SEALDsはなぜデモをするのか〜中心メンバー・奥田愛基さんが語る「運動論」 | ニコニコニュース

安保法案に反対するデモが盛り上がりを見せるなか、新しい動きとして注目されているのが、10代、20代の学生のグループ「SEALDs」だ。国会前で、ヒップホップの音楽を流しながらリズミカルに掛け声(コール)をかけたり、若者らしいファッションで自分の言葉で語りかけるスピーチなどが話題になり、その活動がメディアで頻繁に紹介されるようになった。

このSEALDsは、正式名称を「Students Emergency Action for Liberal Democracy - s(自由と民主主義のための学生緊急行動)」というが、どんな学生が、どのような経緯で立ち上げ、どのように活動しているのかーー。SEALDsの中心メンバーであり、その母体であるSASPLの立ち上げメンバーでもある明治学院大学4年の奥田愛基さんが、8月9日に東京・代官山で開かれたトークイベント(主催・69の会)に登壇し、活動の歴史を語った。

司会は、ジャーナリストの津田大介さんがつとめ、コラムニストの松沢呉一さんとともに、奥田さんに質問を投げかけていった。それに答えて、奥田さんは「なぜデモをやるのか」という理由を明かした。(取材・構成:亀松太郎)

特定秘密保護法の成立がきっかけだった


津田:SEALDsの元になった「SASPL」が生まれた経緯を教えてください。

奥田:SASPLは「Students Against Secret Protection Law」の略で、「特定秘密保護法に反対する学生有志の会」。特定秘密保護法を意識しているんですね。

それまでは僕も、「(原発の問題などについて)みんなでもっと考えていけば、いい社会になる」とか、「賛成も反対も両方あって、一緒に考えたらもっと良くなる」と、なんとなく、そう思っていたんですよ。そういう会もいっぱいあって、「賛成も反対も両方あって、今日も考えました。引き続き、みなさんで考えていきましょう」みたいな感じで。

そういうのも全然いいと思っていたんですけど、気がついたら、2012年の終わりに自民党が大勝する選挙があって、いままで考えてきたものってなんだったんだろう、と。「考えるきっかけになった」とみんな言ったけど、その結果がこれか、と。政党なんかも、よくわからなかった。民主党、社民党、共産党、維新の党、未来の党・・・。これ何が違うの、という感じなのに、みんな協力できず、小選挙区制の中で負けていくというか。

そういうのがあって、「考えましょうの結果がこれか」という感じで、ちょっと考えるのがしんどくなった。ちょっとブレイクダウンというか、自分のなかで勉強したり、吸収するだけの時間にしようと。

そうだったんですけど、ちょっと時間がたって、2013年の12月に特定秘密保護法が通るとなったときに、法案を友達に教えてもらって、自分でも調べてみたら、「これ、たしかにすごい法律だ」と思って。

津田:その教えてくれた友達は、SEALDsのメンバーでもあるんですか?

奥田:そうです。同じ大学の友達で、そいつから「この法案はこういうふうに使われるかもよ」と。別に国家が情報を管理することが全部ダメだとは思わないんですけど、日本って結構、情報の管理が適当なんですよね。公文書の管理とか、情報の公開とかが、ものすごく問題があると言われ続けたなかで、この法案はどうなんだと思って、国会前のデモを見に行ったんですよ。

賛成も反対もなく、みんなでちょっと見に行った。そのあと、日比谷公園に集まってしゃべったりしたんですけど、その夜にツイッターとかを見てたら、報道ステーションで古舘さんが「今日、民主主義が終わりました」とか言ってて。「民主主義が終わったらしいぞ」「マジかよ」みたいな(笑)。

知る権利が侵害されるとか、デモができなくなるとか、みんな言ってたんですけど、はたして知る権利って、みんなそんなに使ってたの、と。デモとか言うけど、表現の自由って、みんな使ってたの。デモもやったことがないし。考えるのは大事で、それは全然否定されることじゃないけど、ずっと考えていてもしょうがないな、と。

