ニコニコ生放送「『ヘイトスピーチ』を考えよう」(2015年8月3日放送)全文書き起こし(1) | ニコニコニュース

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 「ニコニコドキュメンタリー」の第1弾、第三者の視点から日韓問題を描いた「タイズ・ザット・バインド~ジャパン・アンド・コリア~」の3回目の解説番組、「『ヘイトスピーチ』を考えよう」が2015年8月3日(月)22時から、ニコニコ生放送で配信されました。

 本ニュースでは、同番組の内容を以下の通り全文書き起こして紹介します。

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※出演者=話者表記
・鵜飼哲氏(一橋大学大学院 教授)=鵜飼
・江川紹子氏(ジャーナリスト)=江川
・中沢けい氏(作家)=中沢
・角谷浩一氏(MC/ジャーナリスト)=角谷
・松嶋初音氏(コネクター)=松嶋
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角谷:こんばんは、コネクターの角谷浩一です。

松嶋:松嶋初音です。「本当のことを知りたい」ということで、我がニコニコが総力を結集してこの夏スタートさせた、その名も「ニコニコドキュメンタリー」。第1弾は国際的な第三者の視点から日韓問題を描いたオリジナルドキュメンタリー、「タイズ・ザット・バインド~ジャパン・アンド・コリア~」、今夜はその解説番組の3回目、「ヘイトスピーチを考えよう」です。

 この問題ってなかなか一般のメディアは取り上げない気がするんですけど、それはなぜなんですか?

角谷:まず、放送の中には差別の問題に対して非常に敏感に反応するものがあります。それから、差別の中には差別用語といって、なかなか放送には使わないようにしている、使用禁止の言葉がいっぱいあったりします。そういったもので、これに対しての取り上げ方っていうのはとてもデリケートだということがあって、この問題について徹底的に討論しようっていうことはなかなかやりにくいということなのかもしれませんね。

 ただ、もちろんヘイトスピーチというふうな議論はここ数年起こっていますし、それからもう一つ、実は、日本の国内でこれをどうやってなくすようにするための法制化をするか、あしたから参議院で議論が始まるということなんですね。在日外国人への人種差別を禁止する法律案があしたから参議院で審議入りします。在日コリアンへのヘイトスピーチが社会問題化しているということは、国会議員の中でもいろいろな議論があります。人種差別の禁止を明記することで、差別防止や、国や自治体の責務は何なのかということを明確にしていくべきじゃないだろうかというふうなことになります。

 なぜならば、実は2020年にはオリンピックがありますね。実はオリンピックだけではなくてパラリンピックがあるんですけれども、パラリンピックは障害を持っている人たちが参加することになりますけれども、それもやっぱり障害者に対してのいわれなき中傷や差別というものはあるんですね。こういう問題もどういうふうにするかという問題もあるし、それからパラリンピックを成功させるためにはこの問題はやはり主催国である日本も向き合っていくということが必要と、こういった問題があるというふうなことは認識すべきポイントなのかなというふうに僕は考えます。

松嶋:わかりました。それでは、今夜のゲストの方々をご紹介していきましょう。ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク「のりこえねっと」の共同代表で、法政大学教授の中沢けいさん、よろしくお願いいたします。

角谷:よろしくお願いします。

中沢:こんばんは。よろしくお願いします。

松嶋:そして、一橋大学教授の鵜飼哲さん、よろしくお願いいたします。

鵜飼:よろしくお願いします。

角谷:よろしくお願いします。

松嶋:そして、ジャーナリストの江川紹子さんです。よろしくお願いいたします。

江川:よろしくお願いします。

松嶋:ということで、実は本当は『ヘイトスピーチ、「愛国者」たちの憎悪と暴力』の著者であります、ジャーナリストの安田さんにもお越しいただこうと思っていたんですが、残念ながらいらっしゃいません。それについては、先ほど安田さんご本人からメッセージが届きました。そちらをご覧ください。

