王手、高飛車、成金…。これらは将棋用語から派生して、一般に広く使われるようになった言葉だ。もちろん、将棋には他にも数々の専門用語がある。その意味を覚えればプロ棋士の解説が理解できるようになり、いっそう将棋を楽しめるだろう。
そこで今回のコラムでは、よく使われる3つの将棋用語を紹介。具体的にイメージしやすいように、著名な棋士のエピソードをまじえて解説していく。
《Lesson1》 森内九段
「手厚い」とは、攻めの体制が多層的になっていたり、守りの陣形にスキがなかったりする状態のこと。「先手の攻撃陣は手厚い形なので、後手から先攻したい」といったふうに使われる。
手厚い棋風の代表格といえば、森内九段。同氏はタイトル戦の2日目の昼食としてカレーを注文することが多い。なぜなら、2日目の午後は最大の勝負どころ。対局に集中するために、どんな店でもハズレのないカレーを食べておくのだ。将棋と同じく、食事の選び方も手厚い。
《Lesson2》 渡辺棋王
「指しすぎ」とは、調子にのって攻めすぎてしまうこと。相手に正しく応じられると、形勢を悪化させてしまう指し手を形容する表現だ。「飛車先の歩だけでなく、端歩まで突き捨てたのは指しすぎ」といったふうに使われる。
渡辺棋王は食事でも“指しすぎ”に注意しており、「みろく庵」で肉豆腐定食を注文する際はみそ汁を抜いている。その理由は「汁ものである肉豆腐にみそ汁をつけるのは指しすぎ」と考えているからだ。このように繊細な感覚をもっているからこそ、指しすぎを回避して攻めをつなぐことができるのだろう。
《Lesson3》羽生名人
「味がいい」とは、おいしいという意味ではなく、後で効果が出るような指し手や駒の配置のこと。「銀取りと同時に守りにもきいた味のいい手です」といったふうに使われる。なお将棋界のダジャレ王・豊川七段の場合、「味よし道夫(有吉道夫九段のもじり)」と表現する。
日常生活にたとえると、趣味と仕事が関連すれば“味がいい”。驚くべきことに羽生名人の趣味はチェス!しかも日本ランキング1位!趣味(チェス)で息抜きをしながら、そこで得た感覚を仕事(将棋)にも活用できれば、非常に味がいい。
今回は棋界を代表する3名の棋士を例にとって将棋用語を解説してきた。これらの言葉を日常会話のなかで使えるようになれば、あなたも立派な将棋ツウだ。
(高橋雄輔)