[CEDEC 2015]ニコニコ動画という新しい遊びを支えるのは,「お手本の発明」や「共感」といった普遍的な楽しさ。「古くて新しい“遊び”の世界 ゲーム実況とゲームイベントをニコニコ超会議・闘会議の事例から」 | ニコニコニュース

 神奈川県のパシフィコ横浜にて行われたゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC2015。初日となる2015年8月26日には,ゲーム実況にまつわる「古くて新しい“遊び”の世界 ゲーム実況とゲームイベントをニコニコ超会議・闘会議の事例から」と題された講義が行われ,ドワンゴの伊豫田旭彦氏がニコニコ動画におけるゲームユーザー像や,闘会議における取り組みなどを語った。

 ここでいう「古くて新しい“遊び”」とは,皆で同じ事をして共感するという昔ながらの遊び方が,動画サイトにおけるゲーム実況や闘会議のような新しい場で行われるということだ。新しい技術や価値観の集まりに思えるニコニコ動画だが,人々を惹きつけるのは古くからある普遍的な楽しさだったのだ。

■ゲームを取り巻く状況〜買い切り型からサービス型へ〜

 伊豫田氏はドワンゴの会長室ゲーム戦略グループに所属しており,アナログからデジタルまで幅広いゲームを取り上げたイベント「闘会議2015」の担当でもある。つまり,ニコニコ動画におけるゲーム関連の最前線にいる人物なのだが,そんな伊豫田氏はまず,ゲームを取り巻く状況についての解説から講義を始めた。

 まず,動画投稿サイトにおいて,ゲーム関連動画は人気コンテンツだ。ニコニコ動画においても再生数の34%を占めている。

 ゲーム関係者ならずとも“ゲーム動画は購入につながるのか?”という点は気になるだろう。


 PS Vita版「テラリア」の購入者アンケートでは,31.8%が動画をきっかけにゲームを知り,37.9%がゲームの購入時に動画を参考にすると答えているという。これを受け,伊豫田氏は「ゲーム動画が購入を促す効果はないわけではない」と結論づけた。

 ゲームの販売環境が従来の「買い切り型」から新たに「サービス型」へと変容しているというのが,氏の考え方だ。両者の違いは,ゲーム発売後の展開があるか否かによる。


 ゲームが発売されたあとで新たな展開がないのが買い切り型で,あるのがサービス型となる。

 これまでは,発売前に雑誌やCMで拡散された情報を参考に,皆が同じ値段でお店に並んでいるゲームを買い,買ったあとはゲームを遊ぶことそのものが目的となっていた。何を今さら,という,ゲームファンにはおなじみの光景だ。

 しかし,今は状況が変わってきていると伊豫田氏は言う。ゲームの評判は発売後に動画サイトなどを通じて拡散し,ショップで買うだけなく,動画に付いたリンクから買ったり,ダウンロードすることもできる。そして,長く遊ぶ人はより多くの額を支払う(課金アイテムだけでなく,ゲームにまつわるCDやキャラクターグッズなども含まれる)仕組みになっており,ゲームをきっかけとしたコミュニケーションが遊ぶ目的になっているという傾向が強い。ゲーム発売後に口コミでヒットしたり,ゲーム自体が拡張されたり,遊んだことで新たなコミュニケーションが生まれたり,といった展開があるのがサービス型なのだ。

 これだけ状況が変化しているのだから,有効なプロモーションも違ってくる。サービス型においては,「ゲームが発売されたあと,いかに流行っているかを告知していく」という方法が有効だという。


 ゲーム機の前に座ったゲーマーがパッケージを消費していくという,旧来のスタイルを想定するだけでは不足であり,パッケージはもちろん,DLCやグッズ類もコンテンツとなっていく。また,コアゲーマーだけでなく,実況ファンやコスプレイヤーなど,いろいろなコミュニティで遊ばれることも考えなければならない。
 ゲーム機の前ばかりではなく,TwitterやLINE,ニコニコ動画もゲームを楽しむ場となり得る。ゲームソフト単体というよりは,IP(知的財産)として考え,ゲーム内コンテンツ以外の設計が重要になるのが現在の状況なのだと伊豫田氏は述べた。

 そんな中,ゲームの権利者が実況を正式に許諾することには大きな効果がある。動画の人気度に応じて報酬を支払う「クリエイター奨励プログラム」に任天堂が対応したところ,ニコニコ動画では任天堂ゲームの実況が増加した。「権利関係がクリアになったことで,安心して実況できるようになった」という反応が見られたそうだ。

 また,「地球防衛軍4」では発売元であるディースリー・パブリッシャーが実況を許可するツイートをした瞬間,同作を遊ぶ生放送が100番組もスタートしたという。


 これは,どこまで実況していいかのガイドラインを公式に設定し,段階的に解禁していったことにより,ゲーム実況にまつわるネタバレ問題ともうまく折り合いを付けられた事例でもある,と氏は同作の取り組みを評価する。「実況する人はゲームを愛し,メーカーを好いているため,メーカーの言うことをとても素直に守る傾向がある」(伊豫田氏)。そのため,ユーザーを信頼することは有効なのだという。

■ニコニコ動画のゲームユーザーは「日本の平均的なゲーム好き」の人々

 では,ニコニコ動画におけるゲームユーザーはどういった人々なのだろうか。17のゲーム番組からユーザーを誘導して取ったアンケート1万1000件を集計することにより,それが明らかになった。