安田浩一氏:(VTR出演)こんばんは。安田浩一です。本来ならば、きょうスタジオに生出演することになっていました。私は今中国に来ています。今夜、帰国してスタジオから皆様にメッセージをお伝えする予定だったんですけれども、中国に来ていますといろんなことがありまして、取材がなかなか進まなかったり、予定どおりにいかなかったりしたことがあまりにも多くて、まだ帰ることができずにいます。残念ながら、きょうはこういった形で、つまりビデオに撮って私のメッセージを皆様にお伝えしたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします。

 私は「差別や偏見のその先には殺戮があり、戦争がある」と書きましたけども、もちろんその言葉に私は今も自信を持ってというか、その言葉に間違いはないと深く自分で考えているところです。差別や偏見がこの社会に持ち込まれることによってどんなことが起きるのか。まず何よりも人間が壊れていく。そして、同時に地域が壊れていく。そして、人や地域が壊れていくということは、この社会全体が壊れていくのだと私はそのように思っています。

 「ヘイトスピーチがなぜいけないのか」と問われたら、それは誰かがかわいそうだから、ヘイトスピーチを受けた側、浴びた側がかわいそうだから私は反対しているわけじゃないんですね。もちろんそういう気持ちがないわけじゃない、しかし、何よりも今私が住んでいる社会が軋む音が聞こえることが私にとってはたえられない。そして、この社会に分断が持ち込まれ、社会が壊れていくことがたえられない。そして、この社会に住んでいるさまざまな人が壊れていくのが、傷ついていくのが私はたえられない。そうした思いで、やはりヘイトスピーチに私は反対しているわけです。

 したり顔で、例えば「差別には理由があるのだから」と述べる人が世の中にはいます。あるいは、したり顔で「差別というのは、そもそも人間の本性なんだから、差別などあって当たり前だ」と、そう述べる人もいるわけです。ふざけるなという気持ちが私は非常に大きいわけです。なぜならば、差別を肯定することによって、あるいは何か肯定すべき理由があるから差別が正当化されるという言説に対しては、私ははっきりと「それは違うのだ」と言い続けることが必要だと考えているわけです。差別の理由が存在する、つまり、私は理由が存在してはいけないと考えているわけですね。

 もし理由が正当化されるならば、そして理由が存在するならば、差別そのものが正当化されるというのであれば、これは国内の差別だけではなくて、世界中のあらゆる差別が正当化されてしまう、そのように私は考えているわけです。黒人差別も、ユダヤ人差別も、アラブ人差別も、そして私たち日本人を含むアジア人差別も、やはり理由が正当化されることによって差別も正当化されてしまう。だから、いかなる差別も理由があってはいけないし、理由が存在してはいけない、私はそのように考えているんですね。

 今幸いなことに、包括的に差別を禁止すべく法案が国会に提出され、そして、いよいよ審議が始まろうとしています。戦後の日本にとって、人種差別が議題となり、国会で審議されるというのは初めての経験だと思います。当然ながら、そこには表現の自由という問題で多くの議論が出てくるかもしれません。私も表現者の1人として、表現の自由は何よりも大切なものだと思っていますし、私自身、表現の自由ということをこれまで何度も口にしてきました。

 しかし、もし表現の自由がそんなに大事であるのならば、同時に考えなければならないこともあるはずなんですね。今表現を奪われているのは誰なのかということ、そして今沈黙を強いられ、そして言葉を奪われているのは誰なのかということを私たちはしっかりと考えるべきではないかと思っているんです。私たちは差別者の表現を守るのではなく、今表現を奪われている人の表現を取り戻す、そのことが大事なのではないか、僕はそのように強く思っているんですね。

 今必要なのは、ヘイトスピーチを、そして差別や偏見や排外主義といかに私たちは闘っていくのか、そしていかに社会からなくすための努力をしていけばいいのか、そうした議論がこれから出ることを強く望んでいます。私も一緒になって考え、一緒に議論をしていきたいと思っています。中国から皆様にこうした形でメッセージをお伝えいたします。安田浩一でした。どうもありがとうございます。

