シロナガスクジラは世界最大の動物である。体長は最長で34メートル(バスケットボールのコートとほぼ同じ)、体重は最大200トン(体重70キログラムの人間2,857人分)と言われ、かつて生存していた大型の恐竜よりもさらに大きい。そんなシロナガスクジラが、同時期に英国と米国で目撃された。
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■英国での目撃例
このシロナガスクジラが初めて英国海域で目撃されたのは、8月24日ビスケー湾の北端、コーンウォール州から南西約400キロの海域だった。この地域では、9世紀頃からバイキングによる小舟と銛による集団捕鯨が始まり、この地域の捕鯨産業は大変栄えていたという。しかし14世紀頃には、ビスケー湾沿岸での捕獲量が既に減少、17世紀にはオランダやイギリスなどが捕鯨を開始したことで、ますます個体数が減ったらしい。
このシロナガスクジラの写真を撮影したのは、英国国家海洋学センター(NOC)のラッセル・ウィン博士である。博士たちは海底における生物の生息状態、水中の動植物、海洋哺乳類、そして海鳥の調査等を行うため、海洋調査船ジェームス・クック号に乗り込んでいる。博士はシロナガスクジラとの邂逅をこう振り返る。「私は、調査船で船の周りを泳ぐ7頭のナガスクジラを観察していました。すると突然、シロナガスクジラがその近くに現れたのです」。
そして、ウィン博士はクジラが海中に消える前に何枚かの決定的な写真を撮影できたと興奮の面持ちで語った。
ちなみにナガスクジラ(Fin Whale)とシロナガスクジラ(Blue Whale)は和名では名前が似ているが、ナガスクジラはシロナガスクジラより小さく、また上顎の形も異なる。
ウィン博士とともに海洋調査船で調査を行っていたビーラ・ヒューブネ博士は、「初めてシロナガスクジラを目撃したことで、船は興奮に包まれていました。しかしその後で、我々は『これは英国海域で初めて撮影されたシロナガスクジラだ!』という事実に気づいたのです」と語る。前回シロナガスクジラが目撃されたのは2008年、アイルランドの南西だったという。
ヒューブネ博士はまた、「ビスケー湾端はクジラやイルカ、海鳥たちが多く目撃される海域として注目されています。私たちの新しい調査は、この領域の重要性を再確認するものです」と話す。
シロナガスクジラは、乱獲により絶滅の危機にさらされ、1966年には世界的に捕鯨禁止となった。しかし、最近のビスケー湾付近での目撃情報は、個体数の回復と生息地が拡大した可能性を示していると英国国家海洋学センターのスポークスマンは話す。
■米国での目撃例
さて、英国でシロナガスクジラが目撃された1週間後には、米国・カリフォルニア州モントレー湾でもシロナガスクジラが突如テレビ放映中に姿を見せた。冒険家でナチュラリスト、そしてBBCのTV番組『ワイルドライフ』プレゼンターのスティーブ・バックシャル氏が、クジラの専門家である動物学者のドリス・ウェルチ氏に船の上でインタビューしていた時の事だった。
ビデオの中でバックシャル氏は、「16年前にシロナガスクジラを撮影しろと言われたら、それは不可能だって答えていたよ。それが今ここに泳いでいるのは、本物の、生きている、シロナガスクジラなんだ!!」とテレビカメラを忘れるほど大喜びしていた。
英国と同様に、カリフォルニアでも、シロナガスクジラの個体数は1966年以来順調に増え続け、現在は捕鯨禁止以前の個体数に戻っていると考えられている。
ほとんど同時期に、英国と米国で生きているシロナガスクジラが目撃されたのは、果たして偶然の一致なのだろうか。何とも不思議な現象である。しかし、一時は絶滅の危機に瀕したシロナガスクジラを守るのは今、人間の叡智にかかっている事は確かだ。
(文=三橋ココ)
※画像は「The Guardian」の記事より