「財務状況が悪化しているときに、何も考えていないほうが会社の姿勢として問われる」。ワタミで経営企画本部長を務める小田剛志取締役がこう言い切るのは、8月に一部で報じられた介護事業の売却についてだ。
ワタミは今、事業売却の話が出てくるほど、窮状に瀕している。2014年度は128億円の最終損失を計上し、2期連続の赤字となった。
2015年度に入ってからも、第1四半期(4~6月期)は15億円の最終赤字。6月末時点の自己資本比率は6.2%まで低下してしまった。
こうした状況を受け、2014年度末の決算短信から、企業としての存続に黄信号が灯ったことを意味する「継続前提の重要事象」が記載された。ワタミは事態の打開に向け、不採算店舗の大量閉鎖、返済が迫ってきた短期借入金の長期切り替えを進めている。さらに、工場などの売却を方針として掲げており、こうした中で介護事業の売却も俎上に載せられたとみられる。
追い詰められた根因は、祖業である外食事業の不振だ。
2014年4月には主力業態の「和民」で商品単価を15%値上げした。その一方、鮮魚を取り入れるなど、品質を向上させることで客数増を狙った。しかし、2014年度の既存店客数は、前期比7%減となった。
苦戦の理由はブラック批判だけではない
「ブラック(企業という)批判の影響もあると思うが、提供する商品とお客様が求めるものとの間に乖離が生じてしまったことが、客離れの大きな原因だった」(清水邦晃社長)。調理工程が複雑化し、提供時間の遅れにつながったことも、客離れを加速させた。
その反省を踏まえ、今年4月には10年ぶりとなる値下げを実施し、方針を180度転換。平均単価を1割引き下げ、注文点数の増加を狙った。だが、第1四半期の既存店売上高は、前年同期比10.4%減で着地。通期計画の前提としている前期比4.5%減を大きく下回った。
厳しい状況は外食にとどまらない。これまで収益を下支えしてきた介護、宅食の両事業も苦境にあえいでいる。
2013年初に90%を維持していた老人ホームの既存棟入居率は、7月末には78.2%まで落ち込んだ。「広告だけに頼り、医療機関などへの小まめな営業ができていなかった」(中川直洋執行役員)側面もあるが、あるグループ関係者は「不祥事が大きく報道されたことで信用を失った」とささやく。
2013年に入浴中の死亡事故が発生したほか、今年2月にはノロウイルスが原因で入居者が亡くなった。命を預かる事業だけに、こうした事案が少なからず入居率に影響したと考えられる。
右肩上がりで成長を続けてきた宅食事業も、配食数が減少傾向にある。高齢者市場の拡大をにらんで2008年に参入したが、ここ数年で多くの競合が台頭し、健康をうたった類似商品が続出。
外食や介護におけるネガティブイメージも重なり、直近7月の1日当たり配食数は24.2万食と、2013年後半のピーク時から16%減の水準まで落ち込んだ。
今期の黒字化が不可欠な理由
今後についても不安が付きまとう。和民では、9月からご飯ものや麺類を中心に、メニュー数を増やす方針だ。「商品のバラエティ感を出してほしい」との消費者の声を受けたもので、商品数は68から85となる。
ただ、同業態では、4月にメニュー数を減らしたばかり。短期間でのメニュー戦略の転換によって、店舗のオペレーションに問題が生じないか、懸念はぬぐえない。
一方、介護は体験入居の料金を半額に下げたほか、各老人ホームに配置する入居相談員を増員。宅食は、新製法を導入した軟らかさ重視の総菜商品を拡充したり、広告宣伝費を積み増すことで挽回を狙う。どちらも評判が業況に大きな影響を与える事業だけに、信頼回復が最優先事項だが、効果のほどは未知数だ。
当面の課題は、今年度の業績回復である。
というのも、ワタミは介護事業に関連し、金融機関との間で財務制限条項付きの契約を結んでいた。ところが、近年の業績低迷により、2014年度末にこの条項に抵触した。そこで今年7月、条項を「連結ベースの純資産額を2014年度末に対して100%以上を維持する」という内容に変更することで、金融機関と合意。何とか急場をしのいだ。
ただし、今年度も最終赤字になるようだと、純資産は2014年度末よりも減少してしまう。つまり、黒字化が不可欠なのだ。
負の連鎖に陥っている主力事業の悪い流れを断ち切ることができるか。険しい道のりはまだまだ続きそうだ。
(「週刊東洋経済」2015年9月12日号<7日発売>「核心リポート01」を転載)