ワタミが“虎の子”の介護事業売却に追い込まれた。売却先として名が挙がった一つは、損保ジャパン日本興亜ホールディングス。9月10日、ワタミとともに、協議中であることを認めた。
2期連続の巨額最終赤字を計上し、ワタミの自己資本比率は6月末で6.2%に低下。現在、横浜銀行など取引銀行と、金融支援の交渉の最中だ。主要取引行とは6月末、短期借入金100億円のうち、50億円の長期切り替えと、20億円の新規融資を取り付けた。残る50億円の長期切り替え、追加で20億円の借り入れは、「9月末の完了を目標」としている。不採算店閉鎖を進め、再建に向けたリストラの一環で、介護の売却が具体化したようだ。
窮地に立たされた原因は、居酒屋「和民」の悪化が止まらないこと。前2015年3月期の既存店売上高は、2009年3月期に比べ7割の水準まで落ち込んだ。
創業者の渡邉美樹元社長が立ち上げ、祖業である和民は、消費者ニーズの変化に機敏に対応できていない。「幅広い種類のメニューを安く提供する」という戦略を取ってきたものの、昨今は専門の食事メニューを前面に押し出した特化型の居酒屋が台頭。差別化を徹底するほか、アルコールが苦手でも食事目当てのファミリー層などを取り込む。結果、特色がない和民は、“時代遅れ”になった。
たとえば焼き鳥チェーンの「鳥貴族」は、280円均一というわかりやすい価格設定に加え、鳥料理に特化することで、客数が堅調に推移。2016年7月期は80出店を計画するなど、店舗網を急速に拡大している。また年間40店ペースで積極的に出店するのが、SFPダイニングが運営する海鮮居酒屋「磯丸水産」だ。浜焼きのスタイルが広範な世代に支持されている。
新業態の開発が頓挫
とはいえ、ワタミがこの状況を、ただ指をくわえて見ていたわけではない。桑原豊前社長は炉端焼きや中華料理といった専門業態を次々と開発。「2018年3月期末、全体の店舗数で和民業態を6割、残り4割を専門業態にする」とまで表明していた。
だが、和民の落ち込みはあまりに厳しく、不採算店の閉鎖に追われる。結果として、前期末に占める和民以外の専門業態は、全体の13%にとどまった。こうした状況下、今年3月に就任した清水邦晃社長は、「専門店への取り組みは継続するものの、最優先すべきは和民の巻き返しにほかならない」と宣言。桑原前社長の掲げた目標値を白紙撤回するに至った。
言葉どおり、清水社長は4月から和民のメニュー数を絞り込み、10年ぶりの値下げに踏み切った。しかし、客からは「バラエティ感がなくなった」との批判が相次ぎ、客数減が止まらなかった。
さらに“ブラック批判”を受けた労務環境の改善策として、2月から200店で定休日を設けた影響もあり、第1四半期(4~6月)の既存店売上高は10.4%減少。通期計画の前提とする4.5%減を大きく下回った。
前期は全体の約15%に当たる不採算の100店を一気に閉鎖。それだけでは間に合わず、今期も85店の大量閉鎖を計画している。直近の第1四半期、国内外食事業は5億円の営業赤字を計上。前年同期の9.1億円の赤字から改善したが依然赤字のままだ。店舗閉鎖だけでなく、一度は挫折した新業態の開発にも、取り組む必要があろう。
そもそも、前期に24億円の利益を出し、ワタミの赤字縮小に貢献した介護事業を手放すことは、全体業績の回復の芽を摘むことにもなりかねない。介護の売却が実現しても、それは窮余の策で、抜本的な解決になりえない。
(「週刊東洋経済」2015年9月19日号<14日発売>「核心リポート04」を転載)