テリー伊藤「日本人は他人を批判する天才になった」 | ニコニコニュース

日刊SPA!

 今年3月に朝の情報番組『スッキリ!!』(日本テレビ系)を降板したテリー伊藤は、そのわずか3か月後に『白熱ライブ ビビット』(TBS系)と『チャージ730!』(テレビ東京系)で‟掛け持ち”復帰を果たす。多忙を極める生活のなか、CSのMONDO TV『テリー伊藤のTOKYO潜入捜査』では、アンダーグラウンドな世界へと果敢に足を踏み入れる。テレビ界で確固たる地位を築いた彼が、あえてマニアックな番組にこだわり続けるのはなぜなのか?

◆若者のテレビ離れとYouTube文化

 テレビ業界を最前線で引っ張ってきた人間として、「テレビ離れ」が叫ばれる昨今の状況をどう見ているのか?

「若い人のテレビ離れっていうけど、いざ大事なときになったら彼らだってテレビを観るんだよね。ずっとは観ていないだけであって。それでテレビ離れとセットで語られるのが、YouTubeなど動画サイトの台頭なんだけど、実際はそのYouTubeでテレビ番組を観るというパターンもあるわけでね。俺はテレビの世界の人間だけど、テレビの未来がどうなろうが、どうだっていい。知ったこっちゃない。それよりは『次に自分がどういった面白いことをやるか?』というほうがはるかに重要であってさ。面白いことができるなら、発表の場はMONDO TVでもいいし、YouTubeでもいい。『何をやるのか?』が大事だから。

 それでもYouTubeとかに心酔する人は、『テレビは大多数の大衆に向けたメディアだから、エッジの立った表現ができない』とか言うんだけどさ。でもYouTubeの中で展開されるエッジなんて、せいぜい30秒から1分くらいの短い動画が多いじゃない。賞味期限も短いし。インパクト勝負のCMみたいなものだよね。15秒のCMで行われる演出っていうのは、2時間の映画で得られる深い感動や余韻とは違っていて当然なの。YouTubeとテレビの関係もそれと同じなんだよ。まったくジャンルが違うし、棲み分けができている。優秀なCMディレクターやYouTuberに『じゃあゴールデンで番組を作ってみたら?』と言っても、そう簡単にいく話ではないんだよね。そういう意味じゃ、テレビは死なないよ」

◆SNSでのバッシング。それを恐れる番組作り

 テレビの製作現場で聞かれる声に「視聴者からのクレームが怖い」というものがある。特にインターネットのSNSが力を持つようになってからは、ますますその傾向が強くなっている。

「日本人はある時期から、他人を批判する天才になったと思う。これはつまり、物事を想像する力が減ってきたということでもあってね。SNSで『この番組はつまらない』って書き殴るのは簡単だけど、じゃあそいつらが代替案を出せるのかっていったらそんなこともない。『自分だったらどうするのか?』という発想が、まるでないんだ。当事者意識がゼロ。

 これは由々しき問題ですよ。なんでもかんでも非難ばかりしていたら、将来、自分の人生が行き詰まるから。ネガティブに捉えるのではなくて、どうしたら世の中を面白くできるのか? 自分だったらどうするのか? そういう思考回路を身につけないと、だんだんと『社会が悪い』『家族が悪い』『会社が悪い』ってなっていくものだから。実際、そういう事件も増えているじゃない。

 そういう意味で、テレビの視聴者は試されているんだよ。優秀な奴らはとっくにそのことに気づいているから、SNSで芸能人を叩いたりしない。逆に批判している人は、自分の中にモヤモヤする思いがあるんだろうね。女の子にモテたり、面白い毎日を送っている人は、批判している暇なんてないんだから」

◆マニアックな番組を大切にする意味

「昔から俺は『北朝鮮からキャバクラまで』というのをモットーにしている。キャバクラが好きな男だって、北朝鮮問題に関心があったりするでしょ。キャバクラだけが好きっていう人は、むしろレアだと思う。だからこそ、常に興味を持つ守備範囲を広くしておきたいっていう気持ちはあるんだよね。

 年とともに好奇心のアンテナが低くなるっていう声もよく聞くけどさ。自分に限っては、そういうことは一切ない。新しいもの好きなのかもね。時計でも、家具でも、ファッションでもいいんだけど、『おっ、こんな新しい商品が出たのか』って気になっちゃう。新しい社会現象とか知らないスポットも、それと同じことでね。100円ショップのよさも、高級ショップのよさも、両方を知っていないとつまらないという考え方なんだよ。

 たしかに俺は地上波に出ているけど、地上波では放送できない内容っていうのもあるし、そもそも地上波が正義っていうわけでもないしね。そのへんの振り幅は大きいほうがいいと思うんだよ。それに今までの経験から言わせてもらうと、番組の予算が少なくても、ディレクターやスタッフが優秀なら、内容が面白くなるのは知っているしさ。

 MONDO TVでは、ロケ地セレクトの段階から話し合いに加わっています。もともと好きだからね、夕刊紙の1行広告的な怪しい雰囲気とかさ。こういう社会の裏を覗き見するような番組って、実際の視聴者は普通のサラリーマンや女子大生だったりすることが多いんだ。水商売の人は番組を観なくても自分の日常だからわかるわけで、好奇心も沸かないだろうからね。でも、自分の知らない世界に対する好奇心みたいなものって、いつの時代も普遍的だと思うんだよな」

※文中敬称略 <取材・文/小野田衛 撮影/我妻慶一 構成/北村篤裕>

【テリー伊藤】


1949年生まれ、東京都出身。演出家。テレビプロデューサー。日本大学経済学部を卒業後、テレビ番組制作会社・IVSテレビに入社。『天才たけしの元気が出るテレビ』(日本テレビ系列)『ねるとん紅鯨団』(フジテレビ系列)などヒット番組を手がける。その後独立し、『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系列)を総合演出、「サッポロ生搾り」「ユニクロ」など数々のCMも演出する。『サンデー・ジャポン』(TBSテレビ系列)など現在の出演番組多数。近著に『長嶋茂雄を思うと、涙が出てくるのはなぜだろう』(ポプラ新書)がある。