美しくも皮肉な運命、短命に終ったNASAの「ワームロゴ」の話

150908nasaslostlogo.jpg


ロゴというものがいかに大切か、というお話。

ロゴ、それは企業や施設、イベントのとなるものです。団体のPRとして、何よりも誰よりも表にでてくる存在です。だからこそ、ロゴのデザイン、その取り扱い方は非常にデリケートで大切です。デザインが上手くいったとしてもそれだけじゃありません。ロゴの発表、告知の仕方も重要なのです。さて、宇宙と生きるあのNASAに、そんなロゴにまつわる苦い歴史があることをご存知ですか?


150908nasaslostlogo01.jpg


現在のNASAのロゴは、上の画像にある通称「ミートボール」と呼ばれるもの。青い惑星に、きらめく星々、そこに赤い閃光のような動きが走るお馴染みのロゴです。NASAと言えば、宇宙と言えばこのロゴが浮かぶ人もいるでしょう。このロゴが採用されたのは1959年。そして、他のデザインに1度変更されたのちに、1990年代初頭にまたこのミートボールに戻りました。今回は、このミートボールロゴではなく、その間にあった「ワーム」というロゴの話です。

たった20年あまりしか採用されなかった短命のロゴ「ワーム」が制作されたのは1974年。ニクソン政権時代に、グラフィック使用の改善というゴールを持った政府プロジェクトの一環として制作されました。デザインしたのは、ニューヨークのデザイナーRichard DanneさんとBruce Blackburnさん。2人は力を合わせ、ロゴを造り出しただけでなく、その使用方法にいたるまで細かくデザインしました。それは、ロゴを使用するすべてのもの、スペースシャトルからスタッフのユニフォームまで多岐に渡りました。この使用マニュアルの1冊が、Displayにてオンラインで保存されています。


150908nasaslostlogo03.jpg


150908nasaslostlogo04.jpg


150908nasaslostlogo05.jpg


150908nasaslostlogo06.jpg


なぜこのワームロゴは短命に終ったのか。まるでそうなることが運命だったと言わんばかりに、問題はロゴ誕生当初に発生してしまいました。ロゴが正式に発表される前、まだその存在がトップシークレットだった時点で、あろうことかNASA自身がワームロゴがあしらわれた限定ステーショナリーセットを、NASA傘下である各センターに送ってしまったのです。なんと痛いミスでしょうか。

この時のことを振り返りデザイナーのDanneさんはこう語っています。

「ワシントンからとんでもない贈り物、新ロゴをあしらった便せんが。これで国中に一気に新ロゴが知られてしまった。なんという失態だろう! 僕らは、こんな浅はかでおざなりな方法で新ロゴを発表するつもりなんてなかったのに、もう遅い。本部もこの重大なミスに気づき、なんとか対策を講じようとした。その後の対策は、僕が関わったものの中で最も難しかったことの1つだ。本部のPR担当と僕で、全米にあるセンターからセンターに出向き、すでに不信感を持つスタッフに何度も何度もデザインの全容を説明したんだ」

NASA傘下にあったセンターや関連機関は、急に現れた新ロゴの存在に驚きました。長年愛してきた、地球における宇宙事業の象徴とも言える青く丸いミートボールロゴが、なんの事前説明もなく送られてきた便せんにあるロゴにとって替えられようとしたのですから、その動揺は当然のものだったでしょう。動揺や反感がすでに生まれてしまったあと、NASAやデザイナーは何ヶ月も説明に追われました。なぜロゴを変更するのか、どのように決定したのか、その経緯をさかのぼって説明しつづけました。


150908nasaslostlogo07.jpg


なんという初歩的でありふれたミスでしょう。何ヶ月もかけて新ロゴプロジェクトを進めてきたのに、その発表の仕方で失敗するとは。多くの企業や団体が同じ過ちを犯してきました。現在でもまだそれは起こり、最近ではSpotifyがやってしまいましたね。

NASAが痛恨のミスを犯したワームロゴは、それでも20年公式ロゴとして生きました。いや、20年しか生きられなかったというべきでしょうか。当時、NASA内では、職員の間にミートボール派とワーム派という構図があったそうです。1970年代のデジタルぽい雰囲気があるとして、若手のスタッフはワームロゴを好んでいたといいます。ミートボール派とワーム派は、言い換えれば熟練スタッフと若手スタッフの構図でもあったのです。

Danneさんは、その時の様子も振り返って語っています。

「よってしまったシワを伸ばしてセンターからの信頼を取り戻すのには何ヶ月もかかった。とくに昔からのスタッフはなかなか厳しくて、愛すべきミートボールロゴがなくなるのをとても嫌がった。彼らは、何かと理由をつけては新ロゴを批判した。新ロゴに「ワーム」という呼び名をつけたのも彼らだ。中傷の意味でつけたのだが、時がたつうちにそれも愛称に変わっていったけれど。NASAスタッフでも若手は、この新ロゴを気に入って強くおしてくれた。古参VS若手の構図だったよ」


150908nasaslostlogo08.jpg


NASAの発表ミスにより、快く受け入れられないままに元のミートボールへと再び取って代わられてしまったワームロゴ。ロゴの持つ力の強さ、人々への影響がよくわかります。特にNASAですから、多くの宇宙少年少女の夢がつまったロゴですから、思い入れが強い人が多かったのですね。NASAのロゴのお話でした。


source: Display; h/t Under Consideration and Boing Boing

Kelsey Campbell-Dollaghan - Gizmodo US[原文
(そうこ)

  • NASA ―宇宙開発の60年 (中公新書)
  • 佐藤 靖|中央公論新社
  • NASAより宇宙に近い町工場
  • 植松 努|ディスカヴァー・トゥエンティワン