松嶋:安田さんもスタジオでもうちょっとちゃんとお話したかったでしょうね(笑)。

角谷:そうなんですね。書き込みの中に「逃げたな」というのがありましたけれども、そうじゃないんです。安田さんはこの番組をやることを十分想定して準備していたわけですけれども、どうしても日程的に厳しくなっていると。それについて事前に中国からメールをくださって、「どうも厳しいんだけれども」というふうな相談があった。ただ、「欠席ということになれば、当然安田さんが逃げちゃったんじゃないかというふうなことも言われますよ」ということで中国からメッセージを送ってもらって、これをお送りしたということになります。

 もちろん安田さんが言いたいことも十分話していただけましたので、法案の審議があしたから始まるということを安田さんも言っていましたけれども、2月に安倍総理はヘイトスピーチに対して批判をしました。これが法制化されるかどうかは今後の審議の行方次第ですけれども、やはりこういうふうな動きが出てきた、国会の中でこの動きを本格的にやらなければいけないというのは、やはり今までもあった国内の差別問題に対して本格的に法の規制をかける必要があるところに今あるのではないかという現実が、たぶん国会を動かそうとしているのではないかというふうに思います。

 きょうはお三方とこの議論をしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

松嶋:よろしくお願いします。そして、今夜もユーザーの皆様からメールを募集しております。コメントももちろんありがたいですが、ぜひともメールでしっかりと送っていただけるとありがたいです。また、Twitterをお使いの方はハッシュタグ、#nicohouをご利用ください。よろしくお願いいたします。

角谷:さて、ヘイトスピーチですけれども、「タイズ・ザット・バインド~ジャパン・アンド・コリア~エピソード1」では、あまりこの問題は出てきませんでした。

松嶋:そうでしたね。

角谷:でも、エピソード2では、実はこの問題にかなりの時間を割いて取り上げているんですね。どういった内容なのか、改めてエピソード2の予告編を見ていただこうと思います。

【エピソード2の予告編】http://live.nicovideo.jp/watch/lv227566870?po=news&ref=news#10:41

角谷:これがエピソード2の予告編なんですけれども、これもいろいろな問題を秘めているので、また改めてエピソード2、たっぷりご覧になっていただきたいと思います。その番組を見た翌日にもまた討論会をやる予定ですからね。

 さて、中沢さん、このヘイトスピーチですけれども、ヘイトスピーチの定義とか、「ヘイトスピーチとは何か」という場合には、どんなふうに説明すればいいんでしょうか。

中沢:基本的には国連の人権条約に定義されている定義でよろしいと思うんです。安田さんがいてくれると思うから、すっかりおんぶに抱っこで予習していない(笑)。ただ、簡単に言うと、社会的なマイノリティに対する憎悪を扇動する表現、差別を扇動する表現で。ポイントは2つで、対象がマイノリティだっていうことです。それから、もう一つは憎悪や差別を扇動するってことですね。この2つがポイントです。

 例えば、過去に日本人がそうしたヘイトスピーチを浴びて大変な被害を受けたって例が米国にはありまして、このエピソード2はそれに触れていますけれども、黄禍論っていって、「黄色人種にアメリカの社会を乗っ取られるんじゃないのか」みたいなことを言い出されて、相当に日本人の移民が排外主義的な攻撃を受けたことが、戦前ですけど、過去にありました。その結果というか、その延長線といったほうがいいのかもしれませんが、太平洋戦争中に敵国の人間である日系人がアメリカの強制収容所に収容されたというケースがあります。

 だから、さっきはちょっと、「コメントに反応するな」って事前の打ち合わせで言われたけど(笑)。さっき安田さんのコメントを見ていたら、「日本人が差別だ、日本人、日本人」って言うから、そんなことを言っているけど、実際に海外で日本人がマイノリティになったときにひどい差別を受けて、しかも、差別を社会的に扇動された例っていうのがあるんですよね。だから、何を言っているんだろうと思って、ちょっと笑いましたけど。

