2012-01-25 23:31
つい先日、富士通がグループで抱える3万人ものSEを再教育して、職務転換を行う計画であるというニュースを知りました。
富士通の3万人SE職務転換大作戦は成功するのか? - GoTheDistance
一つのシステムを複数の企業などが利用するクラウドサービスがこのまま普及すれば、顧客の要望を聞いて個別システムを作り込むSEは仕事がなくなり、余剰人員問題が顕在化するからだ。
クラウドの普及により、オーダーメイドでシステムをゼロから構築する必要がなくなり、そもそも顧客からの要件をまとめてシステムを設計するSEの仕事が不要になったり、基盤を構築、運用するエンジニアが不要になるということは、最近になってよく言われることであり、特に新しいことではありません。もちろん、クラウドの普及によって、これらの伝統的なSEの仕事が少なくなり、人員が余るという議論は間違いではないと思います。
ただし、一方でより本質的に重要なことは、クラウドの普及により、要件の定義から実現、運用までの期間が大幅に短縮できるようになったり、基盤構築など多くの仕事が自動化されることで、上流から下流まですべてを担当できるような真のソフトウェア技術者の役割がシステム開発で重要になってきているというところにあると思います。したがって、上流担当のSEだからといってプログラミング言語や基盤技術のことをまったく知らないといったことが許されない時代になってきているということであり、アメリカ的な意味でのプログラマー(ディベロッパー)の仕事がもっと重要になってきているということを理解する必要があります。プログラマーというと、単に設計書に従ってコードを打ち込む単純作業をする人や、逆にすごく難しい計算式とアルゴリズムを使うような研究者など、まったく異なるいろいろな職業を思い浮かべる人がいますが、少なくともグルーバルな意味でのエンタープライズ開発のコンテキストにおけるプログラマーとは、顧客の要件を素早く実現する方法を提案して、そのまま構築し、場合によってはテスト自動化やデプロイメントまで担当する人のことを指します。そういう意味では当然上流も下流もありません。もちろん、経験やスキルによって下級プログラマーから最上級のプリンシパルプログラマーまで幅はありますが、上級職であっても、オブジェクト指向プログラミングができなくてよいということではなく、むしろお手本となるコードを書いたりコードレビューができることが求められます。
クラウド時代になったので、技術のわからない人でもシステムを構築できるということが時々聞かれます。もちろん、一部にはそのようなシステムもあるとはいえ、基幹業務やビジネスの中心にかかわるようなシステムであれば、クラウドを利用するとは言え、アイデアさえあればまったくの素人がシステムを構築できるとは考えるべきではないでしょう。この点については、ちょうど一年ほど前にも以下で議論しています。
日本のSI業界でこそ、専門の技術者の必要性がもっと見直されるべきではないのか? - 達人プログラマーを目指して
そういう意味において、ついに富士通のようなSIerも、今回の職務転換で今までのような上流偏重型の技術軽視の考え方を改め、
などの知識を持った専門家をついに育成することになるのかと期待したのですが、実情は大きく異なるようですね。
Weekly Memo:富士通が説くSIにおける人材革新のツボ - ITmedia エンタープライズ
「これまでは、いわゆるモノづくりに焦点を当てた人材づくりを行ってきた。現在、SEが担っているスキルとしては、コンサルティングから入って、開発のためのプロジェクトマネジメント、業務アーキテクチャ、品質マネジメント、ITアーキテクチャ、プロダクトアーキテクチャ、そして運用・保守を行うサービスマネジメントがある。しかし、これからは顧客価値の実現に向けて顧客とともに考えていくという取り組みが一層求められるようになる」
それが、図の上部に示されているところの「スキルからロールへのシフト」である。同社が新たな時代に向けて再定義したロール、すなわち「役割」に応じた職務は、「ビジネスプロデューサ」「フィールド・イノベータ」「コンサルタント」「サービスインテグレータ」の4つ。
もちろん、詳しい内容は分からないのですが、結局のところ、以前にもまして上流重視の方針のように思われます。*1残念ながら、富士通のSEの職務転換先には、(アメリカ的な意味での)プログラマーもSDET*2もクラウド基盤運用管理の専門家も含まれていないようです。
ところで、最近特許庁のシステム開発中断という以下のニュースも話題になっています。
調査報告書 平成22年8月20日 特許庁情報システムに関する調査委員会
特許庁の情報システムについて - myatsumoto blog
5年も前からずっと設計を行って結局完成しなかったということですが、その間コア機能を含む一部のサブシステムですら構築することはできなかったのでしょうか?このように何年もかけて上流の設計を続けても、まともなシステムが一つも完成しないという話は特許庁に限ったことではなく、メガバンクの基幹システム構築などいたるところで耳にします。そもそも設計に5年もかけていては、技術の内容もビジネスの内容も大きく変化してしまうわけでウォーターフォール的に設計を固定できるわけがないですし、仮になんとか完成にこぎつけたとしても使い物にならないシステムができるだけだと思います。
プログラマーの自分の目から見て、いつも非常に不思議に思うのは、こういった問題が起こった場合、
というような話は出てくるのですが、決してプログラムや基盤の設計が原因とされることがないということですね。実際にはこういった実装面の問題は全く無視できるはずはなく、コピーアンドペーストだらけで複雑になり、まったく手が付けられなくなったり、あまりにも性能が悪くて要件が満たせないというような問題はよほど簡単なシステムでもない限り大きな問題となるはずです。(プログラミングと設計は本来切り離せないものなのでは - 達人プログラマーを目指して)
伝統的に、日本のSI業界ではその構造から実装、構築の作業を軽視する傾向があったわけですが、いい加減にこのような考え方でシステム開発を続けることは品質やコスト、スピードの面でもう限界に達していると考えられるのではないでしょうか。
富士通のようなSIerはSEの職種転換を目指すのであれば、単に上流のコンサルタントだけでなく、上級の開発者の仕事をもっと重視すべきなのです。もちろん、そのためにはござ先輩も書いているようにSIerはビジネスモデルの大変革が必要だと思いますが。あるいは、ユーザー企業がもっと率先して上級のプログラマーを雇ってより短期間で効率よくシステムを開発できるようになるべきかもしれません。その場合、SIerは文字通りシステム統合の手助けとか、開発基盤の提供など、ビジネスモデルなどではなく、より開発のインフラよりの部分を担当する役割を担うことになると思います。