朴槿恵大統領の妹、朴槿令(クンリョン)氏がインタビューで発した「親日」発言が波紋を広げている。
朴槿令氏は今年で50年の節目を迎える日韓基本条約を締結し、「漢江の奇跡」といわれる経済発展を成し遂げた朴正熙・元大統領の三女(*)。インタビューは「ニコニコ生放送」を運営する、ドワンゴの取材に応じて事前収録された。戦後70年を迎えた今夏、良好とはいえない両国の関係、そして反日路線を突き進むあの朴槿恵大統領の妹だけにさぞかし辛口の日本批判が語られると思いきや“正論”を展開した。
【*槿恵・槿令の両氏は朴正熙・元大統領の2番目の妻・陸英修氏との間の子であり、前妻との間に姉がいた】
まず慰安婦問題について槿令氏は、「もう隣人の責任を追及してはいけません。自分たちこそが自分の母や祖母、姉を支えるべきです」
とコメント。安倍首相の「戦後70年談話」が取り沙汰される状況にも言及し、「首相が代わるたびに謝罪を要求する。それは他国から見ればご近所同士の喧嘩と同じで恥ずかしいこと」と韓国の対応を非難した。
首相の靖国神社参拝についても、「内政干渉だ」とキッパリ。「子孫として墓参りをするのは当然。安倍首相が靖国参拝したからといって戦争をしたいと考えているとは思わない」と話した。
当然、韓国ではこの発言を火種に論争が起こっている。先月末、事前に放送内容を掴んだ韓国メディアが報じた直後から、野党が「いくらなんでもこんな妄言はない。大統領の妹が持って良い歴史観なのか」と一斉批判し、保守系の市民団体が日本大使館前で抗議集会を開いた。
韓国の世論も過敏に反応した。同国内の世論調査会社によれば、槿令氏の「親日発言」の影響で大統領の支持率が前の週よりおよそ2ポイント低い34.9%に下落した。
4日のインタビュー配信後も、韓国メディアは槿令氏が過去の歴史問題を語るなかで「昭和天皇」と表現し、韓国で呼称される「日王」を使用しなかったことなどへの不快感を示した。韓国政治に詳しい札幌学院大学の清水敏行教授が指摘する。
「就任直後50%を超えた朴槿恵大統領の支持率は昨年のセウォル号沈没事故の対応ミスや今年6月のMERS対策の不手際、韓国経済の低迷によって30%台に急落していた。私人の発言とはいえ、大統領の妹となれば政治的なダメージは大きく、今後さらに低下することが予想されます」
実際、韓国民が朴槿恵大統領に向ける視線は厳しく「MERS対応も失敗し、妹の管理もできない」、「妹が親日なら姉も親日ではないのか」など批判が飛び交っている。
今回のインタビュー取材について、韓国最大のニュース専門チャンネルYTNの取材に対して槿令氏は、
「戦後70年と日韓国交正常化50周年にあたり、日本側から要請があった。日韓国交正常化を推進した朴正熙・元大統領の娘であるとのことを理由に、夫(韓国・共和党総裁で政治活動家のシン・ドンウク氏)を通じて取材依頼があった」
と述べている。前述の放送でインタビュアーを務めたジャーナリストの津田大介氏はこう語る。
「日韓問題を検証する企画の一環として彼女にオファーしました。槿令氏は作曲家としての文化交流を通じて日本とも親交が深く、そうした縁があったため、インタビューが実現しました」
※週刊ポスト2015年8月21・28日号