アートディレクターの佐野研二郎さんがデザインした2020年東京オリンピックのエンブレムについて、大会組織委員会は9月1日、使用を中止すると発表した。類似が指摘されていたベルギーのリエージュ劇場のロゴなどとは「似ていない」と改めて強調したが、「国民の支援がないエンブレムを使い続けることは困難」と判断。佐野さんから「取り下げたい」との申し出を受け、組織委と合意したという。
エンブレムをめぐっては、リエージュ劇場とベルギーのデザイナーが使用差し止めを求めて国際オリンピック委員会(IOC)を提訴していた。組織委は、リエージュ劇場のロゴとエンブレムは「はっきりと違う」(組織委の武藤敏郎事務総長)と判断。8月28日の記者会見でデザインの原案を示して説明した。その判断は今も変わっていないという。
一方で、佐野さんが制作した、エンブレムの使用例を示した「展開例」の画像の一部が、ネット上で第三者が公開している写真と酷似していると、28日の記者会見以降にネットユーザーが指摘。指摘を受け、組織委が佐野さんに聞き取りを行ったところ、「展開例の画像は、エンブレム応募時に審査委員会の内部資料用に作ったが、公になる際は権利者の了解を得るべきだった。それを怠った」と話し、権利者の了解なしに写真を流用したことを認めたという。佐野さんは写真の権利者と連絡を取るなど、対応を進めているという。
また、組織委が28日に公開したエンブレムの原案が、2013年に開かれた展覧会「ヤン・チヒョルト展」のポスターと似ているという指摘もあった。佐野さんは同展を見に行ったことを認めたが、「ポスターがどういうものだったか記憶ににない」と話したという。
その上で「今ポスターを見てみると確かに、(エンブレムの原案と同様、Tの文字の右下に)丸い円があるが、ポスターの円はドットを意味している。自分がデザインしたエンブレムの丸は、日の丸や鼓動、情熱などを意識し、T隣接している。色も違うし、まったく模倣はしていない」と説明したという。
エンブレム選考の審査委員長で、1972年の札幌五輪のシンボルマークをデザインした永井一正さんは、組織委・佐野さんとの協議の席で、「デザイン界の理解としては、正方形を9分割して作られた佐野さんのデザインの基本と、チヒョルト展のポスターのピリオドとはまったく違うものなので、佐野さんのオリジナルなものとして認識される」と話した一方で、「このような説明は、専門家の間では十分分かり合えるが、一般国民には、残念ながら分かりにくい」とも話していたという。
佐野さんは「私のデザインは模倣ではなく、模倣だから取り下げるということはできない」としつつも、佐野さん本人や家族への誹謗中傷が止まないことに加え、エンブレムが一般国民から受け入れられていない現状を受け、「オリンピックのイメージに悪影響が及んでしまう」と判断。「エンブレムの原作者として提案を取り下げたい」と話し、組織委・永井さんとの3者で意見が一致し、取り下げを決めたという。
組織委は新しいエンブレムの公募を近くスタートする予定。詳細は今後詰めるとしている。