角谷:そういう意味では、日本の歴史の中で差別というのとヘイトスピーチというと違うものに見えますけれども、全部つながっているものがあって。

中沢:いや、でも、私はその意見には、皆さんのご意見も伺いたいんですが、つながっていると考える人も当然いるし、つながっている部分もありますが、どこの誰が大道で「○○人をぶっ殺せ」って練り歩いたことが過去にあったか聞きたいです。私は50年以上生きていますけど、そんなの見たことがないです。「誰それはゴキブリだ」って叫んで歩いたっていうのは聞いたことがありません。仰天しました。同じにとらえられたら、ちょっと恥ずかしい気がします。だって、あんな恥ずかしいことをしたのは見たことがないわ。

角谷:それは差別とヘイトスピーチの大きな違いは、差別することだけではなくて。

中沢:差別っていうのは、いろんな議論はあると思いますけど。

角谷:中沢さんのお考えをまず伺いたい。

中沢:法務省が「ヘイトスピーチ、許しません」っていうステッカーをつくってくださって、それをたくさん貼っていただいているし、賛同いただいた方もたくさんいて、そのこと自体は結構だったと思うんですが、ちょっと不安に感じたのは、道徳の問題とすりかえてしまいませんかねってことです。差別って基本的に人間の心の中に浮かぶものですから、これは道徳の問題ととらえられるけど、今あの人たちがヘイトスピーチっていう形でやっていることっていうのは、政治行動とか、市民運動の形式を借りて社会に大きな亀裂を生み出すような政治的な行動としてやっているから、「これは憲法で保障された表現の自由なんだ」って言ってきたんですよ。それをここへ来て道徳の問題にすりかえるのって断固許せないと思うのが、私の個人的な考えです。

角谷:なるほど。

中沢:うちの中でご飯を食べながら、下を向きながら、「くそ、あの朝鮮人」って言うんだったら、いちいちうちの中に入っていって「やめろ」とまでは言いませんよ。天下の大道で、朝鮮人差別に限らないですね、江川さんに後でお話しいただけると思うんですけど、フィリピン人のカルデロンのり子さんという中学生のとこに、やっぱり一種の政治活動のふりをしてデモをかけたっていうケースがあります。自分たちは政治活動だと言っているんで、私はあれを政治活動とは認めませんが、道徳の問題にすりかえることも反対です。そういうことです。かつての、過去とつながっていないとは申しませんが。

角谷:つまり、つながっているということよりも、やっていることと同じもの、つまり表現の自由だとか、心の中にあるものを今度は口に出したんだと。

中沢:いやいや、古証文を持ってきて振りかざしたんだもん。

松嶋:(笑)

角谷:だから、そういうふうに言い出したら、この話は全部止まってしまうので。

中沢:ごめんなさい。

角谷:いろんな話を伺いたいんですよ。

中沢:わかりました。

角谷:なぜならば、僕たちも学びたいし、見ている人たちもいろんな事情があることをもっと知らないといけないんです。

中沢:そうですね。

角谷:だから、中沢さんの知っていること、中沢さんが考えていることを教えてほしいし。

中沢:ちょっと強い意見を言いましたけど。

角谷:それをもっとたくさんの人から聞いてみたい。

中沢:道徳の問題と混同されることに対して、私はちょっと怒りを感じます。

角谷:おっしゃることはわかりました。鵜飼さん、お願いします。

鵜飼:僕はやっぱりヘイトスピーチっていうのは、今の話とつなげると、この社会がずっと持ってきた、外国人に対する差別の今の時代における非常に先鋭なあらわれだと思うんですね。

 これまでも就職の問題とか、住居の問題、教育、あるいは結婚というような場面で、やっぱりこの社会は差別を温存してきたし、今あらわれてきているのはデモという形ですけれども、このような現象が出てくる前に、例えば、前の前の東京都知事の石原慎太郎さんの中国人に関する発言とか、それが非常に、社会に容認される雰囲気というものがずっと温存されてきた社会だと思うんですね。その条件を見ないと、やっぱり外科手術的にはなくならないものだろうと思うので。

