ケーブルテレビの職員が現れるのをずっと待っている時の苛立ちや、タクシーに乗車してからクレジットカードでの支払いができないと言われた時の失望感を考えてみて欲しい。国外でスマートフォンからテキストメッセージを送ったり通信したりするのに高額な料金を請求された時はどうだろうか?
あなたにとってもこの状況は身近なことだろう。
コンシューマーにとっての良いニュースは、ここ数年で、このようなストレスを感じる場面に多数のスタートアップが着目したことだ。既存ビジネスでも良いアイディアを思いついた企業もあるだろう。これらの企業は、既存業界がカスタマーのニーズに基いてではなく、自社の運営のための条件を満たすためにビジネスを行っていることに気が付いている。新しく登場したビジネスは、カスタマーが既存ビジネスを嫌悪していることを上手く利用し、マーケットシェアを一気に勝ち取ることができた。そして、他の競合他社の基盤を揺さぶっている。
イノベーションは、市場に興味深い変革をもたらす。それまで業界を占有していた企業を突然、競合他社とビジネスを巡って戦わなくてはならなくなる状況に追い込むのだ。
多くの場合これらの企業は、カスタマーを獲得して市場を長いこと支配してきた。市場を刷新するような企業が登場するとカスタマーは喜んでそちらに移って行く。従来の企業は、様々な面において新興企業に追いつくことに苦戦する。
どのセクターも、インターネット、モバイル、安価なクラウドのリソースによってもたらされるテクノロジーの大波による影響を受ける運命だ。これはどの業界も大きく変えるような波だ。
カスタマーを意識したビジネスでないのなら、この変化に対応することはできない。ユーザーにそのビジネスに忠誠を尽くすモチベーションが無いということなのだから。
ケーブルテレビ業界は、最も代表的な自治体の関連する独占市場の例だ。この業界にとってこれまで、カスタマーは何ら問題ではなかった。80年代や90年代、ケーブルテレビ市場が創設された時、企業は個別のカスタマーではなく、自治体を獲得するために競い合った。企業が街や地域を獲得することができたのなら、永久にその場所は彼らの物となり、確実な領地を手に入れることができた。
カスタマーを意識したビジネスでないのなら、この変化に対応することはできない。ユーザーにそのビジネスに忠誠を尽くすモチベーションが無いということなのだから。
ほんの少しの競合しかない、あるいは全く競合の恐れがない場合、カスタマーの獲得はいとも簡単なことだった。一度獲得したら、ユーザーの課題に対応したり、価格を下げたりするメリットはわずかだ。ユーザーが何をすると言うのだろうか?他の選択肢がないのに乗り換えることはできない。
企業が大きくなるにつれ、コンシューマーのストレスを高まった。企業は、カスタマーを満足させることより、領地を守ることだけに執着したからだ。
クラウドのインフラのプロバイダーを見てみると、開かれた市場の健やかな競争がある場合とではどう違うかが分かる。そこには、大小様々なベンダーがせめぎ合っている。Amazon、Microsoft、Google、IBMや他にも多くある。つい最近も Alibabaが10億ドルを投資し、この市場でのプレイヤーとして名乗りを挙げた。これは様々な企業が価格、幅広いサービス、カスタマー対応で競っていることを示す。
競争は価格を引き下げ、これまでにないほどイノベーションを加速させた。勝利を収め、継続的にビジネスを運営するための絶え間ない努力が行われている。更に、サブスクリプションモデルが浸透し、カスタマーが比較的簡単にプロバイダーを変えることができるようになれば、ビジネスはよりクライアントに意識を向ける必要が出てくる。
ケーブルテレビ業界のような競合が少ない業界では、このようなモチベーションが欠如するため、カスタマーサービスは悪化しやすい。
市場を崩壊させてしまうような企業が現れると、既存企業の最初の反応は、市場の占有を保つために政府に泣きつくことだ。タクシー業界も、自治体の庇護を受けて独占状態を楽しんだが、Uber(他の乗車共有サービスのLyftなどを含め)といった人気の競合他社が市場に参戦した時、彼らは身を守る道を選んだ。それに各地の政府は様々な反応を示している。