最初「デモをやりたい」と言ったら、シラーッとなった


津田:特定秘密保護法が出てきて、国会で可決されたというタイミングで、ちゃんと声をパブリックな場所であげようと考えた、と。

奥田:普通は可決されるまでの運動なんですよ。「法案を阻止するぞ」みたいな。「可決されるまでがんばろう」という感じなんですよ。僕らはなぜか、可決された夜に「民主主義が終わった」と言われて、「じゃ、始めなきゃ」と思った。

津田:なるほど。面白いですね。もう決まってしまったと思ったら、それが火をつけるきっかけになった、というのが。

松沢:だいたい運動って、そこ(可決)で終わるわけですよ。そこから始まるというのは、実はものすごく正しかったと思うんだけど、彼らがやってきたことは、テーマはともあれ、民主主義を取り返すとか、始めるということだったわけじゃないですか。それが、そこから始まっているというのは、すごく象徴的。で、そのときは、どうやって人を集めたんですか?

奥田:初めは、特定秘密保護法に反対する会とか、勉強会とかを各大学でやっていたんですよ。あまり話題にもならなかったんですが、ICU(国際基督教大学)に300人が集まったりとか。

あのときも、学者の会みたいのがあって、各大学で勉強会をやっていて、それに参加したり、手伝っていた子たちはだいたいわかっていた。その友達の友達とか、先生にも直接言ってゼミ生を紹介してもらったりして、中心メンバーが10人くらい集まった。国会前にも15人くらいで行った。

津田:今のSEALDsの中心メンバーが10人ぐらいで集まった最初の会合で話した話題って、どういうものか覚えていますか?

奥田:そのときは終電を逃して、家に帰れなかったんですが、「俺は絶対反対と言いたい」と言いました。「ちゃんと調べて、一人でしゃべれるくらいやったうえで、デモとかをやりたい」と言ったんですよ。

そうしたら、みんな、シラーッとなって。「え、デモ?」みたいな。「なに、言ってるんだ」と。「学生、政治、デモ、絶対ダメ」みたいな。

津田:シールズも最初はそんな感じだったんですね。面白い。

デモに行くような「動く100人」がいるほうがいい


松沢:デモに賛成したのは何人ぐらい?

奥田:半分ぐらいでした。いまは僕ら「安倍はやめろ」と言ってるんですけど、そのときは「自民党の人も説得するような感じじゃないとダメだ」とか。あと、「いままでそれで成功した人が、一人でもいるのか」とか。学生でデモをやっても、メディアで取り上げられることはまずないし、それでカッコいいとか、学生が満足したというのを聞いたことがない。20万人ぐらい来たらいいけど、100人も集まるのか、と。

でも、「シンポジウムとかやって考えましょう」とか言ってもしょうがないじゃん、逆にそちらのほうがつまらないよ、と言って。むしろ、ちゃんと「こういう論点でおかしいと思うんだけど、どうだ?」というのを社会に問うほうがいい。考えましょうとか、議論があるとかではなく、もっと突きつけないと。

中立的にやったほうがメディア受けがいいのは、間違いなかったんですよ。賛成も反対もあるシンポジウムで、若者が「こういう意見もありますね」という感じで言うと、「この学生はバランスがとれていて、えらい」となるじゃないですか。ただ、「中立」と言われるところが、だんだんおかしなことになっている。いまは、現行の憲法を読もうものなら左翼みたいに言われる。憲法の勉強会をやろうとしたら、ダメになったりとか。

でも、日本国憲法って、現状のありとあらゆる法律の根拠、最高法規なわけで、それが何も言えなくなったら、法治国家としてやばい。「憲法って政治的だ」という感じになっちゃうんですけど、公民の教科書に日本国憲法のことが書いてあったら、それは政治的なのか、と。おかしくなっちゃうんですよ、そんなことになったら。

