文・取材・撮影:編集部 世界三大三代川
●30年の歴史を凝縮したセットリスト!
2015年9月20日、大阪・グランキューブ大阪にて、“スーパーマリオ30周年記念ライブ”が開催された。このライブは、その名の通り、1985年9月13日に第1作が発売され、今年(2015年)で30周年を迎える『スーパーマリオブラザーズ』シリーズのスペシャルライブ。ライブには、『スーパーマリオ』の生みの親である任天堂の宮本茂氏や、宮本氏とともに『スーパーマリオ』シリーズを手掛けてきた、任天堂・手塚卓志氏、そして、『スーパーマリオブラザーズ』を始め、多くの『スーパーマリオ』シリーズの楽曲を担当した、任天堂・近藤浩治氏が出演し、トークなどで華を添えた。なお、このライブは明日(2015年9月21日)に東京でも行われる。下記リポート記事には、ライブの詳細が記されているため、もし東京ライブに行かれる方は、ライブ後にお読みいただいたほうが、よりライブが楽しめるかもしれないので、ご注意を(記者は、東京のセットリストを知らないので、念のため)。
タイトルが、コンサートではなく、ライブになっている通り、楽曲は、ときにビッグバンド風に、ロック風にと、かなり豪華に、そして大胆にアレンジが加えられていた。演奏を担当したのは今回のライブ用に編成された“スーパーマリオスペシャルバンド”。著名なミュージシャンが揃っており、司会のニッポン放送吉田尚記氏いわく、「この人たちの音を聞いたことはない日本人はいないんじゃないか」と言えるほどのレベルだという。編曲を担当し、バンドを率いるのは、数々のアーティストをプロデュースしてきた、笹路正徳氏。ちなみに、笹路氏はゲームがお好きとのことで「ニンテンドウ 64の『マリオカート64』をさんざんやりましたね。対戦が好きで、クルマの運転が好きなので、『マリオカート』にハマったんです」と告白。さらに、「(編曲の最中に)当時を思い出すんですよね。ふっと、(『マリオカート』の)スタートの瞬間を思い出したり」、「1個目のランプがついてすぐにボタンを押すとか(『マリオカート』シリーズのロケットスタートのタイミング)、リズムですよね」と、かなりやり込んでいることがわかるトークで、会場のファンを沸かせた。
記事の最後にセットリストを掲載しているが、演奏された楽曲は30周年ライブにふさわしく、『スーパーマリオ』シリーズのさまざまな作品から代表的な曲ばかり。しかも、多くの曲がメドレー形式になっているうえ、“スーパーマリオギャラクシー2メドレー”に『スーパーマリオ64』のスライダー(同曲が『スーパーマリオギャラクシー2』に使われている)が入っていたりと、実際に聴いてみるとセットリスト以上に、多くの曲が楽しめる構成になっている。また、意外な選曲として『マリオカート』シリーズのメドレーがあったほか、なかには“パックンフラワーの子守唄”や“マリオの絵描き歌”など、ライブの生演奏で耳にすることはないようなレア楽曲が入っているのも、ファンをニヤリとさせる。
前述の通り、合間のMCでは、『スーパーマリオ』シリーズのクリエイターが登壇。最初に登壇したのは、近藤浩治氏。任天堂への入社2年目で『スーパーマリオブラザーズ』の楽曲を手掛けることになったことを明かし、「入社2年目で世界に広がる仕事をしたんですね」(吉田氏)と問われると、「そんな意識はなく、ただ『マリオ』というゲームの仕事が来たので、それをやっただけなんです」(近藤氏)と解答。ただ、ファミコンの3音で音楽を作る方法については、「ファミコンの音をいかに制御したら音楽らしくなるか、和音の構成はどういうものがいいかと研究しながら作っていきました」(近藤氏)と、『マリオ』に限らず、作曲の過程でいろいろと試行錯誤があったことをうかがわせた。
近藤浩治氏に続いて、事前告知のなかったサプライズゲストとして、宮本茂氏が呼び込まれると、会場は大歓声。宮本氏は、「本当は(ステージ上の)土管から出てきたかった(笑)」と、会場を笑わせるトークをくり広げる。30年前の開発について問われると、「開発の人数は5、6人でしたね。応援を含めても10人強かな。開発期間は8ヵ月〜1年弱で。でも、これを短いと思っちゃいけないんです。その前のゲームセンターのゲームを作っているころは、半年で1本出していたので、当時は“8ヵ月もかかるの?”と言われました(笑)」(宮本氏)と、いまから考えると信じられないようなエピソードを披露した。また、「(グラフィックや音楽を)全部自前でやってよかったね?」と近藤氏に問いかけつつ、「当時は、(近藤氏を始めとするスタッフが)もう自信ないからプロに頼もうかとか言いながら、自分たちで絵を描いたり、音楽を作ったりしていたんですよ」と、開発スタッフの当時の話を暴露。
また、「当時、宮本さんから音楽に関するオーダーを出したりしたんですか?」(吉田氏)という問いには、「ちゃんと譜面を書いたり、曲を作ったりできる人が社内にいなかったので、彼(近藤氏)が来たときは神様だと」と宮本氏が返答すると、近藤氏は「ええっ!?」とビックリ。さらに宮本氏は、「ただ、ミュージシャンとしてではなくて、ゲーム音楽のアイデア出してくれとはいつも言っていて。いま思えば、キノコを取ったときとか、ゲームオーバーになったときとかの効果音にちゃんとメロディーがついたのは、近藤さんがそういう下地を作ってくれたからなんですよね。(「当時は効果音も近藤さんが作っていた?」という問いに)全部やってますよ。プログラムもやっていました。近藤さん以降、任天堂の音楽デザイナーはみんなプログラムを勉強してやらされるんですよ。でも、そこでできることの制限などがわかって、いろいろなアイデアが出てくるんです」、「(近藤氏から)だいたい出されたものはオーケーで、だんだん僕の趣味がわかってくると、僕の趣味に合ったものを入れたりして。本当にすごいですよ」と、近藤氏をべた褒め。そんな状況に近藤氏は、「こんなに褒めてもらったのは初めて。会社では、そんなに褒めてもらったことはない(苦笑)」と宮本氏に褒められまくる状況に戸惑いながらも笑みを浮かべていた。
●アンコールでは近藤氏のソロが!