例えば、7月にパリではタクシー運転手がストライキを行った。政府は、Uberの役員が違法なタクシー運営を行ったとして逮捕状を請求した。
マサチューセッツ州、ケンブリッジでもタクシードライバーが同様のストライキを今月の始めに1日かけて行った。しかし、ここの政府は彼らに同情的な反応を示すことはなかった。Boston Globeの記事によるとケンブリッジの市議会議員であるNadeem Mazenはタクシードライバーに対し、「Uberを支持する有権者が大多数で、あなたたちは少数派であることには気が付いているのですよね?」と苛立ちを見せながら言ったそうだ。
タクシードライバーは独占を失ったことに抗議する中、タクシー業界は国会議員などに対してロビー活動を通して救いを求めている。このアプローチはカスタマーを更に苛立たせるだろう。彼らはビジネスを保つのにクリエイティブな方法を探そうとはせず、法の助けを求めているのだから。カスタマーはそれを見抜いている。
市場を支配している業界が法に訴えるルートで勝つ場合もある。テレビ放映の方法を変更しようとしたAeroのように最高裁判所の規制を受ける場合もある。
しかし、他の競合から逃れることはできないかもしれない。最近、ケーブルテレビ会社は、Netflixのようなストリーミングサービスの競合他社と対峙しなければならなくなった。このようなサービスでは、コンピューター、タブレット、そしてChromecast、Apple TV、Amazon Fire TVやRokuといった端末を介してテレビでもコンテンツを視聴することができる。ストリーミングサービスの賢いオリジナルのコンテンツと安価な月額価格の組み合わせで、ユーザーはケーブルテレビに支払う価格より安価にエンターテイメントを得ることができることを知った。そして ケーブルテレビを解約し始めた。
そして今週上がった複数の報告から、一般的な有料テレビ会社に解約の影響が出始めていることが分かる。第二四半期だけで56万6000人のカスタマーがケーブルテレビを解約した。
現在の主要な通信事業者、特にVerizon(TechCrunchの親会社)とAT&Tは、複数の方面から競合の圧力を受けている。T-Mobileは、カスタマーに優しいプランを多数提供していて、正しいモチベーションがあれば、クリエイティブなビジネスアイディアは頑固な競合他社を追い込むことができることを証明した。(Verizonの解答は、契約期間があり、端末料金に割引が適用されるプランをなくすと先週発表した。)
他の方面では、自治体は無料Wifiとブロードバンドの提供を開始し、Googleのような企業も、既存の携帯電話プロバイダーのプランの代わりとなる手段を提供している。GoogleのProject Fiは特に、大手携帯通信プロバイダーへの警告だ。
月々たった20ドルで、通話とテキストメッセージが無制限に利用でき、国際間のテキストメッセージも無料で、120カ国で利用できる。データ1GB分をたった10ドルで購入できる。海外でも利用できるプランは、私が現在利用しているプロバイダーAT&Tと大きく差別化できている点だ。私の今のプランでは、海外での無制限のテキスト送信とたった120MBのデータ分を利用するのに30ドルもかかる。そのような少額を徐々に請求されることにカスタマーは苛立ちを覚えるだろう。
これを特定の業界だけで起きていて、自分たちには関係のない現象だと見過ごすこともできるが、実際にはどのビジネスセクターにも影響を与えている。
何度も何度も、企業のビジネス判断の時には、カスタマーを中核に置かなくてはならないと聞いているだろう。企業や産業が市場を占有している時、その事を忘れがちだ。そして市場の変革をもたらす企業が現れた時、この言葉の重要性を再認識するだろう。
残念ながら、一度失ったカスタマーのロイヤリティーを再度獲得することは難しい。ずっとそうしてこなければならなかったのだから。どの業界も、カスタマーのニーズを軽視したり、無視したりすれば、市場が刷新する時が訪れて痛みを知る。より良く、早いクリエイティブな代替手段を提供する企業が市場に登場した時、既存企業に不快な目覚めの時が訪れるだろう。
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