松沢:こういう運動をやるときに「デモなんかやっても、どうせ変わらないよ」という意見があるけど、SASPLやSEALDsがいま、そこを変えている。デモをやったり抗議をやることで、メディアは動くぞ、それに影響された人たちもみんな立ち上がるぞ、政治家までくるぞ、と。その成功体験をいま作っているというのが、ものすごく大きいんだけど、最初のときに「変えられる」という人が、よく半数いたよね、逆に言えば。

奥田:僕も含めて、その3日前までは「やらないほうがいいんじゃないか」という話もあったんですよね(笑)。ただ、発想としては、100人集まってデモをやって社会を変えられたら、そのほうが怖い。シンポジウムをやったって、社会は変えられないし。0か100で考えるのはやめよう、と。

いま一番、何をやりたいのか。ふわっとなんとなく来て「考える人」が増えるのがいいのか、それとも、デモぐらい来ちゃうぜという「動く100人」がいるほうがいいのか。どっちがいいかと言ったら、それは「動く100人」がいたほうがいいね、と。

津田:その説得の仕方は、なかなか感動的ですね。

もともとは「2016年の選挙」を目標にしていた


奥田:だから、初めから、全部が全部、変わるとは思っていないんですよ。若者は政治に関心がないと言われて、投票にいく若者は3割しかいないと言われるけど、一定数はいるんです。(やろうとしていることが)正しいかどうかわからないし、うまくいくかどうかもわからないけど、一応、メディアリリースや記者会見までやって、ちゃんと取材してくださいねとお願いしたりして、いろいろ動いてきた。

津田:なるほど。よく考えられていますね。でもそれって、学生が主体となった運動にしては、すごく用意周到じゃないですか。普通の人は、デモをやろうと思っても、メディアにリリースを送って「取材に来てください」なんて発想にならないはず。PRとはどのようなものか知っているプロの発想です。そこはどういう流れでそういうことをやろうという話になったんですか?

奥田:一発やって終わるのは嫌だという話になって、デモをやってもいいけど、5手先ぐらい先を読んでおかないとダメだと言っていました。

津田:デモを広げていったり、具体的な運動論とかで、参考にした人の話とか本はなにかありますか?

奥田:あのときは、普通に飲みながら、こういうことをやったらいいんじゃね、みたいな感じで話してました。そのときに思っていたのは、社会って、もっと声を出す人がいてもいいし、そのバランスが取れていないと、おかしなほうに一気にいってしまうということ。何かあったらデモをやるのもいいし、もうちょっと政党のバランスがとれているようになってほしい。

そのためには、2016年の選挙のときに、あのときは衆参ダブル選挙と言われていたんですが、そのときぐらいまでに、若者が全国で2000人ぐらい立ち上がったらいいよね、と。

津田:なるほど。そもそもSASPLやSEALDsの活動というのは、2016年の参院選をターゲットにした地道な活動だったんですね。ところがこの安保法制議論の盛り上がりの余波で一気にメインストリームに乗ってしまった、と。

奥田:そういうことを考えると、名前と顔がわかる「動ける人」たちが大事だし、それを「伝える人」たちが大事。動く人だけじゃなく、そういう人に巻き込まれて、ちょっと行ってみようかと思って行った人たちが、また感化されるような仕掛けが重要。

それが自分たちにとっては、ビジュアル的なものだった。白黒で、Wordで作ったみたいなフライヤーって、普通、デパ地下とかで、もらわないですよね。ヒカリエとかだと、めっちゃ、オシャレなやつとかが配られるじゃないですか。ちゃんとAdobeのソフトとかで作られている。

ふと考えたら、なんで、デモとか社会運動はそうなっていないんだろう、と。なんで、これでいいやと思うんだろう。本当に変えたいと思って、本当に伝えたいと思ったら、伝える努力をしなきゃと思った。

松沢:最初のメンバーのなかに、いわゆる市民運動とか、社会運動の経験者というのはいたの?

