サントリーホールディングス(HD)は7月28日、「早ければ2018年にも株式を上場する検討に入った」との一部報道に対して、「当社が上場について検討に入った事実はない」とのコメントを発表した。
サントリーHDが「株式上場の検討に入った」と伝えられた背景には、米ビーム(現ビームサントリー)の買収で、財務内容が悪化したことがある。サントリーはビームを昨年買収し、蒸留酒で英ディアジオ、仏ペルノ・リカールに次ぎ世界第3位に浮上した一方、買収に1兆6500億円の巨費を投じたことで財務の健全性は低下した。
14年12月期連結決算によると、有利子負債は2兆453億円。前年同期の3.5倍となり、金額で2兆円を超えた。健全性の指標である負債資本倍率(ネットDEレシオ)は1倍以下が適正とされているが、13年12月期の0.1倍からビームの買収で一時、1.5倍にまで膨らんだ。当面は借入金の返済を優先させ、16年末までに1倍以下に抑える方針だ。
また、のれん代は前年同期比2.7倍の1兆1187億円、商標権は7.1倍の1兆3239億円に拡大した。日本の会計基準では、のれん代は20年以内に毎期定期償却する必要がある。
大型の買収を実行すれば、のれん代と償却負担が巨額に上り、業績に大きな影響を与える。サントリーHDの15年12月期業績予想の営業利益は、のれん代等の償却前が2610億円。償却後は1930億円に目減りする。のれん代等の償却は680億円と巨額だ。
14年12月期の自己資本比率は13年期の32.3%から19.4%に下がり、20%を割り込んだ。ROE(株主資本利益率)は30.7%から4.7%へ急落。ビームの大型買収で、ピカピカだったバランスシートは一変した。
グループで年商4兆円を達成するには、新たなM&Aが不可欠だ。プロ経営者としてローソンからスカウトした新浪剛史社長にとって初の大仕事は、日本たばこ産業(JT)からの自販機事業買収だった。
5月、上場飲料子会社であるサントリー食品インターナショナルは、JTの飲料自販機のオペレーター事業などを1500億円で買収することでJTと合意した。JTが売却する自販機事業は、国内業界4位で26万台の自販機を保有する。首位の日本コカ・コーラの保有台数は83万台、2位のサントリーは49万台である。今回の買収でサントリーは75万台となり、日本コカ・コーラに肉薄する。
アサヒやキリンのビール大手が買収に意欲を見せたこともあって、サントリーは1500億円の高値をつけて落札した。買収価格と純資産の差額であるのれん代は1000億円相当になる。20年の定額償却として、年間の償却額は50億円にのぼる。
サントリーHDは負債の圧縮に向けて傘下の仏コニャック製造子会社、ルイ・ロワイエを8月末に135億円で売却するなど事業の選択と集中を進めている。買収(=攻め)と借入金などの負債を減らす(=守り)のバランスをどう取るかが、今後の大きなポイントになる。
●“普通の会社”化の懸念も
サントリーHDは、ゼネコンの竹中工務店と並ぶ株式未公開会社の雄である。上場には高いハードルがある。鳥井・佐治の創業家一族の資産管理会社、寿不動産がサントリーHDの89.32%の株式を握っているからだ。上場会社になれば、増資を繰り返すたびに寿不動産の持ち株比率が低下し、サントリーは創業家の持ち物でなくなる日がやがてくる。このことを創業家は恐れている。
サントリーはこれまで非上場企業だったゆえに、思い切った決断ができた。1963年に参入したビール事業が08年に営業黒字を出すまで45年かかった。長い時間をかけてビール事業を育てることができたのは、非上場会社ゆえだったからである。
ビームの巨額買収も非上場ゆえにできた芸当だ。短期に収益の向上を求められる上場会社では難しかったといわれている。
サントリーHDが上場するということは、サントリーの持ち味がなくなり“普通の会社”になる懸念がつきまとう。
(文=編集部)