物とは、『思想や感情』の創作的な表現とされています。アイデアや新しい発想といったものは、個人の頭の中にある考えである限り表現されたものではないため、保護の対象ではありません。したがって、料理の材料や調理の方法といったレシピ自体も、それが頭の中にある限り、表現には当たりません。『調理の方法自体はアイデアであったとしても、それがレシピとして文字で外部に表されれば表現ではないか』と思われるかもしれません。しかし、仮にレシピが表現されたとしても、レシピの内容はせいぜい『肉○グラム、塩○グラムを混ぜ合わせると』といったレベルであり、誰が書いても似たような内容となるため、『思想や感情』を表現したことになりません。
もし、レシピに無理やり『思想や感情』を入れ込むならば、『まるで宝石をちりばめたような霜降りの和牛ロース100グラムに、インド3000年の歴史が生んだコショウという人類がこれをめぐって戦争までした調味料を、華麗に、なおかつ繊細に振りかけます』といったような、実にヘンテコなレシピが出来上がります。以上より、著名な料理専門家などがテレビやブログで公開したレシピそのものをクックパッドに投稿しても、その行為自体が著作権法違反となる可能性は低いでしょう」
では、そうしたレシピを掲載しているクックパッドの運営元も、法的責任を問われないのだろうか?
「運営元がこれを放置しても、モラルの問題は別として、法律違反を問われる可能性は低いと思われます」(山岸氏)
料理業界としては、クックパッドへの対抗意識を燃やすよりは、共存共栄の道を模索したほうがよさそうだ。
(文=牛嶋健/A4studio、協力=山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPC執行役・弁護士)