奥田:初めはあまり、いなかった。震災以後に、原発関係でおかしいんじゃないのかとハンガーストライキをやった子たちが1人か、2人いた。それと、音楽を聴いていて、イベントとかをやっているやつ。

津田:最初から、メンバーの中に音楽のイベントに慣れている人がいたことが、ちゃんとデモに生きている、と。

奥田:そいつがもう、ひたすら「これまでにないことをやりたい」「伝え方を一新したい」ということを言っていて、最初のデモが終わったときに、すごい微妙な顔をして、「アキさぁ、すごいカッコいいことをやりたいと言ったけど、これ、デモじゃん?」とか言って。僕のほうは「デモだよ、デモやるって言ったじゃん!」と(笑)。「この程度だったら、まだダメだね、20点」と言われて、すげームカつくと思いながら。

津田:1回目のときは、どんな感じで、どんな場所でやったんですか?

奥田:最初のデモは、新宿の柏木公園から新宿駅までで、500人ぐらい。自分たちが想定したよりも多くて、「やっぱりいるじゃん」「ちゃんとくるんだ」という感じだった。少なくともいまはゼロだから、自分たちが受け皿になっていかないといけない、と。フライヤーの文字が「コンマ数ミリ」ズレても気になる


松沢:それから、まだ1年数か月だよね。そこから、規模がものすごい勢いで大きくなって。メンバーは、いま何人?

奥田:いまは、関東が190人ぐらいいて、東北が30人ぐらいで、関西が130人か140人。あと、沖縄も。

津田:これはネットでシェアされて、なるほどと思ったんですが、「SEALDsのメンバーは学業もちゃんとやりましょう」というスタンスなんですね。文武両道みたいに、なるべくなら単位を落とさないようにするという。そのあたり、お互いの共通ルールは決めたりしているんですか?

奥田:「デモをやって学校を休むぐらいなら、学校に行け」と言っています。規約とかは、口座を作るときに作らなければいけないので、形式上はあると思うんですけど、ただ、自分たちで共有しているのは、3つだけ。そのうちの1つは「ポジティブ」。「どうせやっても意味ないじゃん」とか、「こんなこと言われる」と言ってもしょうがない。なんかやったら言われるからしょうがないし。やってもないことを心配してもしょうがない。やっちゃったことはやっちゃったからしょうがない。ネガティブなやつが世界を変えても、ネガティブな世界になるから、と。

津田:そういう話を伺うと、SEALDsの意思決定システムが気になります。そのあたりはどうしているんですか?

奥田:意思決定で大事なのは、その企画のクオリティが高いかどうか。バンと企画が出て、みんなでチェックするとき、みんなが適当なことを言うけど、だいたい、いい企画は誰も何も言わないんですよ。「いいじゃん!」みたいな感じになって、盛り上がったら、それはやろう、と。多数決とかは、ないですね。

津田:多数決というよりも、その場のグルーブ、ノリを大事にしているんですね。

奥田:そうですね。グルーヴみたいな感じで。あと、フライヤーとかを作るときも、フォントが気に食わないとか、コンマ数ミリ、左に寄っているとか。誰がそれを気にするのかとも思うんですけど、俺ら的には、気にするやつは絶対いると。俺らの同世代で、それがコンマ数ミリずれていたら、「やっぱりSEALDsって、全然そういうの関心ないんだ」と思われたら嫌だ、と。

津田:政治的にどうこう言われるのはしょうがないけど、「ダサい」とは言われたくな?

奥田:そうですね。ダサいと言われたくないし、政治的にも、実は、言葉にすごく気を使っています。たとえば、「安倍政権」と言っている企画書と、「現政権」と言っている企画書の違い。各政党にロビーイングに行って、企画書を出すときは、全部「現政権」と統一するとか。名指しすると厳しい感じになるので。「9条の問題」というか、「憲法の問題」というか、「立憲主義の問題」というのも、どういうところに出すのかによって、ちゃんとチェックしている。

津田:SEALDsは、学者の会とかとも連携して、いろんな学者の先生がきて、スピーチをしていますよね。そういう学者の先生をゲストに招いた勉強会なんかかもやっているんですか?