 私はもちろん今中沢さんが言われたように、顕著な違いがあるということはもう間違いがないし、ここから始めなければいけないということはよくわかるんですけれども、同時にここで言われている旨、ここに書かれていることじゃないけれども、いわば下からの下品なレイシズムのあらわれで、それ以外にも上品なレイシズムって、かっこつきで言わなければいけませんけども、そういうものとか、上からの下品なレイシズムもたくさんありますし、そういうことの中でやはり「こういうことを言ってもいいんだ」と思い込んでしまう人たちがあらわれてきたという、その歴史的、社会的条件にどうメスを入れていったらいいのかなということをやっぱりよく考えます。

角谷:なるほど。江川さん、どうでしょう。

江川:今、中沢さんが言われた、「うつむきながらそう言っていればまだしも」みたいな話がありましたよね。

中沢:個人の内面の問題を法律で縛ったりするのはまずいだろうと。そうじゃなくて、路上や公共施設でやることについては法律で規制するべきだということが言いたかったんで、差別していいと言いたかったのではない。

江川:もちろん。でも、その「うつむきながら」っていうのは、やっぱりそれは差別だっていうことがどこかでわかっているからだと思うんですよね。やっぱり人間って誰しも差別意識みたいのがあったりして、でもそれは恥ずかしいことだっていうのも理性で思っていて、だから差別的な行動に出ても、「差別しているから反対しているんじゃない」っていう、違う理由を見つけたりするじゃないですか。あるいは、差別的なことをするのは、こそこそやったり、自分がやったとわからないようにやる。それはやっぱり差別だっていう気持ちがどこかにやっぱりあって。

中沢:悪いことだと思っているんですね。

江川:そうそう。少なくとも、大っぴらにやると、今度は自分の人格が疑われるとか(笑)、ほかの人から非難されるとか、そういうことがあるから、やっぱり人目を気にしながらやるってとこはあると思うんですよね。でも、今問題になっているのは、人目を気にしないっていうことで。

中沢:むしろ、目立つためにやるという。

江川:そうなんです。だから、差別だっていう意識がやっぱりないんだと思うんですよね。だから、そこがかつてまでとは随分違う感じがして、自分たちのほうが被害者だという、そういうような被害者意識で逆に自分たちはこれに対抗しているんだ、あるいは、国家の名誉を守っているんだみたいな、そんな変な大義名分があって(笑)。だから、差別意識がない差別。それはほかにもいろいろあると思うんですよ。

 例えば、薬害エイズの人たち、薬害だけじゃありませんね、エイズ患者の人たちが以前、例えば一緒にお鍋を食べるのも嫌だとか、そういうような差別を受けたのは、これは無知から来るものだと思うんですね。それ以外にもいろんな病気のことで。

中沢:ハンセン病の問題などね。

江川:そうでしょう。そういうの。あるいは、今でもあるセクハラみたいなのも無知から来るものだと思うんですね。つまり、それが差別になったり、嫌がらせになったりするっていう自覚がないから結構平気で公然とやっちゃう。だから、これもやっぱり差別という感覚がないっていうところが出発点なんじゃないかと。

中沢:差別は昔からあるから、ほっとけ論になるんですよ。「昔から差別をやっているから、こんなもん、いい加減ほっとけ」ってわりと傾きがちなもの。

(一同笑)

角谷:今、僕が「なるほど」と、江川さんの説明を聞いて思ったのは、気づかないまま差別をしているかもしれないと思っている人、逆だ、気づかないまま差別をしている人。だから、「もしかしたらしているかも」なんていうふうな思いがないからできてしまうっていう人たちが生まれてきているんじゃないか。

中沢:いやいや、そんなセンシティブなものじゃなくて、「自分たちは正義を訴えた被害者だから、正しいことを言って歩いているんだ」って、大道を「みんなぶち殺せ」とか、「ゴキブリ」とか、「ウジ虫」とか言って歩くわけですよ。本気で言っているかどうかまでは、私も直接は。だから、安田さんにいてほしかったの。彼はちゃんとそういう人たちにもインタビューをして話を聞いているから。

