米大統領選で「台風の目」となるドナルド・トランプ氏(69)。不動産王として米国では知らない人がいないくらいの有名人だ。
6月16日にニューヨークのトランプタワーで開かれた出馬表明演説で「不法移民を防ぐため、メキシコとの国境に『万里の長城』を築き、その費用をメキシコに払わせる」と発言したことが注目を集めたが、実はこのとき、日本にも牙をむいていた。
「日本は米国に何百万台もの車を送ってくるが、東京でシボレーを見たことがありますか? 我々は日本人には叩かれっぱなしだ」と聴衆を挑発し、「中国、日本、メキシコから米国に雇用を取り戻す」と訴えたのだ。
出馬前の2014年に英デイリーメール紙からインタビューを受けた際にも、「日本は我々に親切ではありません。何十万台、何百万台ものコンピューターや車などを売りに来ますが、日本人は我々に食料を売らせません」と発言している。
中国と日本、メキシコを一緒くたにしているうえ、1980年代の貿易摩擦問題がいまも続いているかのような時代認識で、相当な事実誤認がある。しかし、こうした日本などへの暴言や暴論を繰り返すたびに、トランプ氏の支持率は上昇してきたのが現実だ。
米国防総省の関係者は、トランプ氏はむやみやたらにケンカを売っているのではなく、周到に計算して攻撃していると指摘する。
「実はトランプ氏の標的はメキシコよりも中国と日本なのです。多くの米国人はヒスパニックについてよく知っているので、攻撃は慎重。その一方、中国や日本については、ほとんど知識がないから、どれだけ攻撃しても反論する人はほとんどいない。
米国での中国と日本のイメージは、『よくわからないが、米国の富を奪っていく背の小さな連中』という漠然とした敵のイメージで、『日本は山ほど車を輸出しているのに、東京にはシボレーが走っていない』といえば、多くの米国人は『日本は卑怯な国だ』と思うでしょう」
特に日本は、中国と違って「脅せばいうことを聞く」と思っているので、なおさら叩きやすいという。
トランプ氏の日本叩きはいまに始まったことではなく、むしろ筋金入りである。米プレイボーイ誌1990年5月号のインタビューで、彼はこう述べている。
「日本の科学者は車やVTRを作り、アメリカの科学者は日本を守るためのミサイルを作っている」
「日本人はウォール街でアメリカの会社を買い、ニューヨークで不動産を買っている。(中略)どうみても彼らはこちらをコケにするためだけに法外な金額を払っているとしか思えない」
※週刊ポスト2015年9月11日号