今月4日、韓国と北朝鮮の軍事境界線近くで地雷が敷設され、韓国軍兵士2人が重傷を負った事件を発端に、南北関係が極度に悪化している。北朝鮮は21日夕方、前線地帯を「準戦時状態」と宣言した。背景には、韓国軍が地雷敷設の報復で始めた巨大拡声器による「対北心理戦放送」がある。「放送を中止しなければ、軍事行動を起こす」とまで北朝鮮が激怒する放送とは、いったいどんな内容なのか?
韓国軍は、1970年代初めから軍事境界線で拡声器による放送を実施。2000年代に入ると、野外ライブ会場に置くような巨大スピーカーに改良し、非武装地帯(DMZ)計94カ所に設置。昼間は10㎞、夜間は24㎞先まで届く大ボリュームで、前線にいる朝鮮人民軍のやる気をそいできた。
北朝鮮も負けじとスピーカーを設置し、金日成主席や金正日総書記の偉大さを語る番組やホンワカした歌謡曲(NKポップ)を流したりと、DMZは長年、やかましい心理戦が繰り返されてきた。韓国で盧武鉉(ノムヒョン)政権が誕生したばかりの04年6月、南北は拡声器の撤去を合意した。
10年3月に黄海で韓国海軍の哨戒艦沈没事件が起きると、韓国軍は対抗措置として拡声器を復活させた。同時に韓国当局は、北朝鮮に住む兵士や人民向けのFM放送を始めた。
この時も、北は「拡声器を照準射撃する」と激しく反発。今回と同等に緊張感は高まったが、結局はFM放送をスピーカーで流すことはなく、双方は矛を収めた。
だが、韓国軍は今回、地雷事件の報復として、いきなり拡声器の使用を中部と西部の前線にある2カ所で始めた。韓国メディアによると深夜と早朝も含めて、韓国軍の戦力的な優位性や豊かで自由な暮らしを、大ボリュームでアピールしているという。
この「心理戦放送」のFM電波を現地で録音した経験を持つ30代後半の受信マニアは「『北の兵士、住民のみなさん、こんばんは!!』と、若い女性のDJが最新K-POPをかけまくるという、韓国の普通のラジオ番組かと思うような明るい内容だった」と振り返る。「わざとラップ調の曲を流したりして自由度をアピールしているみたいだった」という。
また、「若い兵士2人が登場して雑談をする番組が、印象的だった。話題は小銃の性能。『K11』という韓国軍の銃は『前に壁があっても、壁の向こうの敵を射撃できる』『10㎞先の敵も射殺できる』という、すさまじい性能をうたっていた」。「K11」は韓国軍の小銃で実在するが、当然ながら、そんな性能はない。だが、官製メディアにしか触れられない北朝鮮の兵士らは、そんなウソっぱちの誇張でも「本当かよ」と信じてしまうワケだ。
ある民間の研究者は「放送は、ラジオ受信機の所持を禁じたり、妨害電波を出せば聞けない。だが、スピーカーは否応なしに聞こえてしまうので、兵士や住民が動揺すると、北当局は警戒している」と指摘する。
北では、耳栓の配給が始まりそうだ。