2017年4月に消費税率を10%に引き上げるにあたり、政府は酒類を除く飲食料品については現在の8%に据え置く方針だ。しかし、2種類の税率を混在させることは避けて一律10%で課税し、年間4000円を上限に後日払いすぎた分を還付する方向で検討が進んでいる。
還付方法として財務省案では、買い物の際にマイナンバーカードを掲示することで過納分をポイントとして個人アカウントに貯め、後日インターネットなどから申請して払い戻しを受けるという仕組みだという。
このような仕組みに対し、識者から「マイナンバーカードが施行されてもいないのに、それに頼った制度は危険」「2種類の税率を混在させるより煩雑」「申請しなければ還付されない制度は問題」といった指摘が数多く挙がっている。
さらに、ポイントの運用を円滑に行うために「軽減ポイント蓄積センター(仮称)」を設置するとの案が財務省から出され、各メディアやインターネット上でも批判が噴出している。
●還付制度の問題点
ここで、財務省案の問題点として指摘されている事項をまとめてみると、主に次のようになる。
1点目は、全国の小売店や飲食店にマイナンバーカード読み取り端末を設置するのは困難だということ。小さな商店にまで行き渡らせるためには多くの費用と時間がかかる。大手シンクタンクの試算では、端末設置の補助金やデータ処理システムの構築、軽減ポイント蓄積センターの設置費用などを総合すると3000~4000億円は必要になるという。
2点目は、還付額の上限が4000円というのは少なすぎる。増税分の2%相当全額を還付しない理由が説明されていないのも不可解だ。また、与党税制協議会における合意文書には「軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、(消費)税率10%時に導入する」と明記しており、軽減税率を導入しないのは与党合意に反する。
3点目は、還付制度によってレジ業務が煩雑になることだ。軽減税率であれば、一度レジに2種類の税率を登録すれば済むことだが、還付制度ではマイナンバーカードの提示を受け、そこにポイントを加算しなければならない。さらに、小売店から個人情報が流出する可能性があり、情報管理を徹底できるのか不安は払拭できない。
4点目に、申請しなければ還付されないシステムは、国庫に余剰納付金があふれる仕組みといえる。「4000円のために、買い物のたびにマイナンバーカードを提示したり還付申請するのは面倒」と考え、還付金を放棄する人も多いだろう。そうなると、余剰金は国庫に帰属することになる。その金額は計り知れないほど莫大だろう。
5点目は、子供や高齢者などネットで申請が困難な人もいることだ。この点について財務省は、年間4000円の上限額を世帯合算できるようにする修正案を出している。つまり、子供がいる家庭では、親が子供の分も合わせて還付申請ができ、4人家族の場合最大1万6000円の還付が受けられる。また、還付手続きはパソコンやスマートフォンなどからネット上で行うほか、郵便局やコンビニエンスストアでも行えるようにするという。しかし、郵便局やコンビニの窓口で還付申請をすることで、個人情報流出の危険度はさらに高まる。その対応策はまだ検討されていないようだ。
6点目は、軽減ポイント蓄積センターが体のいい天下り組織となる可能性も危惧されている。そもそも、税収を増やすために増税するのに、新たな組織をつくって税金を投入しようというのは本末転倒だ。
●与党内からも批判的意見
公明党内からも還付制度については批判的な声が出ており、与党内での意見調整には時間がかかる見通しだ。自民党税制調査会の野田毅会長は、還付制度案について「課題はあるが、これをたたき台に議論を深めたい。軽減税率との比較を常に頭に置き、丁寧に議論する」と述べており、修正協議がどのように進むのか注目される。
飲食料品に軽減税率を適用するほうがはるかに簡便なことは明らかだが、政府は一度10%で納付させて一部を還付するというシステムにしたいようだ。自公両党は15日に次回会合を開き、年末にまとめる税制改正大綱に新制度に関する概要を盛り込む方針だという。
避けられない増税であるならば、少なくとも国民の負担感を減らす方策を検討してほしいところだ。煩雑な手続きを要する制度の導入は見送るよう切に願う。
(文=平沼健/ジャーナリスト)