文・取材:編集部 オスカー岡部 、撮影:カメラマン 和田貴光
●“縦”でも“横”でも楽しめるアニメも誕生
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催される、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、27日に実施された、プロダクションセッション“3DCGが変えたアニメとは”の内容をリポートしよう。
【セッション前半部の登壇者】
■これからのアニメに重要なのは“管理”
塩田氏は「コンテンツをプロデュースするためにはオモロイものを作らないといけない」、「プロダクションを緻密に管理しなければならない」と主張した。アニメ制作において、いままでは“いかにいいものを作るか”を考えていたが、最近はクリエイティブでありつつも、それをどうコントロールしていけばいいかということが重要になっているそうだ。
塩田氏によると、タスクをコントロールするためには、管理されたデータベースの作成のほか、プリプロダクションの効率化も大切になってくるという。たとえば、アニメの現場では絵コンテの作成においてスタッフどうしが衝突することがままあり、かといって外部に発注すると遅れる傾向にあるそうだ。そこで、塩田氏はバーチャルカメラで撮った写真をそのままレイアウトとして使ったり、複数の写真から3Dモデルをクラウド経由で作成するなど、絵コンテのプロセスを省略する手法を用いたという。
吉岡氏は、アナログからデジタル作画への転換について、既存の紙での作画をそのままデジタルに持って行く方法と、アニメーターが稼げないという問題について考えていたそうだ。実際に、デジタルへの移行によってスタッフ全体の作業効率は上昇し、受注業務も安定化していったのだという。
■新たなアニメーションの可能性も
松浦氏は、アニメ制作の現場がペーパーレスへと、本格的に動き出していると語った。例えば『うーさーのその日暮らし』はフルCGの作品で、少人数でイチからデジタルで作ったていたのだそうだ。原画などの工程を踏んでいないために効率化もできたので、松浦氏はアニメに限らずデジタルで物を作ることに可能性を感じていたそうだ。
水崎氏は、スマートフォンアプリ『白猫プロジェクト』において、“縦”でも“横”でも楽しめるアニメーションの映像を納品していたそうだ。水谷氏はこの2種のレイアウトのアニメを展開したことについて、特許を取っているという。
ほかにも、水崎氏はアニメ『ガッチャマンクラウズインサイト』の舞台である立川に“いるように感じられる”アプリも開発中なのだとか。水崎氏は「今後は360度見渡せるアニメを展開していくことも必要なのかもしれません」と語った。
松浦氏は「アニメは作りたい絵に対して、作る手法も変わってきています」と語り、そのうえで3DCGをリアルタイムで演出していくようなVR(バーチャルリアリティー)にも注目しているそうだ。
【セッション後半部の新たな登壇者】
■『ナルティメットストーム4』の魅力は“顔芸”!?
セッション後半で登壇した松山氏は、2016年2月4日発売予定のプレイステーション4用ソフト『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』の体験版をプレイ。3DCGで作られたキャラクターのなめらかな動きや迫力に、松浦氏は「2時間ずっと観られる気がします」、 塩谷氏は「ゲームなのかアニメなのか、いったい何を観ているのかわからなくなっていた」と驚きを隠せなかった様子。
また、水崎氏は「歯を食いしばる表情など、アニメーションをとても研究されています」と称賛。 松山氏も「プレイステーション4ならではの顔芸にこだわりがあります」と語った。
■作業の効率化、アセットの応用はやはり重要に
橋本氏は、『HAPPY FORREST』というフルCGアニメの制作に技術アドバイザーとして関わったとき、生産性を上げて、コストを下げることに迫られ、大幅な作業の効率化を図ったのだそうだ。初めはスタッフにそのやりかたを不安に思われたところもあったそうだが、アニメの試写会が始まるころには“安くて早い”と好評を受けたとのこと。
ほかにもモーションキャプチャーの導入、一定のアセットの作成など、デジタルによるリアルタイムなワークフローを作ることの恩恵は、計り知れないところがあるようだ。
尾小山氏は、今後は映像コンテンツとして作ったアセットがそのままVRにも使えるようなシステムや、映画とゲームの中間のようなものがができてくるのではないかと予想しているそうだ。実際に、尾小山氏はVRで360度見渡すことができるCGのほか、実写ベースのホラーコンテンツを開発中なのだという。
■VRにもルールやワークフローが必要に
松山氏によると、VRコンテンツの開発は現在でも多くの人が進めているが、まだVRのルールの整備ができておらず、その定義もまだ“これから”の状態なのだという。そのうえで、松山氏はサイバーコネクトツーという会社ならではの“こうあるべき”VRのモラルを考えているそうだ。
尾小山氏は、そもそもVRに関しては、アニメのようなしっかしたワークフローすらないことを指摘。VRコンテンツ開発において、試行錯誤をするための環境も必要であると主張した。
また、参加者からは「VRは実際にどれだけ儲かるのか、また市場規模はどうなるのか」という質問があった。
■アニメにおける3DCGはまだ成長段階に
参加者からの「アニメにおける、3DCGで描かれたキャラクターに違和感を覚えるのはなぜか」という質問には、松浦氏と塩田氏のふたりが「ただ制作者の技術が足りないため」と回答した。3DCGへの違和感を軽減させるには、製作者が熟練し、技術をあげていくほかないようだ。
松山氏は、アニメ、ゲーム、VRと、エンターテインメントを扱う業界には垣根がなく、交わることでもっとおもしろくなるのではないかと主張した。
同じように、水崎氏が「こうしたメンバーで、同じような考えや悩みをうなずき合うことができるのがうれしいです。こうして業界の人たちが共有することで何かが生まれ、いろいろなことをやりたくなってくるのではないでしょうか」と語ったところでセッションは終了となった。