アートディレクター・佐野研二郎氏(43才)が手がけた2020年開催の東京オリンピックの公式エンブレムがベルギーのリエージュ劇場のロゴと似ているという「パクリ騒動」は、拡大するばかり。佐野氏の過去の作品に対しても、「パクリ」があったのではないかと、ネット上では検証が続いている。
では、そもそもいったいどこからが“パクリ”なのか?
「法的にオリジナルのデザインを保護する権利は大きく分けて2つの種類があります。ひとつは産業財産権、もうひとつは著作権です。
前者は類似するデザインが登場することで、元になったデザインの商品が不利益を被ることを防ぐためにあります。ロゴやエンブレムであれば『商標権』、商品の形であれば『意匠権』を申請し、認められれば良いのです。逆に言えば、審査をクリアすれば、多くの場合、パクリではなくオリジナルの商品と認められたことになります。
一方で、著作権は特別な申請は必要なく、作品が生み出され、発表した時点で自分のものと主張できる権利です。しかし、著作権侵害を主張する場合は、著作権として保護に値すること、そして、相手が模倣したことで著作権が侵害されたという確たる証拠を提示して裁判で認められなければなりません」(長瀬佑志弁護士)
つまり、たとえ個人の物差しでは「パクリ」と思えるほど似ていたとしても、法的には「商標権」や「意匠権」の審査をクリアし、誰からも著作権の侵害を訴えられなければパクリとはならないのだ。
「佐野氏の五輪エンブレムがリエージュ劇場のロゴと酷似している件では、組織委員会側はリエージュ劇場のロゴが商標登録されていなかったことを明らかにし、佐野氏はロゴの制作プロセスを明らかにすることで模倣ではないことを主張しています。つまり、佐野氏側は法律的には“パクリ”に当たらないことをしっかりと説明できているんです」(全国紙社会部記者)
しかしリエージュ劇場とロゴをデザインしたデザイナーのオリビエ・ドビ氏は、国際オリンピック委員会(IOC)に対して五輪エンブレムの使用差し止めを求め、ベルギーの地裁に提訴した。それによって世界中の人たちから疑惑の目を向けられているのだ。
これまでも多くの人から注目されるデザインの場合、「パクリ」を疑われるケースは少なくない。五輪に限っても、リオの公式ロゴマークやソチの大会マスコットのひとつに盗作疑惑が浮上したことがあった。
「たとえ似ていたとしても、少しの違いが大きな意味を持つのがデザインの世界。今回のように訴えられてしまうのは、とても不幸なケースとしかいいようがないですね…」(あるデザイナー)
そんな背景もあって、佐野氏を擁護するデザイナー仲間は多かった。さらにネットニュース編集者の中川淳一郎氏は指摘する。
「佐野氏の釈明会見は、デザイナーとしては充分納得のいく説明で、法的にみても“正しい”ものだったのかもしれません。しかしデザイナーではない一般の人からしてみれば、問題にしている点は“似てる”という1点であって、法的に問題があるかないかではありません。悪くいってしまえば、クレームです。ネット上のクレームは一度火がついてしまうと、あっという間に拡散して、あたかも大多数の意見であるかのように見えてしまう。そして個人だけでなく、国や大企業もそれを恐れて過敏になって反応してしまうところが、社会の閉塞感を生んでいると思います」
ワイドショーのコメンテーターらは声をそろえて今回の件を批判する。インターネット上では相変わらず次なるパクリ探しの“ゲーム”が続いている。
今の日本はテレビのCMやドラマ、バラエティーの現場をはじめ、本や映画など表現の世界は過剰な“クレーム”に萎縮してしまっている。そこへきてデザインの世界まで一気に自主規制が進むかもしれない。
※女性セブン2015年9月3日号