植物プランクトンのサイズはとっても小さいかもしれません。でも、だからといって私たちが肉眼でその姿を確認できないわけではありません。ちょっと顔を上げれば、この小さな生き物たちは曇りの日でも世界中を明るく照らしているのです。
オープンアクセス・ジャーナル(オンラインで無料公開されている学術雑誌)のScience Advancesに掲載された研究発表では、南極大陸を囲む南氷洋の微生物たちが雲の中で驚くほど大きな役割を果たしているというテーマを取り上げています。
小さな植物プランクトンは、突風に吹かれて水中の住み家から飛び出してしまうことがあります。そして、空気に乗って運ばれると水分凝縮をうながし、日光を通常よりも強く反射する明るい雲を形成するのだそう。
「夏季の南氷洋上空の雲は、プランクトンが大量発生していない時期に比べ、太陽光の反射が著しく強くなる」と、この研究を共著しているワシントン大学のDaniel McCoyさんは記しています。生物学的には死んだ状態とされるこの海でも、夏になると雲の水滴密度は2倍にもなるそうですよ。
植物プランクトンが光合成によって二酸化炭素の量を抑え、毎年、地球の気候を安定させるために大きな役割を担っていることは、よく知られている事実です。今回の研究では、こうした小さな生物たちがこの星を少しだけ明るく照らしてくれているという、新たな魅力を示唆する結果となりました。研究者たちは、南氷洋の植物プランクトンは年間平均で1平方メートルあたり4ワットほど日射を多く反射していることを発見しました。
雲は上空の水蒸気が周囲の小さなもの、たとえば小さな塩や塵、寿命を全うした有機物、そして生きた微生物などのまわりに集まり形成されます。小さなサイズであっても、雲の明るさには直接的なインパクトがあることが分かりました。より小さな微生物はより小さな水滴を生み、雲内部の表面積を増やします。それによって、射しこむ陽の光をより多く跳ね返し、地表を涼しく保つというわけですね。
衛星は海の生態活動を検知するために葉緑素の緑色を活用。明るい緑色の渦は2010年12月に大規模な異常発生を起こしたプランクトンが海流に乗ってパタゴニア(南アメリカの南端)に辿り着いた様子(画像:NASA)。
研究者たちは、NASAの地球観測衛星MODISが2014年に南氷洋上空でとらえた雲のカバーデータを検証しているうちに、雲を形成している微生物の存在に偶然気づいたのだそうです。そして南氷洋の雲は夏になると日光をより強く反射することを発見し、小さな微生物の発生量が多くなっていることが示唆されたとのこと。
ところで、夏季の南氷洋はとても穏やかで潮のしぶきを空中に巻き上げることも少ないため、ちょっと変じゃないかと思われる方もいるのではないでしょうか。そこでこの研究では、雲の反射がより強くなる要因がほかにもないか迫っていきます。そして、海洋生態モデルと雲の水分凝縮データを使い、海洋生物がその要因であると断定したのです。
植物プランクトンはジメチルスルフィド(海にあの独特な硫黄臭をもたらす物質)のようなガスを放出し、空気にのって運ばれると水滴の凝縮を促す効果があるようです。また夏の間はプランクトンが大量発生して小さな有機粒子の泡として海面をただよっているため、風に巻き上げられやすくなっています。こうした条件が積み重なって、南氷洋の夏の空では小さな水滴の密度が2倍にもなっています。
産業革命以前は、世界中の空もこんな姿をしていたのかもしれませんね。人類の汚染から切り離された南氷洋の研究は、そんな昔の地球を垣間見せてくれるようです。なお、こうした現象が地球全体の気候にどのようなインパクトをもたらしているかは、今後の解明が待たれます。
小さな生物たちが空に銀色の裏地を張ってくれていると分かっているだけで、曇空を見上げる日も気分が明るく照らされるような気がしますね。論文の全文はこちらでどうぞ。
source: UW News
Maddie Stone - Gizmodo US[原文]
(Rumi)