日本はもう熱帯なのではないかーー。全国各地で連日猛暑が続き、最高気温がおおむね35度以上になる時に発令される「高温注意情報」の警報に慣れてきた人も多いかもしれない。消防庁によると、7月26〜8月2日の1週間に、全国で11672人もの人が熱中症のために救急搬送された。そのうち、25人が搬送時に亡くなったそうだ。
しかし、この暑さの中でも、長袖のスーツを着込み、滝のような汗を流してオフィス街を歩く営業マンたちをみかける。外回りの営業マンにむけたネットの「熱中症対策」情報をみると、経口補水液を携帯したり、体温が上がらないよう昼食を控えめにするなどの必死の努力が伝わってくる。
このようにスーツ姿で外回りをする営業職の社員を「熱中症」から守るために、会社には何らかの義務があるのだろうか? 労働問題にくわしい吉成 安友弁護士にきいた。
●建設業や製造業に比べると「熱中症リスク」は低い「会社が自発的に細かい規定を作って、労働者の熱中症予防に積極的に配慮することはよいことだと思います。しかし、一概にそうした細かい規定を作る義務があるとまでは言えないでしょう」
なぜだろうか?
「厚労省が公表しているデータでは、熱中症による傷病者(休業4日以上)は、建設業や製造業などに多く、具体的事例としても建設業が中心に掲載されていますが、営業上の外回り業務については直接的な言及がありません。
建設業等では、業態として、炎天下の高温多湿作業場所で作業することが避けられず、WBGT値(暑さ指数)の低減対策が困難であることが多いと考えられます。一方で、一般に営業上の外回り業務では、自動車、公共交通機関、訪問先の建物内等では冷房が効いており、必ずしも、絶え間なく高温多湿の状況下に置かれるわけではないといえます。身体的な負荷の点などから考えても、一般論としては、建設業などに比べればリスクは低いものと考えられます。
厚労省が、都道府県の労働局長に宛てた通達である『平成27年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について』においても、具体的な対策を挙げて実施を求めている対象業種は、建設業等及び製造業です。
この通達にしても、企業に細かい規定を作れというわけではありませんし、少なくとも、外回り業務の熱中症対策について、企業が細かい規定を作ることが義務だという社会的なコンセンサスはいまだ形成されていないと思います」
●労働者の健康状態を考慮して「無理な労働」はさせないでは、企業は何もしなくてもよいということだろうか。
「だからといって、対策が不要ということではありません。労働者の健康に配慮することは業種を問わず必要なことです。もし、熱中症の発症が予見されるのに適切な対策を行わず、労働者が熱中症になれば、企業に責任が生じます。厚労省も、建設業等や製造業以外の事業場についても、状況に応じ、必要な啓発・指導の実施を求めています」
会社はどのような対策を実施すべきか?
「労働者を啓発、指導をするとともに、労働者の健康状態を把握して、体調、体質、気象条件、業務内容等も考慮して、無理な労働をさせないことです。
特に、既に疾患を有している労働者については、要注意です。糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等の疾患を有する場合などは、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあるとされますから、業務の可否や業務時の留意事項等について、産業医等の意見を聞いたりもすべきでしょう。
また、熱中症対策としては、水分、塩分不足の摂取が非常に大事です。水分、塩分の不足は自覚症状がなかったりもするので、日頃から十分注意喚起をすべきでしょう。高温多湿な状況での長時間移動が繰替えされるような場合は、水分、塩分の摂取確認表を作成するなどといった建築業などに準じた対策をすべき場合もあるでしょう」
まだまだ暑さは続く。働く者はそれぞれ自己管理を徹底する一方、企業も、労働者の健康に配慮した対応をする必要がありそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
吉成 安友(よしなり・やすとも)弁護士
東京弁護士会会員。企業法務全般から、医療過誤、知財、離婚、相続、刑事弁護、消費者問題、交通事故、行政訴訟、労働問題等幅広く取り扱う。特に交渉、訴訟案件を得意とする。
事務所名:MYパートナーズ法律事務所
事務所URL:http://www.myp-lo.com/