 男女比は約6対4で,ボリュームゾーンは男性が21歳から24歳,および30代,女性が18歳から22歳。プレイの頻度は高く,男性は88%,女性は75%が毎日ゲームを遊んでいるという。「ゲーム番組を見ているのはゲーム大好きなヘビーユーザーである」という結論だ。

 過去1年間に遊んだゲームジャンルとしては,やはり基本無料のスマートフォンアプリがトップになるが,次いで携帯機,そして据え置き機,ブラウザゲーム,という順位になった。男性ユーザーが多いのは据え置き機やインディーズゲーム,TCGで,基本無料のスマートフォンアプリや携帯機向けゲーム,アナログゲームは女性のほうが多い。ただし,この質問は複数回答が可能であるため,伊豫田氏は「ニコニコ動画のゲームユーザーは,複数ジャンルをバランスよく遊んでいる」という印象を受けたそうだ。

 「この1年で,一番長く遊んだゲームは?」という設問では,性質上すぐ終わるゲームはランクインしづらいものの,「Minecraft」や「ポケットモンスター」「パズル&ドラゴンズ」「モンスターハンター」など,男女ともに人気の高いタイトルが並んでいる。特徴的な傾向としては,オンラインゲームなどコミュニケーション系ゲームが多いことぐらいで,「ニコニコ動画のゲームユーザーは,少しばかりコミュニケーション寄りだが,平均的な日本のゲーム好き」と氏は結論づけた。

 「ゲーム動画や生放送をきっかけに,ゲームを購入/ダウンロードしたことがありますか?」という質問には39%が「ある」と答えている。

 購入/ダウンロードしたタイトルとしては男女とも,いわゆるゲーム好きが買うようなラインナップにも見えるが,「女性はダウンロードしてすぐに遊べる,軽いタイトルを好む傾向にあるのではないか」と氏は分析した。

 興味深いのが「あなたはゲームの動画/生放送を投稿していますか?」という質問だ。


 最も多い回答はやはり,「動画投稿や生放送を行う気はない」というものだが,すでに動画を投稿している人々と,「今後投稿したい」と考えている実況予備群を合計すると約4割になるという。アンケートに答えた人の半分近くが,実況することに関心を持っているわけで,これは想像より多い数字かもしれない。

■闘会議での取り組み

 続いて伊豫田氏は,闘会議における取り組みについて語った。

 闘会議では,ゲームで遊んだ人に勲章をプレゼントすることにより,いろいろなゲームに触れることを促進したり,実況者やトッププレイヤーと共に遊ぶ場を設けたりするといった工夫が凝らされたという。

 さまざまなゲームがある中,伊豫田氏の印象に残ったのは麻雀コーナーだという。麻雀は闘会議会場以外の場所でも遊べるため,人気になるとは思っていなかったが,実際にはわざわざ並んでまで麻雀を遊ぶ人が多かった。

 闘会議の効果として伊豫田氏は「ニコニコ動画にログインする頻度が低い人ほど,イベント後のログイン日数が急激に増えている」ことを挙げた。イベントの結果を見たいだけならイベント後にアクセスするだけで十分なはずだが,ログイン日数が増えているということは,「イベントにより,改めてニコニコ動画は面白いと思ってもらえた結果ではないか」(伊豫田氏)。


 こうしたイベントによるアクセスアップ効果は,スマートフォンアプリやオンラインゲームでも見られるのではないか,と伊豫田氏は続けた。

■遊びとは共感,大切なのはお手本の発明

 最後に伊豫田氏は「遊びとは何か」というテーマについて語った。


原始的な遊びとは,皆で一緒に同じ事をして共感を覚えるというものだ。

 ライブなどでは,その場に集まったファンが皆で同じ事をするのが楽しい。ゲーム実況の視聴者は,実況者がクリアした際,拍手の意味を持つ「8」をみんなで打ち込むのが楽しい。ユーザーが自分でダンスした動画を投稿する「踊ってみた」も,ほかの人のダンスを見て自分も同じように踊ってみたくなった結果だ。


 つまり,「同じ事をするのが面白い」「同じ事をして皆の輪に加わりたい」「好きだから同じ事をしたくなる」という結果というわけだ。

 同じことをするために大事なのは「お手本の発明」だと伊豫田氏は分析する。例えば「アイスバケツチャレンジ」が流行したのは,“氷水を頭からかぶる”というお手本が生み出され,皆が同じ事をしてみたいと思ったからだ。「こうしたお手本の発明は,新しい遊びを作ることに近くすごくクリエイティブである」と伊豫田氏は語った。

 ニコニコ動画で流行した「千本桜」という曲は「歌ってみた」「踊ってみた」「演奏してみた」といろいろな楽しみ方をされているが,これも最初に歌ったり踊ったり演奏した人が“お手本を発明した”から広がりを見せたのだ。

 共感の連鎖が起こる場所が「遊び場」であるというのが,伊豫田氏の考えになる。ゲームの場合,ゲームそのものを中心とし,プレイヤーやイラストレーター,実況者がさまざまなモチベーションを以てスーパープレイやイラスト,実況といった楽しみ方を発明し,ほかの人がそれを真似するという連鎖が広がっていく。つまり,ユーザーが遊び方を作っているわけだ。

 最後に伊豫田氏は「ドワンゴとしては,いろいろな人が活躍できる場を作っていきたい。ユーザーの皆さんが踊る輪をもっと大きくし,多くの人を巻き込んでいくことでゲームIPをより活性化させたいと考えています」と語り,講演を締めくくった。

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