奥田:やってますね。法律の研究家とか、弁護士とか、もともと政策を作っていた人を招いて、どういう条文で、どこがどう間違っているのか、とか。ただ、それを全員がシェアしているかというと、一応、みんなが入っているのもあるんですけど、特化している部隊もあって、デザインに特化している部隊とかがある。

津田:なるほど。理論武装部隊があって、デザイン部隊もあって、イベント企画部隊もある。そんな感じで、勝手にメンバーの中でクラスタができてきているんですね。

奥田:そうです。おのおのが希望で、入りたいところに入る。僕は全部に入らされているんですが(笑)

SEALDsに「代表」がいない理由


松沢:そもそも、奥田くんは代表ではないの?

奥田:代表じゃないです。

津田:代表的役職を作ったり、「お前が代表になれよ」という話はなかったんですか?

奥田:「代表を作っちゃえよ」という話もあったんですけど、自分が思っている憲法観とか、意見とか、細かいところでいうと、たぶん、みんな違うと思うんですよね。

「SEALDs」と、最後に複数形の「s」をつけているのも、一人ひとり、感覚とかが違うし、個人個人で参加していいと、個人個人として考えている。ただ、大枠で「憲法は守ったほうがいい」「戦争はしないほうがいい」ということでは、もう完全に一致しているから、そこは統一しましょう、と。

津田:デモのやり方を変えたということでいえば、SEALDsは「コール」も特徴的ですよね。「民主主義ってなんだ?」とコールすると「なんだ?」とレスポンスが返ってくる。どんどん新しいコールが出てくるし、なんならスピーチした人の印象的なフレーズがそのままコールになったり。

奥田:あれも、淘汰されていくというか、受けないやつがあるんですよね。「あ、これはやめておこう」と。

松沢:たとえば、受けなかったのは、どんなのですか?

奥田:まず、「激おこプンプン丸」というのですね。高校生がいまやったら、「高校生は新しい」と言われたりしているんですけど、SASPLがやったときは、もう全然だめでした。大学生と高校生の違いがある。

松沢:高校生も、SEALDsに来ていたんですよね?

奥田:SEALDsはいま、めちゃくちゃ攻撃されていて、僕なんか、ツイッターでつぶやくだけで、2ちゃんねるのまとめができるんですよ。そういうところに、未成年の子はどうなのか、と。大学1年生だったら、自分で生きていく力もあると思うけど、高校1年生だったらまだちょっとと思って、断ってたんですよ。「高校生はごめんなさい」と。

でも、ずっと断っていたら、勝手に高校生グループができていた。気がついたら、高校生5000人デモとか。そうしたら、俺より攻撃され始めて・・・。なんか悪いことしたなと思いながらも、それはそれでいいな、と。おのおのが自分たちのやり方でやっていけばいいな、と。

10年先の高校生が参考になることをやっていきたい


津田:本来は2016年の7月までに、少しずつ学生たちが集まって意見を表明できるように自分たちのプレゼンスを築いていって、「話せる場所を作ろうよ」という地道な活動だったはずのSEALDsが、今はもう、具体的に現政権に影響を与えるくらいの力をもっていて、かつ広がりももっている。その渦の中心にいて、大変なことも多いと思いますが、今後、どうしていきたいのか。この力をどういう方向に生かしていきたいのか教えてください。

奥田:僕は、問題がない社会はありえないと思うんですよ。たぶん、安保法制のことが廃案になっても、なにかあるんですよ。それが10年先なのか、来年なのかわからないですけど、もっとやばい問題がくるとなったときに、なにか参考になるものがあるといい。自分の同世代が言っているカルチャーが1ミリもなかったところで、10年先の学生とか高校生がYouTubeを見て、「こんなやり方で、こんなことを言っていいんだ」というのをやったらいいな、と思っている。それがちょっとでもできているならいいと思う。

