今年の就職活動の特徴は、採用内定の解禁が8月に後ろ倒しになったことだが、実際は8月前にも選考結果が出ていたようだ。リクルートキャリアの調査によると、来春卒業予定の大学生、大学院生の就職内定率が7月1日時点で49.6%だった。
ただ、8月にならないと正式な内定を出せないため、あいまいな対応のケースもあったようだ。ネットの掲示板には、今年6月の段階で「ほぼ内々定であるという話をいただきました」という学生の投稿があった。投稿者のケースでは、大手企業であるため、8月にも再び面接があるとのことだった。
投稿者は「8月に落とされるのではないかと不安に思っています」と打ち明けている。「内定」、「内々定」、「ほぼ内々定」といったものは法的にどう違うのか。「ほぼ内々定」という言葉に安心して、就職活動をやめても問題ないのか。近藤麻紀弁護士に聞いた。
●採用内定の取り消しは労働契約の解約になる近藤弁護士が解説する。
「何をもって就職活動をやめても問題ないといえるかは難しいですが、会社と労働契約が成立したといえる段階になったかどうかは1つの基準となるのではないかと思います」
その基準とはどのようなものだろうか。
「考え方はいろいろありますが、裁判例では、『採用内定』は、解約する権利が留保された労働契約の成立と解されています。
つまり、その取り消しは労働契約の解約となり、解約が無効となれば労働契約上の地位の確認を求めることができます。具体的な状況によりますが、実際に内定通知が来ていて、入社の誓約書も提出しているようなケースでは、労働契約が成立していると考えることができる場合が多いでしょう」
では、内定ではなく、内々定の場合はどうだろうか
「『採用内々定』では、労働契約成立は認められず、その取消が不当な場合、会社に損害賠償を求める余地があるかが問題になると考えられます。
ただ、実際のところ、『採用内定』か『採用内々定』かは、その名称に関わらず、どのような具体的なやりとりがされたかという事実から判断されますので、注意が必要です。実態として、労働契約が成立したといえる状況であるかどうかが重要なのです」
●実態が「採用内定」と同じかどうかでは、「ほぼ内々定」はどうだろうか。
「『ほぼ内々定』は、言葉どおりであれば、『採用内々定』にも至らない段階ですので、労働契約は成立しておらず、面接の結果、不運にも『内々定』とならなくても会社に対して労働契約上の地位の確認を求めることはできないと思いますが、手続上、正式な採用内定を出せないだけで、実態が採用内定と同様のやりとりがあった場合は、事情が異なるかもしれません。
例えば、入社を誓約させ他社への就職活動をやめるよう言われた等の事実があった場合、実態は『採用内定』として労働契約が成立し、『内々定』とならないことについても、実質は労働契約の解約としてその無効を争う余地がある場合もありうるかと思います」
近藤弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
近藤 麻紀(こんどう・まき)弁護士
2000年4月に弁護士登録。法律事務所と地方公共団体での勤務を経て、弁護士法人ベリーベスト法律事務所に入所。使用者側の人事・労務分野に関する相談・交渉・裁判対応を含む企業法務案件に従事する。
事務所名:弁護士法人ベリーベスト法律事務所