■入院中の我が子の点滴に"尿"を混入した母親
豪・ニューサウスウェールズ州にあるウェストミード小児病院に入院中の9歳の娘に毒物を投与したとして、その母親が傷害容疑で今年7月に逮捕された。逮捕後の調査によると、容疑者は入院中の娘の点滴に"尿"を混入させていたというのだ。
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この9歳の娘は、腎不全を含む重度の免疫不全疾患に苛まれており、生涯を通じての医療ケアが必要とされる病状にあった。今年の3月にもウェストミード小児病院に入院して集中治療を受けていたのだが、そこで看病をしていた母親がこともあろうに娘の点滴に"尿"を混入させて症状の悪化を図っていたのだ。
しかしこれだけではない。さらに捜査を進めると昨年の初旬にも、この母親は病状を悪化させる錠剤を我が子に与えていたということだ。今のところ容疑はこの2件だが、もっと短いスパンで定期的に我が子の症状を悪化させていた可能はじゅうぶんにあるだろう。母親の"看病"を離れて現在は退院している9歳の女の子は、深刻な病状からは回復し快方に向かっているということだ。
そして先の8月19日に初公判が地元の地方裁判所で開かれ、マスコミを含む傍聴人の前にこの42歳の母親が姿を現した様子を各メディアが伝えている。
横縞のネイビー風のシャツに真っ赤なニットの上着を羽織った容疑者は終始黙秘を続け、"尿"以外には特に重大な新事実が明らかになることもなかったようだ。第2回公判が10月14日に告げられてこの初公判は終わった。それにしても自分の娘の病状を悪化させる母親とはいったいどんな存在なのか? 子どもを持つ親たちへ向けたオーストラリアの情報サイト「Kidspot」が掲載した"ある筋"の情報によればこの母親には「代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome by Proxy)」の可能性があると伝えている。
■代理ミュンヒハウゼン症候群
代理ミュンヒハウゼン症候群とは実にやっかいな精神疾患で、我が子を虐待してケガや病気を負わせているにもかかわらず、部外者に対しては子どもを献身的に介護しているように装おうとする人格障害といわれている。ちなみに攻撃の対象が子ども(他人)ではなく自分自身に向かって"自傷癖"のある者は"代理"がつかない「ミュンヒハウゼン症候群」と呼ばれている。
ということであれば、この母親は世の注目を惹き、献身的な母親にみられたいがために我が子の病状を悪化させていたことになるが......。
■我が子を死に至らしめる「代理ミュンヒハウゼン症候群」の母親たち
代理ミュンヒハウゼン症候群が世間に広く知られるようになったのは、なんといっても昨年のガーネット・スピアーズ君死亡事件だ。
昨年1月23日、激しい腹痛を訴えて米・ニューヨークの病院に運ばれた後に死亡した5歳のガーネット・スピアーズ君に世間からは深い哀惜の声が寄せられた。もともとガーネット君は生まれながらに虚弱体質でいくつもの病気を患っており、それまでに23回以上も入退院を繰り返していたほどだったのだ。つきっきりでガーネット君の面倒を診ていた母親のレイシーにも同情が集まったのだが......。
しかし事態は一変、亡くなったガーネット君が大量の塩分を投与されていたことが判明し、警察が極秘に捜査を行なったところ、母親のレイシーがガーネット君に大量の塩を与えていたことが明らかになったのだ。いったい我が子を死に至らしめる動機とはなんなのか......。ここで登場してきたのが、代理ミュンヒハウゼン症候群である。検察は彼女がこの精神疾患の状態にあると考えたのだ。
死亡事件前、レイシーはブログやFacebookで息子の「闘病記」を写真を交えながら日々掲載しており、共感する多くのフォロワーを獲得していたという。息子の病状が酷い時ほど多くの応援の声が寄せられたことも代理ミュンヒハウゼン症候群の症状をエスカレートさせる要因になったのかもしれない。
初公判では第一級殺人罪と、第二級殺人罪に問われたが、レイシーは無罪を主張。しかしその後、息子を伴って流動食のチューブを持ったまま病院のトイレに入るレイシー親子を捕らえた監視カメラの映像が発掘されたり、自室から塩が入った流動食用のパッケージが発見されるなどして、今年4月に開かれた公判で懲役20年が言い渡されている。
(文=仲田しんじ)
※画像は「Daily Telegraph」の記事より