【レポート】IBM Watson活用事例と今後の可能性を語る - SoftBank World 講演『Watsonが世界を変える Change the World』 | ニコニコニュース

画像提供:マイナビニュース
マイナビニュース

●Watsonに寄せる期待
ソフトバンクが開催したイベント『SoftBank World』においては、同社が今年2月に提携を発表したIBM Watson(以下、Watson)に関する複数の講演が行われた。そのうちの一つ、『Watsonが世界を変える Change the World』では、ソフトバンク 首席エヴァンジェリスト 中山五輪男氏が登壇。米国で行われたイベント『World of Watson』の視察報告としてデモや展示事例を紹介し、ロボットとの組み合わせによる今後の可能性を語った。

○Watsonアプリケーションの事例

人工知能はこれまで1960年代・1980年代にもブームがあったが、ハードウェア的な制約で十分に活用できる性能にはならなかった。しかし第3次ブームを迎えた現在、人工知能は今度こそビジネスの世界で大きく使われるようになると、中山氏は述べた。

中山氏が視察した『World of Watson』は今年5月にニューヨークで行われ、世界中から約1,000人が参加し、米IBM シニアバイスプレジデントのマイク・ローディン氏をはじめとする数々の講演やデモ、展示が行われた。その中から今回は中山氏が注目した2つのデモと7つのアプリケーションが紹介された。

最初に紹介されたのは、eyeQという企業が提供するアプリケーションによる「Personality Insight」のデモ。自転車店を例に、来店客をカメラで認識、年代・性別・表情を読み取る、来店客がサイネージに自分のTwitterアカウントを入力、ツイートの内容から趣味趣向・ライフスタイルなどを分析、適した商品を提案する、という内容だ。こうした手法によるパーソナリティー分析は、端末との組み合わせにより非常に広い範囲に応用できる可能性がある。

もう一つは、IBMが今年2月に追加した開発者向けサービスのひとつ「Speech to Text」を活用した映像編集のデモ。TEDカンファレンスの膨大な映像を事前にWatsonに読み込ませ、Speech to Textにより音声をテキストに変換。これを専用のアプリとひもづけることで、任意のテーマについて語られている部分をキーワード検索で選び出すことができる。さらにその重要な部分を自動的につなげ、1本のハイライト映像にまとめることも可能だという。会議・学会などの記録や映像編集業務など、こちらも応用範囲は広そうだ。

●人工知能とロボットが変える未来像
続いて、ベンダーの展示から注目した製品と、中山氏が考えるその応用の可能性が紹介された。

CRUSHBANK
「『CRUSHBANK』は、膨大なマニュアルから曖昧な言葉による質問で的確な回答を示してくれるシステム。すでにMicrosoftやCiscoのマニュアルを格納したものがクラウドサービスとして販売されている。エンジニアに限らず、航空や鉄道などマニュアル参照の多い分野でも導入効果があるのではないか」|

GO MOMENT
「『GO MOMENT』は、ホテルを対象にした宿泊客向けの問い合わせ対応システム。スマートフォンのメッセージングアプリのようなインタフェースで、『近くにあるお勧めのレストランは?』など、あいまいな質問にも的確な回答をしてくれる。大規模なリアル店舗等で、Pepperやサイネージを端末にした売り場案内に使えるのでは」

GoFetchCode
「『GoFetchCode』はビルや住宅建築における様々な建築基準を調査するシステム。地域特化の建築基準をデータベースに入れ、複雑な条件に適合するかどうかが瞬時に分かる。特に地震の多いカリフォルニア州の建築関係企業からのニーズが高いそという。日本なら市役所や税務署などで、行政サービスや確定申告に対する問い合わせ対応にも使えるのでは」

Servian
「『Servian』は、退職予定者と就職希望者のパーソナリティーをグラフ化し、比較できるシステム。メールのやり取りやSNSへの書き込みを元に、文章構成、内容、言葉遣いなどから個人の特性を分析。前向きな人か、どれくらい自分の感情を抑えられるか、などがわかる。人材派遣会社や企業の人事課ではすぐにでも活用したいサービスでしょう」

NOVABASE
「『NOVABASE』は顧客の行動パターンや過去にやり取りしたメールなどから嗜好を判断し、的確な商品やサービスを提案するシステム。展示内容は金融系企業に特化されたものでした。日本なら企業を顧客とする中小企業診断士などが、企業業績や地域特性などを基にした施策のコンサルティングを行うことにも活用できるのでは」

hc1.com
「『hc1.com』は、患者の通院率アップをはかる医療機関向けのシステム。保険の種類や投薬状況などから患者の通院パターンを分析し、通院率の高い患者との比較により通院継続につながるアプローチを行うことができます。日本の病院で使われることはなさそうですが、例えば学校で過去の行動パターンから不登校になりそうな生徒を事前に把握することができれば、対策に役立てられるのでは」

Perficient
「ビジネス最適化システムなどを提供する『Perficient』では、Watsonによる事故発生予測に取り組んでいる。過去の事故案件や関係者のメール、気象情報などから、今後どんな事故がいつ起きるのか、その確率や被害を予測する。予測だけでなく、現在の仕事場の安全管理が十分かどうか判断することも可能だ」

○ロボットと人工知能

続いて中山氏は、人工知能とロボットとの関わりについて述べた。かつてソニーが発売したAIBOは残念ながら知的ロボットではなかったが、現在は世界で様々な知的ロボットが開発されている。例として挙げられたのが、「JIBO」「Musio」「CogniToys」だ。CogniToysは通信でWatsonと接続することで、会話をしながら相手の年齢・知的レベルを解析し、それに合わせた会話を行うことができるオモチャとして企画され、Kickstarterで大きな注目を集めた。

あぷり また、フランスのアルデバランロボティクス社が開発したNAOを使い、自分に自信の持てない子供がロボットに字を教えることで自信を持てるようになることを、スイス連邦工科大学の研究者らが発見した。中山氏は「先生役になることで学ぶことができるという、逆転の発想が参考になった」と言う。

紹介された様々な事例から、人工知能とロボットが組み合わされることによる大きな変革が目前に迫っていることがリアルに感じられる講演となった。

(笠井美史乃)