未来を切り開く鍵は、意外な所に
20世紀において、石油は黒い黄金と呼ばれ重宝されました。しかし21世紀に入って15年、我々は新しい燃料と出会おうとしているのかも知れません。青緑色で時に臭く、下水にいて、ジェットエンジンを動かす事ができるもの。藻です。
正確に言うと、微細藻類です。緑色の汚れや水に浮かぶ髪の毛にも見えますが、これらは顕微鏡レベルの単細胞生物で、植物同様に光合成を行います。太陽光をエネルギーに変えるだけでなく、発電所や車から出る二酸化炭素を吸って酸素を作りだします。太陽光で動いて空気を洗浄する…石油後の未来には最適と言えますね。
しかし、微細藻類の真の魅力は、燃料を作りだす能力です。微細藻類の中にはエネルギーを貯めこむために油を作り出すものがいます。科学者達は、その油を車やトラック、列車や飛行機の為の燃料に変える事ができるのです。この方法だと、微細藻類が燃料として排出する二酸化炭素の量と、新たな燃料として育つために吸収する二酸化炭素の量が同じになる為、カーボンニュートラルとなり、化石燃料より環境に優しくなります。しかも藻は再生可能な資源なため、これからいくらでも作り出せるのです。
このシステムの効率の高さは米国エネルギー省にも認められており、微細藻燃料はディーゼルに頼る機械全てを動かすようになるだろうと評価しています。
まるでSFの世界の夢のような話ですが、そうではありません。既に実現しているのです。2011年には、ユナイテッド航空が世界初の微細藻燃料旅客機をシカゴからヒューストンまで飛ばしました。
我らが日本も藻をバイオ燃料として研究しています。安倍首相にもお気に入りのベンチャーと評価された、株式会社ユーグレナはいすゞと協力して微細藻燃料で走るバスを開発しています。また、2020年の東京オリンピックに合わせて、微細藻燃料のみで動く独自の旅客機も計画しています。
米国では、藻を使ったバイオ燃料の研究は70年代から進められていましたが、エネルギー省などからの援助が増えたのは過去6年間ほどです。
この突然の関心は何なのか?それは数多い利点に注目が集まっている為です。
研究者達は、そのエネルギーを作り出す能力と高い増殖率(数時間で倍に増えます)を有効に使えないかと考えています。
「近い将来商用化する事を目標にしています」とは株式会社ユーグレナの 椋木(むくのき)直人さん。「ユーグレナから抽出した燃料はとても軽量で、空の低気温でも固形化しません。これは現在使われているジェット燃料、ケロシンと同じ性質です」ということは、大量に排気ガスを排出する飛行機がカーボンニュートラルになれるという事で、環境に対する影響が今よりかなり小さくなるのです。更なるプラスとして、藻は他のものが一切育てられない環境、汽水や下水でも育てる事ができます。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の藻培養池
例えば、発電所の隣に藻の培養池を設置し、発電所から排出された二酸化炭素を利用して藻を育てる事ができます。当然ながらこの燃料は国内生産できるので、輸入にかかる莫大なコストをカットしつつ自然環境の改善も同時に行えるわけです。
他のバイオ燃料と比べても抜きん出ています。例えばトウモロコシベースのエタノール。農作物によるバイオ燃料は既に車などにも使われていますが、エネルギー省によれば1エーカー(約0.4ヘクタール)あたりのオイルの生産量では微細藻類は農作物の最大60倍とされており、研究者の中には、藻の生産性は農作物性バイオ燃料の10倍から100倍高いとまで考えている人もいるようです。
あ、でも汚い金魚の水槽を使ってエネルギー危機を解決しようとしているなら、ちょっと待って下さい。まだそこまで単純ではないんです。
じゃあどうしてまだ普及していないんでしょう? その辺の池から掬って車の燃料にできればいいのに。方法論はすでに確立しているので、その先の障害は想像できると思います。お金です。
バイオ燃料として利用できる油を作り出す種類の微細藻を大量生産するのは、現時点では非常にコストがかかります。なので、科学者達はもっとも効率の良い方法を模索しています。具体的に言うと、環境的なストレスに耐えて尚且つ油をたくさん作り出す種類を探しているのです。
ここにもう一つ問題があります。どんな藻でもドリームライナーを動かせるわけではないのです。スーパー微細藻類を探すため、科学者達は株同定と呼ばれるプロセスを使用しています。その特定の藻を早く且つ大規模に生産できるようになれば、商用化に大きく前進できるでしょう。
エネルギー省、バイオエネルギー技術室のプログラムマネージャーを務めるAlison Goss Eng氏は、微細藻燃料を1ガロン(約3.7リットル)あたり3ドル(約370円)にするのが目標だそうです。「ガソリンとも競争しえる物だと私達は考えていますし、向こう数十年で微細藻燃料をそこまで持っていけるでしょう。その為に必要なのは藻の生産性をあげる事です。量をとにかく増やさなければなりません。」
カリフォルニア大学サンディエゴ校、Susan Golden氏の研究室で培養されている藻
研究者たちは現在、選んだ株に遺伝子組み換えを施し、可能な限り油を生産させるために、環境を変えてストレステストを課しています。この過程を株改良と呼び、どういった状況が一番多く、強い藻を作り出すのかを調べる事ができます。最適な水の温度や、光の量といった事ですね。
これらの実験は、最も強い藻を最速で作るにはどこに最大限投資すべきかを判断する参考になります。実験は開放型の培養池でも、好光性反応器―密閉されたチューブやビニール袋でも行われています。
Eng氏によると、油を燃料に変えるのは非常に高価なので、現在彼女のチームは藻に特化した企業や研究施設と提携し、最も効率よく変換する方法を研究しているそうです。藻の秘密を解読できれば、エネルギー危機を防げるかも知れません。
藻は単なる夢の燃料ではありません。スキンケア商品やオメガ3が豊富な粉ミルク、家畜の餌、化学プロセッシング等、可能性は無限大です。
無限大は決して大げさな表現ではありません。カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者が4月に発表したように、サーフボードですら藻で開発できるのです。発泡ポリウレタンという形で、石油はサーフボードにも使われてきました。しかし藻の油を使う事で柔軟性が増し、より優れたボードが作れるのです。何より、環境に悪い石油を使う必要がなくなります。それだけでなく、より人間に近い自然な動きをする柔軟なロボットも、藻を使う事で作れるようになります。
早速、日常用品全てに魔法の藻油を使いたいところですが、その前に生産コストを下げる必要があります。それこそ研究者達の今一番の障害です。
Eng氏は、この先10年、20年で積極的な生産性を目指しているそうです。もっと最近では、1エーカーあたりの藻の生産を2022年までに5,000ガロン(約19,000リットル)まで高める事を目標にしています。簡単な事ではないし、なにより安い計画ではありません。
しかし、急速に成長している技術が、大統領、首相、大手大学や航空会社集合体から応援を貰えば―微細藻類は既に貰っていますし―あとはひたすら進歩していくのみです。
エコを目指すのは簡単ではありません。でも、いつか必ず報われるはずです。
image by Jim Cooke
Bryan Lufkin - Gizmodo US[原文]
(scheme_a)