【モスクワ時事】ロシアが「人道」を前面に、シリアのアサド政権への軍事支援を強化している。国防省は「大型輸送機で人道物資80トンを送り届けた」と発表。一方で、大型揚陸艦派遣や兵器供給を報じられると「いかなる国際法にも違反していない」(外務省)の一点張りで煙幕。タジキスタン訪問中のプーチン大統領は15日、押し寄せる難民問題を逆手に取り、ロシアを批判する欧米をけん制した。
◇国連総会に向けて
軍事支援は、過激派組織「イスラム国」打倒以上にアサド政権の延命につながる。ケリー米国務長官はラブロフ・ロシア外相に「戦闘を激化させる」と電話で直接懸念を伝えた。
9月になってロシアは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のブルガリア上空を通って、ロシア軍用輸送機をシリアに向かわせようとした。米国の意向を受けたとみられるブルガリアは、領空飛行拒否をロシアに通告した。
怒ったロシアは10日、ザハロワ外務省情報局長が定例記者会見で「ロシアやシリア国民への非友好的な行動がもたらす結果の道義的・政治的責任」を挙げてブルガリアを激しく非難。「民間人への支援を禁止すれば、破滅的な人道状況をさらに悪化させ、欧州への難民の波を生み出す」と警告した。ロシアのアサド政権支援で「イスラム国」が弱体化すれば、結果的に難民抑制に寄与するという理屈で欧州を揺さぶっている。
プーチン大統領は15日の演説で「シリア難民は外部(欧米)から押し付けられた内戦や、テロリストから逃げている。ロシアがアサド政権を支援しなければ、難民の(欧州)流入はさらに増大するだろう」と主張した。大統領は28日に行う予定の国連総会演説で、アサド政権を中心とした対「イスラム国」共同戦線を欧米に提案する。
◇軍事介入、否定せず
ロシア国防省などによると、シリア西部ラタキアの空港には12日、世界最大のAN124輸送機2機が到着。「食料、衣料、寝台、ストーブ、調理台、給水タンク」など80トンを届けたと発表した。飛行ルートは非公表だが、米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランとイラクの領空を通過した。
一方、米民間調査機関ストラトフォーによると、ロシアはラタキアの空港を拠点化すべく、滑走路の拡張工事に着手。航空管制施設や兵舎などを既に整備した。さらに、やはりシリア西部タルトゥスのロシア海軍基地に大型揚陸艦で海軍歩兵を上陸させ、空港周辺の警備に当たらせているとされる。
ロシアが人道支援を強調しつつ、裏でひそかに軍事支援を行うのは、ウクライナ東部への軍事介入で世界が目撃したばかりだ。繰り返される情報戦に、欧米には既視感が強い。
プーチン大統領は4日の記者会見で、ロシア軍による「イスラム国」への軍事作戦の検討は「時期尚早だ」と打ち消してみせた。ただ、注意して聴くと、可能性は否定していない。