『鉄腕アトム』や『サザエさん』など、人気アニメに登場する家の間取りが気になるという人も少なくないはず。実は今、「間取り探偵~懐かしいアニメの主人公の自宅拝見!!」というイベントが横浜で開催中だということで、展示されているハウスクエア横浜に行ってみた。会場には、40ほどの住まいの模型が並んでいて、間取り探偵の影山明仁さんがマンガやアニメを読み込んで、推理した間取りから模型を製作したものだという。そのいくつかを紹介しよう。
マンガ・アニメの作者からお墨付きをもらった間取りも
影山さんが間取りを推理する方法は、2通り。
一つ目は、登場人物の背後に描かれる部屋を一つ一つジグソーパズルのように組み合わせるというもの。人気アニメ「タッチ」の南ちゃんの自宅を再現してほしいというニーズは高いのだが、南ちゃんが玄関から自宅に入るシーンが出てこないなど、パーツが不足して再現できていないものも多数あるという。
二つ目は、外観がはっきり描かれている場合に、外観の形状や窓の大きさから台所やトイレ、リビングの位置関係などを推理する方法。主人公が帰宅して、2階の部屋の明かりがつくことで、主人公の部屋が特定できることもあるという。
影山さんがこうして推理した、構造上不自然ではない建物の間取図を正確に描き起こし、それを鎌田顕司さんが1/50の縮尺で建築模型を製作したものが、今回の展示物だ。
江戸時代の『JIN~仁~』の住まいに始まり、『サザエさん』や『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、『頭文字D(イニシャルD)』などの日本の住まいから、『アルプスの少女ハイジ』や『PEANUTS』に登場するスヌーピーやルーシーなどの海外の住まい、『鉄腕アトム』や『アンパンマン』などのヒーローの住まいなど実に多様。
例えば、『JIN~仁~』の主人公南方仁は、江戸時代にタイムスリップして武家屋敷の屋敷内ではなく、長屋門(屋敷の表門で、門の脇には門番や使用人が住む部屋が付いていたもの)の一室に住まわせてもらっていたという想定。できあがった間取図を、作者の村上もとかさんに見てもらったところ、ストーリーの展開上、便所を長屋門の近くに移したほうがよいということになり、移動して模型を完成させた。そうした、原作者との交流も楽しみにしているとか。
【画像1】イベント初日は、間取り探偵の影山明仁さんが、間取りについて解説をしてくれた。説明しているのは、『JIN~仁~』で主人公が住んでいた橘家の住まい(写真撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
【画像2】『鉄腕アトム』の模型の前にいるのは、影山さんの影響でマンガ・アニメの間取り研究にどっぷりはまってしまったという、建築模型製作者の鎌田顕司さん(写真撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
マンガ・アニメの主人公の自宅から住宅の変遷もうかがえる住宅ジャーナリストの筆者が一番面白いと感じたのは、主人公の住まいから時代が見えてくるという話。家族構成がはっきりしている主人公の自宅に興味があったが、例えば、『サザエさん』の自宅(画像3)を見てみよう。
波平・舟夫婦、長女サザエとマスオ・タラ、長男カツオ・次女ワカメの3世代同居の住宅だ。昭和20年代がモデルなので、田の字型の平屋住宅となっている。
【画像3】『サザエさん』磯野邸の図面(資料提供:間取り探偵 影山明仁氏)
【画像4】『サザエさん』磯野邸の模型(写真撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
一方、コボちゃんの祖父母山川夫妻と両親田畑夫妻といった、こちらも3世代同居の『コボちゃん』の自宅(画像5)は、昭和30年代がモデルになるので、同じ平屋住宅でも、中廊下型の間取りに変わる。「田の字型より中廊下型のほうがプライバシーを保ちやすいので、サザエさんにはタラちゃんしか子どもがいないけど、コボちゃんには妹ができたなどと考えると面白いですよ」と影山さん。
【画像5】『コボちゃん』山川・田畑邸の図面(資料提供:間取り探偵 影山明仁氏)
【画像6】『コボちゃん』山川・田畑邸の模型(写真撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
また、『クレヨンしんちゃん』の時代(平成初期)になると、夫婦に子ども2人の核家族の自宅(画像5)になり、2階建てで食堂や居間、個室などが分離した今風の住まいとなっている。
【画像7】『クレヨンしんちゃん』野原邸の図面(資料提供:間取り探偵 影山明仁氏)
【画像8】『クレヨンしんちゃん』野原邸の模型(写真撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
間取りの模型を見学したマンガ・アニメファンの中には、自分はこう思うと別のアイデアを持っている人もいて、情報交換などができるのも面白いという。実際に取材中、『けいおん!』の間取りについて、見学者が持論を述べる場面にも遭遇した。
ほかにもいろいろ紹介したい家があるのだが、きりがないので、ここまでとさせていただく。最近のマンガ・アニメでは、連載当初に自宅の間取りを想定しているものもあって、推理する楽しみが減っているのだそうだが、ストーリーだけでなく間取りを想像するというのも面白い見方だと思う。今回紹介した展示は10月25日(日)まで。展示予定の作品については、ホームページを見てほしい。
●取材協力