カメがカエルに恋をした。求愛したが拒まれた。同居したメスガメには逃げられた。そして、再びカエルを追いかけるように──。北九州市小倉北区の市ほたる館で繰り広げられる「道ならぬ恋」。その行方を飼育員は、そっと見守っている。
【フォトギャラリー】蹴られても、逃げられても…カメとカエルの「道ならぬ恋」
そばでじーっと
北九州市小倉北区の市ほたる館で飼われているクサガメ「ちゃちゃ」(オス、5歳)。メスのニホンヒキガエル「そね」と同じ水槽に入れるようになってようになって数カ月経った2015年1月中頃、オスガメがメスガエルに近づくようになった。そばでじーっと見つめたり、顔の前に頭を突き出したり。メスガエルは嫌がっているようだった。
■ボクシングのフックのように
1月23日、オスガメがついに行動を起こした。メスガエルと向き合うと、首をボクシングのフックのように操り、相手の鼻先に「キス」。
■平手打ちされても
メスガエルが離れようとしても、オスガメは追いかけた。ほおを平手打ちされたこともあった。それでもあきらめない。再び背後から覆いかぶさったが、受け入れられることはなかった。メスガエルは水槽の中で、ガラスを背にしていることが多くなった。
■頭をぺろっと
オスガメが近づき始めた頃、メスガエルがオスガメの頭をぺろっとなめたことがあったという。飼育員の吉開幹将さん(40)は「それで勘違いしたのかも。『そね』を追いかけている『ちゃちゃ』の目はキラキラしていた」。
新海正信館長(64)は「『ちゃちゃ』の思いが切々と伝わって同情する。だが道ならぬ恋。成就することはあり得ない」と話していた。
やっぱり同類
3月中旬、オスガメのお嫁さん候補として、メスのクサガメ「さくら」(7歳)がほたる館の一員になった。ふびんに思ったカメ好きが寄贈した。水槽の中で、オスガメはメスガメの後を追いかけたり、前に回って首を突き出したり引っ込めたり。
メスガエルには近づかなくなった。メスガメは口を大きく開けてオスガメを威嚇し、甲羅のふちにかみついて傷つけさえしていた。
■通じた熱意
それでもオスガメはメスガメを追いかけた。熱意が通じたか、徐々に親密な仲に。5月以降、館内の床の上で2匹が交尾しているような姿が何度も目撃された。だが、オスガメの後ろ脚が床で滑っていた。
■カメのみぞ知る
7月23日、メスガメがいなくなった。交尾しやすいようにと、2匹を庭の水路で放していた時間だった。水路を囲う柵と地面の隙間から逃げたらしい。近くの川を探したが、見つからなかった。
吉開さんは「少しだけ目を離した。『さくら』の顔つきが前より柔らかくなってきていたのに。自由を求めたのかな」と肩を落とした。
「道ならぬ恋」再び
オスガメはメスガメがいなくなった直後は食欲がなくなり、きょろきょろしていたという。しかし、ほどなくメスガエルへの接近を再開。8月中旬には求愛行動も見せた。
メスガエルは受け入れはしないが、オスガメの心情を察してか、そっと寄り添っているようにも見えたという。
■飼育員は願う
この夏休み、2匹のクサガメやメスガエルを目当てに、多くの子どもや大人がほたる館を訪れたという。吉開さんは願っている。「『さくら』がすでに交尾を済ませていて、子ガメを連れて帰って来てくれたら」