7月7日、千葉県内の病院で心臓手術を受けた患者7人が死亡していたという報道があった。
昨年11月に群馬大学医学部附属病院での医療ミスが発覚して以降、あらためて医療への信頼が問われている。
今、私たちは病院や医者を選ぶ上でどんな「ものさし」を持つべきなのか、大崎病院東京ハートセンター副院長の細川丈志(ほそかわ・じょうじ)先生に聞いた。
細川 まず初めに、あえて厳しい言い方をさせてください。医療ミスが明るみに出て問題になるような病院や医師は、得てしてよくない評判が少なからず立っているものです。ですから、「近所にあるから」「大学病院は医者の数も多くて安心」といった理由で受診するのではなく、事前に病院や医師について調べた上で受診するのは自己責任といえるのではないかと思います。自分の身を守るためにまず情報収集をするのは、基本中の基本ではないでしょうか。
―でも、病院や医者の良し悪(あ)しなんて素人でも見分けられるものなんですか?
細川 最近はどの病院もホームページを充実させていますし、どんな医師が所属しているか、どんな治療を行なっているのか、一般の人でも確認できます。また、病院の症例数や医師の紹介を記載した雑誌もたくさん出版されていますから。それらをもとに、悪い病院やヘタな医師に当たらないための情報を得るのはある程度可能だと思います。
■看板にやたらと診療科目を掲げている
細川 まず、初診で近所の個人病院や個人クリニックを選ぶ時、看板に「内科・外科・皮膚科・泌尿器科」といったふうに、医師はひとりなのに複数の診療科目が掲げられている医院は注意したほうがいいかもしれません。実は、標榜(ひょうぼう)科目(病院や診療所などの医療機関が看板や広告に表示してもいい診療科)というのは、医師免許さえあれば個人の裁量で自由にうたっていいんです。
例えば、内科医が「眼科」「皮膚科」などを併せて掲げても問題ありません。しかし、その医師が標榜科目すべてに通じているかといったらそれは怪しい。
―すべての医療技術を身につけているわけではないと?
細川 専門以外の科目は臨床経験に乏しいことも多く、的確な診断ができないケースもあるんです。ほとんどの場合、看板の冒頭(または2番目)に挙げている科目が実際の専門ですが、「とりあえず冒頭に内科を掲げておく」という医院は多いように感じますね。
―それはなぜ?
細川 内科は「頭痛がする」「熱っぽい」といった軽微な症状の患者がまず最初に行くところですし、インフルエンザが流行する時期には予防接種でかかる人も増えますから集客の面ではとても有効です。
逆に、標榜が「神経内科」「循環器内科」といった特定分野の看板のみを掲げているクリニックは、その領域の疾患だけで患者を集める自信があるわけですから、いい腕を持っている可能性が高いと思います。いずれにせよ、事前に「専門科目は?」と聞いてみるのがいいでしょうね。
■「優しい」「親切」などの評判だけで患者が通っている
細川 開業医の評判というのは、どういった要素で決まると思いますか?
―患者の話を熱心に聞いてくれるとか…?
細川 そうですね、特に開業医の場合、「親切だ」とか「優しい」とか、そういった人間性の部分が重視されがちですよね。また、それが評判にもつながっていると思います。
しかし、それだけを名医の判断基準にするのは危険です。患者さんの話を長時間聞くことも場合によっては重要でしょうが、長年携わった領域であれば、わずかな問診と身体所見、簡単な検査だけで的確な判断を下せることのほうが多いはず。それは、何が重要であるかが頭の中で整理されているからにほかなりません。
いたずらに患者の話を長く聞く医師のなかには、それらが整理されていない者もいるのではないでしょうか。
●細川丈志(ほそかわ・じょうじ)
大崎病院東京ハートセンター副院長。心臓カテーテル治療の分野における世界的な権威。Best Doctors inJapan(2008~2009)