 ただ、私はこれにかかわるときに、「旗幟は鮮明にして、相手と話はしません」っていうことをはっきり言いました。というのは、自分の都合で言葉を平気で使うからです。コメントを見ていりゃわかるじゃないですか。何を言ったって、わかっていないことを平気でぎゃんぎゃん書いたって恥も外聞もないでしょう。こんな人と議論をしたら私の神経のほうがやられるから、「絶対それはやりません」と。

 「皆殺しにしろ、ゴキブリだ、ウジ虫だって言うにも、それは理由があるから聞いてくれ」って言ったって、「人はそんなもの聞きやしませんよ、冗談じゃない」と。うちに帰って顔を洗って出直してきて、「ごめんなさい」って言ってからだと、「なんであんなことを言ったの?」って聞いてもいいけど。こういうことを言って騒いだら人が耳を傾けてくれるなんて、とんでもない市民社会に対する冒涜です。それと古い差別を一緒にして、「差別は簡単にはなくならないからほっとけ」と言われたって。

角谷:いや、「ほっとけ」なんて誰も言っていないけれども。

中沢:さんざんそういう議論をしているんです。

角谷:わかりました。つまり、中沢さんの言うように、過去の我が国の中に脈々とある差別という問題と、このヘイトとは明らかに違うものであるというところで。

中沢:私は質の違うものだと。

角谷:話したほうがわかりやすいってことですね。

中沢:と思います。だって、「人の心の中に自然に生まれる差別を法律で禁じろ」って言ったって、それは無理です。

角谷:なるほど。

中沢:そんなことは一言も言っていない。「大道でやるな」と、「公共施設でやるな」と、そういうことを言いたかったわけです。

江川:私も中沢さんのように、そういう意味では質が違うと思っているんです。ただ、構ってほしいとか、反応してほしいみたいな感じのあれはどうかなって思うところは、やっぱり最初のうちは、さっきおっしゃってくださいましたけども、フィリピンから来たカップルが違法に滞在していたということで、両親は帰されるけれども、日本で生まれた子どもは日本語しかしゃべれない、その子をどうするかっていうことでいろいろ議論があったときに、在特会の人たちが。

角谷:学校に行ったのね。

江川:学校に行って「出ていけ、出ていけ」とやったわけですよね。そのときに、やっぱり多くの人が眉をひそめたし、それから右翼的な人なんかも「こんなのと一緒にされたくない」って言っていたわけですよ。メディアもほとんど報道しませんでした。つまり、こんなものにまともに取り合ったら、むしろ増長するだけだと思っていたから、むしろ意識的に取り上げず、ほっといたんですよね。でも、その間にどうなったかっていうと、その間にいろんなところで活動を始めて。

角谷:なるほど。そこに中沢さんの話がつながるんだね。

江川:だけど、中沢さんは無視するっていう立場ですか?

中沢:いやいや、そうじゃなくて、彼らは「こんなことを言って騒ぐにはそれなりの理由があるから、その理由を聞いてくれ」って言うわけですよ。いいですか。「こういう騒ぎ方をしたら、人が理由を聞いてくれると思ったら大間違いだから、顔を洗って出直していらっしゃい」って言っているんですよ。

江川:だから、そうやって無視して突っぱねても増殖しているわけで。

中沢:いや、私はそういう意味で無視したいんじゃなくて、説教したいの(笑)。ただ、最初はこういうものがテレビで取り上げられて、調子に乗った増長者が増えると、かえって宣伝効果が出てしまうから取り上げるのはやめましょうというような考え方だったメディアも確かにあります。実際そういうところもあります。

角谷:なるほど。

(つづく)

◇関連サイト
・[ニコニコニュース]「『ヘイトスピーチ』を考えよう」全文書き起こし(1)~(3)
http://search.nicovideo.jp/news/tag/20150803_「ヘイトスピーチ」を考えよう?sort=created_asc
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