東京ビッグサイトで8月14日から始まった国内最大の同人誌即売会「コミックマーケット88」。約18万人が訪れた初日、会場の一角では、「TPPとコミケ」をテーマにしたシンポジウムが開かれた。漫画家の赤松健さんや中川隆太郎弁護士ら、同人活動や著作権制度に詳しい論客たちが、TPP(環太平洋連携協定)が2次創作などに与える影響について語り合った。
TPPと同人活動の関係については「著作権侵害の非親告罪化」が、大きな注目を集めている。だが、この日のシンポジウムでは、TPPで導入されるかもしれない「法定賠償金制度」について、パネリストたちが相次いで「恐怖」を表明した。
「法定賠償金制度」が導入されると、著作権者に訴えられた場合、実際の被害額よりも多い懲罰的な賠償金額が認められる可能性が出てくる。TPPの交渉は秘密裏に行われているため、公的情報はないが、これまでのリーク文書などによると、法定賠償金の導入にはどの国も反対していないとみられている。
●アメリカでは、1作品あたり最高15万ドル(約1860万円)シンポジウムでは、中川弁護士がこの制度の内容と問題点を、次のように解説した。
「リークによると、著作権侵害について、あらかじめ決められた金額の『法定賠償金』、あるいは『懲罰的賠償金』のどちらか、もしくは両方を入れなさいという決まりになっています。
金額についても、将来の侵害を防止する観点から、『被害を十分に補償するに足りる金額にしなければならない』とされています」
実際の損害よりも多い賠償金が認められるとして、それはどれぐらいの金額なのだろうか。
中川弁護士は「賠償金の額は、国内法をどういう法律にするか次第」としつつも、「仮にアメリカと同じ基準だったら、故意侵害の場合、1作品あたり最高で15万ドル(約1860万円)です。つまり、本当に作家が怒って訴えると、100万円単位の賠償が理論上はあり得ることになります」と解説した。
この額を聞いた赤松さんは「そんなになると、恐くて(同人活動を)やらないですよ。誰も・・・」と絶句していた。
この日のシンポでは「作家としては、同人活動をするファンをなかなか訴えにくいものだ」という意見も出ていたが、作家でコミックマーケット準備会のメンバーでもある松智洋さんは「作家本人が訴えなかったとしても、(著作権を相続した)遺族の方とか、作品に関係がなくなってくると恐いですね・・・」と話していた。
TPP条約の交渉は大詰めを迎えているとされるが、このまま決着するかどうかは、まだ予断を許さない状況だ。
中川弁護士は「神は細部に宿るといいますが、TPPにどういう条文が書き込まれるかはまだわかりません。TPP交渉はここからが勝負です。引き続き関心をもってください」と聴衆に呼びかけていた。
(弁護士ドットコムニュース)