経営者に注目を浴びる心理学本がある。『WILL PОWER 意志力の科学』だ。著者の心理学者ロイ・バウマイスターは、何かを判断・決定したり、自制したりする力「WILLパワー(意志力)」は筋肉のように疲労し、また鍛えることができると説く。その理論を経営に生かそうというのだが、DaiGo氏は販売の現場でこそ、活用すべきだと話す。
「基本的に、何かを選ぶことや、判断・決定することは誰でもしたくないものなのです。なぜなら、選べば責任も生じるし、比較検討時に思いのほかエネルギーを費やすから。モノを買う人もこのWILLパワーを使っていると考えられ、買い物の後半になるほどパワーは減退していく。そのタイミングが売る側には絶好のチャンスといえます」
例えば、賢い自動車ディーラーほど、購入を決意している客に対して、単価の高い「商談」を後半にもってくるという。
商談のはじめは、座席シートの色や素材、また車周りのアクセサリーなどにする。なぜか。
「シートの色・形選びは、多くのバリエーションから決めようとすると意外と大変な作業です。そうやって客は知らずしらずのうちにWILLパワーを消耗します。すると、車のエンジンはターボ型か、ハイブリッド型か、普通のタイプかを選ぶ頃にはもうクタクタで、販売する側のお勧めにそのままのってくれることも多いのです」(DaiGo氏)
すべての商談が同じようにいくとは限らないが、客はWILLパワーを失うと、商談の最初の頃のように厳しく商品を吟味せず、「それでいいよ」と簡単に購入を決定する可能性があることを覚えておいて損はない。
また、ランチ商談でもWILLパワーを意識したい。ただ、この場合、客のWILLパワーの減退を待つのではなく、パワーが一定量まで高まるのを待つ。
「人が判断・決定する力は、体内の血糖値と比例する傾向があります。挨拶早々に商談を始める人をしばしば見かけますが、それでは客はYESと言いづらい。空腹で血糖値が低くWILLパワーが低すぎるのです。だから最初は雑談でコミュニケーションを十分にはかり、食事をして血糖値(WILLパワー)が高まったところ(約30分)で商談するといいのです」(同)