京都府警が承諾なしにバッグの中身を調べたことは違法――。覚せい剤所持容疑で逮捕・起訴されたものの、無罪判決を受けた男性が京都府に対して慰謝料を求めた裁判で、京都地裁は7月17日、府に154万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
報道によると、男性は2009年7月、京都府警宇治署の署員に同市内の駐車場で職務質問を受け、拒否しているのに強引にバッグを開けられた。令状はなかったが、覚せい剤が発見され、覚せい剤所持の容疑で現行犯逮捕された。その後の尿検査で覚せい剤の使用も確認された。しかし、この事件の裁判では、職務質問が違法だったことを理由に無罪判決を受けたのだ。
覚せい剤の所持と使用が確認されているのに、無罪判決を受け、損害賠償まで認められたことについて、ネットでは驚きや疑問の声があがっている。一般的に、職務質問や所持品検査が違法だとして無罪になるのは、どんな理由があるのだろうか。刑事手続きに詳しい平賀睦夫弁護士に聞いた。
●同意・承諾がない場合、職務質問や所持品検査が違法に「警察官は、自由に職務質問をしたり、対象者の所持品を調べてよいわけではありません」
平賀弁護士はこのように述べる。では、どんな場合にできるのだろうか。
「警察官は、対象者の異常な挙動や、周囲の事情から合理的に判断して、何らかの犯罪に関連していそうな者を停止させて質問することができます(警職法2条1項)。ただし、これはあくまで任意捜査の一環であり、対象者の承諾を得て行うことが原則です。
『所持品検査』は、職務質問に付随して行われますが、これも原則として所持人の承諾を得て行うべきものです。強制できるわけではありません。
刑事訴訟法の規定による強制的捜査や身柄拘束が認められない場合である限り、どちらも任意の行為です。質問に答えることも、所持品検査を拒否することも、本来対象者の自由です。
そのため、一般的には、相手方の同意・承諾を得ることなく答弁を強要し、警察署等に連行して身体を拘束したと判断される場合は、職務質問や所持品検査が違法となります」
●裁判所には「正しい手続き」を行うことが求められている。だが、犯罪のたしかな証拠が発見されているのに、無罪になるのはなぜなのか。
「たしかに、本件の被告人は、覚せい剤を所持しており、採尿結果も証拠として提出されていたようです。犯罪そのものの成立は明らかなケースといえるでしょう。
しかし、裁判所の役割は、犯罪者を処罰することだけでなく、手続き的にも正しい裁判を行うことにもあります。
憲法31条は、『何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない』と定めています。
国民の権利を守るために、国家権力が法定の手続を厳格に守るべきことを定めているのです。裁判所も守る義務がありますし、警察・検察は正当な法手続を実現する義務を負っています。
このように考えれば、違法な職務質問や所持品検査に基づく裁判では、たとえ決定的な証拠があったとしても、無罪の判決が出ることは、当然だと言わなければいけません。
また、憲法40条では、『何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる』と刑事補償を受けることができることが定められています。無罪とされた人に賠償金が出ることも、何らおかしいことではありません。
久しぶりに、痛快な判決だと感じました」
平賀弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
平賀 睦夫(ひらが・むつお)弁護士
東京弁護士会所属。日弁連・人権擁護委員会、同・懲戒委員会各委員、最高裁判所司法研修所・刑事弁護教官等歴任。現在、(公財)日弁連交通事故相談センター評議員、(一財)自賠責保険・共済紛争処理機構監事、日本交通法学会理事等
事務所名:平賀睦夫法律事務所
事務所URL:http://www.houritsujimusyo.com