11月17日、18日に開催予定のTechCrunch Tokyo 2015の海外ゲストが決まりつつあるので順次、発表したい。まず1人目は、ロゴデザインの世界で圧倒的ブランドを打ち立てたメルボルン発のスタートアップ「99designs」のCEO、Patrick Llewellyn氏だ。
99designsのことを知っていてもメルボルン発と聞いて意外に思った人もいるのではないだろうか。それもそのはずで、割と初期から北米でのプレゼンスが強かった。なぜならオーストラリアというのは市場としては小さく(GDPで世界12位)、99designs創業当時の2008年にはメルボルンにはVCはなかったので、創業時から北米を中心とした英語圏をターゲットとしていた。かなり早い段階から北米に拠点を構えたほか、ヨーロッパと南米へも進出してドイツ語やフランス語、スペイン語などと多言語化。2011年にはシリーズAでAccel Partnersなどから3500万ドルの、かなり大きな資金調達をして、そして2015年にはシリーズBとしてRecruit Strategic PartnersとAccel Partnersから1000万ドルの資金を調達して日本進出を果たしている。
もともと、99designsはSitePoint.comという、主にWebサイト作成者やデザイナー向けの情報交換コミュニティーとしてスタートしている。そのコミュニティーでノウハウを教え合う中で、自然発生的にロゴなどのデザインコンテストが起こるようになり、これに商機を見た共同創業者らが、別ブランド、別サイトとして2008年に立ち上げたのが99designsの始まりだ。ニーズもコミュニティーも最初からあったので、当初から99designsは口コミだけで黒字運営。ただ、すでに書いたように北米進出やヨーロッパ展開となったときに大きく資金してアクセルを踏むべきということで、VCの資金を入れたという経緯がある。VC支援がないスタートアップへ就職したがる人がシリコンバレーには少ないという事情もあったようだ。
2007年とか2008年と言えば、ちょうどAWSが出てきたころで、スタートアップ企業がサーバやストレージのために資金を集めて個別に用意する必要がなくなった時期。グラフィックデータを扱うスタートアップとしては、まさに外的環境が整ったタイミングでもあった。そこからスタートを切ったという意味でも、1社のクライアントに対して世界中の多くのデザイナーが同時にロゴ案を応募してコンペとするというモデルについても、99designsはコンペ型クラウドソーシングの先駆けだ(ちなみに、現在Upworkと改名したクラウドソーシングの草分けであるoDeskのスタートは2003年)。現在登録デザイナー数は100万人以上となっていて、累積で44万コンテンツを制作したことになるという。昨月のデザイナーへの支払い実績は247万ドル。ロゴデザインで始まったコンペは、名刺やWebページ、アプリデザインにもジャンルを広げているほか、特定デザイナーに1対1で発注できる機能や、ちょっとしたロゴ改修や写真のレタッチなどを「タスク」としてデザイナーに安価に発注できる機能などを追加している。
さて今回、TechCrunch Tokyo 2015への登壇が決まった99designs CEOのPatrick Llewellyn氏は、アメリカ進出やヨーロッパへのサービス展開を担当した人物でもある。だからスタートアップ企業がサービスを国際化するには、どういうチャレンジがあり、何を優先すべきかということを話してもらえればと思っている。人数的には小さなチームで、各国の拠点はそれぞれが独立したスタートアップのように振る舞うべきだとPatrickは言う。もちろんオーストラリアは英語圏だから、北米を経由してヨーロッパへ展開するのは日本企業がやるよりも容易だったかもしれないが「国内市場だけは十分な大きさが確保できない」というのが当てはまるサービスが増えている日本のスタートアップ企業には参考になる話だと思う。
もう1つ、これは国内クラウドソーシングのスタートアップも同じ言い方をしているけれど、クラウドソーシングが多くの人の働き方を変えつつある。3月の来日時にぼくはPatrickにインタビューをしたのだけど、そのとき「リモートで仕事ができるので、デザイナーは各国を旅行しながら仕事ができます。しばらく暮らした国や地域でクライアント企業と新たな関係を築くこともできるんです」という話をしていたのが特に印象的だった。