広がり続ける3Dプリンターの可能性。
最近なにかと話題の3Dプリンティング。この技術によって従来では考えられなかったようなものまで作成できるようになりました。3Dプリンターを製造しているMakerBot社のCEOであるジョナサン・ジャグロム氏はこう言います。
3Dプリンティングはデジタルな世界とフィジカルな世界の架け橋になってくれる技術です。なんでも好きなものをデジタルな形でデザインし、それをすぐにフィジカルな形に落とし込めるのです。
そんな夢のような技術で作られたものたちを少し見ていきましょう。
3Dプリンターの出現によってドライバーの身体や嗜好に合わせた車のパーツが作成できるようになりました。先月フォーチュン誌が報じたところによると、大手自動車メーカーのフォードがカリフォルニアに拠点を置く3Dプリンティングに特化したベンチャー企業のCarbon3Dと手を組んだとのこと。これにより、フォードのエンジニアたちは3Dプリンティングを活用した製品開発を行なえるようになりました。3Dプリンターを使えばプロトタイプが
安価で手早く作成できるので、製品テストをより頻繁に行なえるというメリットがあるんです。
ハンドルやシートがシューズみたいにカスタマイズできたらうれしいですよね。
2月にはなんとオーストラリアの研究者たちが世界初の3Dプリントされたジェットエンジンを公開し、
航空業界でも3Dプリンティングが注目されはじめています。昨年3Dプリンティングの技術の採用をアナウンスしたエアバスによると、3Dプリンターで作られた素材を使用することで、重さを
55パーセントもカットできるというのです。
下の画像は3Dプリンターで作成された飛行機用の金具。実際に中型ワイドボディ旅客機のエアバスA350 XWBで使用されているのですが、機体がかなり軽くなり燃費もよくなったそうです。
先述したCarbon3Dのマーケティング・マネージャーであるKristine Relja氏によると3Dプリンターで作成された重合体は単位重量あたりの強度が大きいそうです。また同氏は、
例えば、シートのひじかけを全て比強度が大きい素材に交換すれば、機体全体の重量が減って燃費がよくなるのでコストがかからなくなります。
と語っており、これからますます航空業界で3Dプリンティングの技術が活用されていきそうですね。
今後3Dプリンティングの技術がかなり活躍しそうな分野をあげるとしたら
医療・ヘルスケアではないでしょうか。
インプラントなどその人に合わせた治療を施す際に役立ちそうです。当然ながら同じ身体をもつ人間なんていませんからね。例えば歯型。歯型をとるとき、いままでは型取り剤を口に流し込んでいましたよね。あれって本当に不快じゃありません? しばらく口を開いていなきゃいけないし、ドロドロとセメントみたいなやつを流し込まれるし…「オエッ」ってなりそうになった方も多いはず。
先述したMakerBotを保有する3Dプリンティング企業のStratasysは、この歯型取りのプロセスを3Dプリンターを用いることですべてデジタル化してくれるといいます。つまりもうあの不快な体験をしなくても済むんです!この技術により、歯科医はより安価で精度の高い歯型をつくることが可能になるそうです。
ステントは血管などの管状部分に使用される機器で、管の内側を広げて正常に器官が働く手助けをしてくれます。近年、この
ステントにも3Dプリンティングの技術が活かされはじめています。
デロイトメディカルセンターのミシガン小児病院では、大動脈瘤(大動脈が拡張してしまう疾患)を患う17歳の少女の治療に3Dプリンティングが使用されました。彼女の心臓は致命的な状態かもしれないことが心電図の結果で明らかになり、小林大介医師率いるチームは3Dプリンティングで彼女の心臓のモデルを作りました。これにより医師たちはどこにステントを入れればよいかを正確に把握することができ、手術のリスクを下げることができたのです。
また、ミシガン大学の医師たちが幼児の肺気道を広げるために3Dプリントされたステントで治療を施したという事例もあります。3Dプリンティングのおかげで幼児の身体に最適化されたステントを手早く安価で作成できたのです。下の写真が実際に使用されたものです。このように実際に触れられる形にすることで、どこにステント(赤枠部分)を入れるかが簡単にわかるようになるんですね。
3Dプリンターを使えば、複雑な形状をした分子のモデルも簡単に作成することができます。しかしそれだけではありません、なんと
分子そのものまでつくることができるというのです。
イリノイ大学のMartin Burke博士率いるチームは「分子生成マシーン」の開発に取り組んできました。この装置は複雑な分子をブロック状に分解し、それらを組み合わせることで新たな有機化合物を「プリントアウト」してしまいます。新しい薬品の開発などに役立ちそうな技術ですね。ここまでくると文字通り何でも3Dプリンターでつくれちゃいそう…!
複雑な分子の形状をプリントアウトするCarbon3Dの3Dプリンター
ファインスタイン医学研究所は3Dプリンティングと神経工学の技術を複合し、損傷した気管を補強するための装置を作成しました。3Dプリンターのインク注入用注射器に入れたのは
生きた細胞。数時間で人工気管は出来上がったといいます。プロトタイプを素早く作成できるので、こういった分野でも3Dプリンターは重宝されていきそうですね。
生きた細胞で3Dプリントされた人工気管。クレジット:Feinstein Institute
3Dプリンターで内蔵や骨をプリントアウトする…なんて未来もそう遠くはないかもしれません。実際に、
鼻や耳、目などを3Dプリンターでつくる研究が進められているんです。
心臓などの臓器を3Dプリントする研究も行なわれており、バイオプリンティングを扱う企業Organovoは3Dプリントされた肝臓組織の販売をはじめました。肝臓そのものを3Dプリントするまでの道のりはまだ遠そうですが、これは大きな一歩ですね。
また、義足や義手なども3Dプリンターで作られはじめています。アイアンマンやウルヴァリンなどキャラクターものの義肢なんかも3Dプリンターでつくられているようです。
装着してる子どももとてもうれしそう!
食べ物から家まで本当にありとあらゆるものがプリントできてしまう3Dプリンター。その使い道が問題になったりすることもありました。しかし、規制の方向に向かうのではなく、これからもこの義手のように革新的で楽しいアイディアが出てくればいいですね。
Top image by blekekin / shutterstock.com
Bryan Lufkin - Gizmodo US [原文]
(阿部慶次郎)