ユネスコの世界文化遺産の登録を目指す国内候補として、文化審議会は7月下旬、福岡県の「沖ノ島」(宗像・沖ノ島と関連遺産群)を推薦することを決めた。沖ノ島は、女性の立ち入りを禁止する「女人禁制」の風習が残る島として知られる。来年2月1日までに、政府が正式な推薦書をユネスコに提出する予定で、2017年夏ごろに登録の可否が決定する。
玄界灘に浮かぶ沖ノ島は、島全体が宗像大社の境内地で、古くから「神が住む島」として信仰の対象だ。住人はおらず、宗像大社の神職が島に入ることを許されている。一般人は年1回かぎり、抽選によって上陸が認められているが、「女人禁制」であるため、女性が立ち入ることは禁じられている。
だが、今回の報道を受けて、「沖ノ島に入ってみたかった」とツイッターに投稿した女性もいる。今後、世界文化遺産の登録に向けて「女人禁制を解禁すべき」という声が出てくるかもしれない。女人禁制というのは「女性差別」とも思えるが、裁判に訴えるなどして、女性が「沖ノ島への立ち入り」を実現することは可能だろうか。村上英樹弁護士に聞いた。
●「憲法違反として違法だと主張することは難しい」「女性が『沖ノ島への立ち入り』を求めた場合、宗像大社が認めなければ、立ち入りできません」
村上弁護士はこう述べる。性別によって、島への立ち入りを制限することに問題はないのだろうか。
「性別による差別を禁止する『憲法14条』に違反するのではないか、という捉え方はありえます。
ただ、憲法は基本的に、公権力(国や地方自治体など)と私人(国民、私企業など)との関係で適用されるものです。国や地方自治体ではなく、私人である宗像大社やその祭事について、憲法14条が直接適用されるわけではありません。
ですから、女性が『沖ノ島への立ち入り』を求めた場合、宗像大社が拒んだとしても、『憲法違反として違法だ』と主張することは難しいでしょう」
●伝統と人権の兼ね合いから・・・法的に「立ち入り」を実現することは難しいということか。
「公権力と私人の関係ではなく、私人間の関係(一般企業と個人など)だとしても、あまりに不合理な差別があれば、『違法である』と裁判所が判断することもあります。
企業の定年が男女で区別されていたことについて、そのような定めを無効と判断した日産自動車事件(最高裁昭和56年3月24日判決)などがその例です。
しかし、沖ノ島は島自体の存在が特殊です。宗像大社やその祭事との関係を別にして判断しがたい部分があると思われます。単純に『不合理な差別』と言いがたいです。
その意味では、現在、女性が『沖ノ島への立ち入り』を法的に実現するのは難しいと思います」
文化庁によると、ユネスコの文化遺産には、「女人禁制」など、限られた人しか入れない場所が登録された例がこれまでにもあるという。
「もし、世界遺産に登録されれば、今後これまでの風習や伝統の維持と、現代的な人権のあり方(男女平等等の価値観)との兼ね合いを考えて、沖ノ島へのアクセスのあり方が再検討されることもあるかもしれません。
その中で、女性が『沖ノ島へ立ち入る』ことが認められる方向に変わっていく可能性もあるでしょう」
村上弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、家事事件(相続、離婚など)、倒産事件を取り扱い、最近では、交通事故、労働災害、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL:http://www.kobeseaside-lawoffice.com