反対を訴えるデモが国会を取り巻く異常な雰囲気の中、集団的自衛権の行使に道を開く安全保障関連法が成立した。異論に耳を貸さないまま、安保法制の大転換に踏み切った安倍晋三首相のかたくなな姿勢に、疑問を持つ国民は多いだろう。国会質疑で多くの問題点が指摘された政府提出の法律がそのまま成立したことに関しては、野党の力量不足も問われる。
首相が法整備を急いだのは、日本を取り巻く安保環境の変化に対応するためだ。中国が海洋進出を進め、北朝鮮も核・弾道ミサイル開発を加速。米軍の存在感が相対的に低下する中、日本防衛の体制見直しが急務だったのは間違いない。首相が自民党を率いた過去3回の国政選挙で、同党が大勝したことも首相の強気を後押ししたのだろう。
ただそれは、合意努力をないがしろにする言い訳にはならない。政権側は維新の党や、「日本を元気にする会」など少数政党との修正協議には臨んだものの、野党第1党の民主党を巻き込む努力をしたとは言い難い。その民主党は、ひたすら廃案を迫る路線を突き進み、「平和のための法整備」という政権側と、「憲法違反」という民主党など野党側の主張の溝は埋まらなかった。
自衛隊が中東・ホルムズ海峡で機雷掃海に従事することは適切なのか。他国軍支援の一環として弾薬の提供まで行うのは行き過ぎではないのか。国会論戦で挙がった疑問点はそのままに、政府提出の法律が成立したことで、異なる意見を調整する国会の機能低下も露呈した。
国会答弁で首相はしばしば、安保政策について「丁寧に説明していく」と繰り返した。説明責任は引き続き問われる。国会周辺でのデモに代表されるように、政治への国民の視線はかつてなく厳しさを増している。