でも、逆に言うと、10年後にそれを言っているのは、俺じゃなくてもいいと思うんですよ。というか、明日にでも、俺じゃなくてもいいと思うんですけど。

津田:先ほどの話を受ければ、既にこの半年間で、「高校生にバトンが受け渡されている」という言い方もできそうですね。

奥田:高校生デモにいったら、「SEALDsの方は後ろで」と言われました。「ごめんなさい、僕、もう23歳で、大学4年生ですみません」と(笑)。そういう感じなんですけど、それはそれで、とてもいいことだと思うんですよね。未来につながっていくことが希望というか、次の世代に生きていくことなので。

ただ、誰の問題なのかというときに、「若者の問題だ」という感じでスピーチされる方もいるんですが、それは結構しんどい。あなたの問題でもあるでしょ、と。

いまは20代の、娘や息子のいない同世代のメンバーが、将来の自分の子どもに向けてスピーチをしているんですよ。自分の子どもができたとき、子どもからなんと言われるだろう、どういうふうにこの時代が評価されるだろう、ということを言っている。特に女性のメンバーは、そういうことを言っている。

どの世代であっても自分たちの問題だと思うし、一人ひとりが考えていかなきゃいけないんですけど、いま僕がここでしゃべっているのも、一つの現象でしかない。たまたま2015年に、一歩踏み出したやつ、言いだしっぺが俺だったというぐらいのことでしかない、と思うんですよね。

高橋源一郎さんが最近、古代ギリシアのデモクラシーの話をしていて、古代ギリシアではクジ引きで政治家が決められていた、と。デモクラシーだからしょうがないといって、選ばれたやつはやらなきゃいけなかった。

SEALDsのメンバーも、「俺がやらなくてもいいんだけど、しょうがない。民主主義国家だから仕方ない」と言いながら、国会前に行ってたりします。僕もクジ引きみたいに、今はたまたま選ばれているのかな、と。だから、SEALDsとして今後どうしていくのかというと、早く解散できるのなら解散して、みんなおのおのの人生を歩んでいけたら、それはそれでいいと思う。

津田:もう一つ、これは「デモで社会が変わるのか」という話でもあるんですけど、これだけクリアに主張があって、ロビー活動もやられている。そこまでやるなら「もう政治家になっちゃえよ」という話もあると思うんですけど。

奥田:政治家は絶対に嫌ですね(笑)。政治家の人には申し訳ないですが、あまり幸せそうではない感じがします。なんか、すごく面倒くさい話を毎回、持っている感じがあって。いまは政治家に興味があるというよりも、政治家を作る社会のほうに興味がある。

松沢:そこもいろいろで、SEALDSの中には「政治家に行こうかな」というのも、実際にはいますよね?

奥田:います、います。自民党から出たいというやつが。「お前、自民党に行って、崩壊させてこい」と言ってますけど。

松沢:まだまだできることはたくさんあると思うけど、いま、SEALDsの主要メンバーは飽和状態。連日、対談やデモやイベントで「なんにもしない一日がほしい」と聞いたことがある。そんな彼らに代わって、彼らができないことをサポートするというのはどうですか?

奥田:国会前でやっているのは、こんな僕みたいので、誰でもできるんですよ。「学生たちはここができていない」と思ったら、どんどん勝手にやってほしい。できない理由を探さないでほしい。

津田:難しいことがわからなくても、「安保法制ってどう思う?」と日常で会話するだけでも変わってくるかもしれない。それ以上に一歩を踏み出したい人は国会前に来るという方法もある。奥田さん自身、そんなに多くのことは望んでいないんですね。

奥田:できることを、できる人が、できるかぎりやればいい、ということですね。

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