――“戦利品”の写真をネットにアップするのは「著作権侵害」なのか?
先日、大盛況のうちに幕を閉じた「コミックマーケット88」。今でこそさまざまな企業が出展したり、多くのコスプレイヤーが集まったりと、楽しみ方は多様になったが、元はその名のとおり“同人誌即売会”。参加者の中には「“薄い本”が厚くなるほど買いました!」という人も多いのではないだろうか。
そんなコミケ終了後には決まってと言っていいほど、大量の同人誌を並べた写真と共に「今回の戦利品です!」とTwitterなどで報告する人が散見される。今、これについて「無断転載なのに著作権的に大丈夫なのか」と、ネットを中心に物議が醸されているのだ。
早朝から待機列に並び、やっとの思いでお目当ての同人誌を手に入れた時のなんとも言えない感情はコミケ経験者にしかわからないこと。“戦勝報告”したくなるのもわかるが……今回は、同人誌の写真をネットで公開することについて法律的にどのような問題が生じてくるのか、AVANCE LEGAL GROUP LPC弁護士の山岸純氏と児玉政己氏に聞いたところ、次のように解説してくれた。
「この問題は、いわゆる【1】既存のマンガやアニメなどのキャラクターや設定を題材とするもの(二次創作系同人誌)と、【2】これらを題材としないもの(一次創作系同人誌)に分けて考える必要があるかと思います。
まず、【1】については、既存のマンガなどのキャラクターを利用した作品の表紙の写真を無断でアップしても、『同人誌の制作者』自体の著作権を侵害する可能性は低いものと考えられます。なぜなら、『二次創作系同人誌』の表紙に“著作権”が発生するためには、その表紙を見た人に既存のマンガなどのキャラクターであることを思わせつつ、同時に、『同人誌の製作者』のオリジナリティ(思想や感情)も感じ取れる表紙である必要があります(このような著作物を「二次的著作物」といいます)。
しかし、この種の同人誌は、既存のマンガなどのキャラクターの特徴が忠実に再現されていてこそ購買意欲が生じると言われていますので、『同人誌の製作者』のオリジナリティはかえって購買者にとって邪魔になるだけであり、このようなオリジナリティの発現はおのずと否定される場合が多くなるかと思います。とすると、“オリジナリティが欠ける”=“著作権が発生しない”ということになりますので、『二次創作系同人誌』の表紙については、無断掲載されても、『同人誌の製作者』への著作権侵害の可能性は低くなると考えることができるわけです」
『二次創作系同人誌』は、そのほとんどが“著作権が発生しない”。よって、写真をネットにアップすることは法的には問題ないようだ。では、【2】既存のマンガやアニメなどのキャラクターや設定を題材としない『一次創作系同人誌』の場合はどうなるのだろうか。
「『一次創作系同人誌』は、表紙も一枚の絵画の著作物と考えられるため、まさにこれらの“著作権”の侵害が問題になります。
このような場合の“著作権”侵害が成立するかどうかは、『表紙の撮影方法』によると考えられます。著作権法上、“著作権”侵害が成立する場合の一つに、『著作物』を“複製”した場合が挙げられます。少し難しい話になりますが、既存の『著作物』を撮影した写真が“複製”と評価されるためには、撮影対象である著作物の『本質的特徴』がその写真から感じ取れるように撮影されていなければなりません。
例えば、写真全体に表紙が納まるように撮影する場合などは、表紙の「複製」と評価される可能性が高く、「著作権」侵害となりますが、表紙だけではなく、ほかの被写体(同人誌を持って立つ購買者、東京ビックサイトの外観、そのほかの背景等)とともに撮影されている場合には、当該写真は表紙の「複製」と評価することは難しくなるものと考えられます。
この観点からすると、“戦利品”として、多数のグッズや同人誌を雑多に並べ、引き目に撮影した写真については、“複製”したとは評価されず、そのアップについても“著作権”侵害と評価することは難しくなるものと考えられます」
“表紙の撮影方法”といった注意事項があるが、基本的に『一次創作系同人誌』もその写真をネットにアップすることは著作権侵害とは言えないとのこと。また、『二次創作系同人誌』でも、その表紙が“誰がみても特定のマンガやアニメのキャラクターそのものである場合”は『既存のマンガなどの製作者』の“著作権”を侵害すると判断される可能性があるため、撮影には『一次創作系同人誌』同様の注意が必要だという。
ちなみに、表紙に性的な表現が描かれている同人誌をネットに掲載する行為は、刑法上のわいせつ物陳列罪等に該当する可能性もあるとのことだ。
さまざまな注意事項はあるが、基本的に『二次創作系同人誌』『一次創作系同人誌』の写真をネットにアップすることは著作権侵害には当てはまらない。だが、そもそも同人誌は著作権法においてグレーな存在といわれており、「原作者や出版元の目に触れてはならない」「公に広めてはならない」といった暗黙の了解がある。また、18禁描写やBL描写がされている同人誌も多いだけに、マナー的な意味合いでも“戦利品”の写真をネットに公開する際は配慮が必要そうだ。
(協力=山岸純、児玉政己/AVANCE LEGAL GROUP LPC弁護士)