1部が終わり、2部のスタート時には、手塚卓志氏と近藤浩治氏が登壇。手塚氏は、『スーパーマリオブラザーズ』でコースデザインなどを担当しているが、「キャラクターや背景デザインなど、ドットの絵作りをしていました。当時は人数が少ないのでコース作りも含めてやっていましたね。使える色数も少なくて、3色×4のパレットで画面全体を構成していたんですよ」(手塚氏)と話し、「そんな少ない色数であんな鮮やかなグラフィックを作っていたんですか!?」(吉田氏)と驚かれると、「すごいでしょ(笑)」(手塚氏)と、おどけてみせた。
手塚氏と近藤氏は、おふたりとも先日発売されたばかりの『スーパーマリオメーカー』に携わっていることから、ステージ上の大きなスクリーンで『スーパーマリオメーカー』をプレイすることに。客席からプレイヤーをひとり募ってプレイしてもらうことになったのだが、コースは今回の大阪でのライブ用に手塚氏が作った特別版で、しかも、BGMを画面に合わせて近藤氏が生演奏で弾くという、超豪華仕様。さらに、クリアーした人にはブックレットに宮本氏、手塚氏、近藤氏のサインが入った『スーパーマリオメーカー』のソフトがもらえるという。これには多くの観客が挙手したが、選ばれたのは小学生の男の子。いざゲームを始めると、その子の家では1日30分しかゲームができないというルールのせいか、コインを取ったり、ノコノコを踏んだりと寄り道しまくり。そんなプレイに合わせて近藤氏は、地上BGMを演奏しつつ、スターを取ればスターの曲に、土管に入って海のシーンになれば、海の曲にと、プレイに合わせて自在に曲を変えていく。そして、プレイヤーに選ばれた男の子は、ルイージや通天閣をかたどったブロックなどがある大阪仕様のコースを自由気ままに進み、見事にクリアー。すると、最後のゴールファンファーレは、スーパーマリオスペシャルバンドが奏でるという、世界でもっとも豪華なゴールシーンに。とはいえ、男の子は演奏よりも、『スーパーマリオメーカー』がもらえることに目をキラキラさせて喜んでいた。
2部では、生歌付きで“パックンフラワーの子守唄”を披露。“マリオ3Dランド&3Dワールド”では最後に、“ニャニャニャネコマリオタイム”のエンディング曲として最近おなじみの“マリオの絵描き歌”が、これまた生歌で披露された。なお、“マリオの絵描き歌”は歌に合わせて吉田氏がキャンバスにマリオの絵を描くという演出も。そして、2部の最後“スーパーマリオワールドメドレー”は“タイトルBGM”から始まり、“地上BGM”などを挟み、“エンディング”に終わるというゲームに準じた構成。記者が『スーパーマリオワールド』好きというのも多分にあるが、“エンディング”の曲では、マリオたちが歩くエンディングのシーンが浮かび、思わず涙がにじんできた。
そして、2部が終わり、アンコールへ。アンコールで最初に登場したのは、近藤氏おひとり。近藤氏は、「アンコールということで、私もちょっと弾いてみようかなと思います。前半で宮本の好きな曲を入れたという話もありましたが、宮本が好きな曲がどれもアスレチックのステージにピッタリということで、そういうステージに使っていました。そのアスレチックメドレーをお送りします」と語ると、おひとりのピアノの演奏で、数々の曲をメドレーで披露。アスレチックと言いつつも、海のBGMや『スーパーマリオUSA』の曲も混ぜるサービスっぷり。さらに、途中でタイムが100を切ったときのメロディーを混ぜると、そこから曲もテンポアップし、高速の曲を演奏する見事な腕前を見せた。
近藤氏の演奏を終え、本当に最後の曲としてバンドで演奏されたのは、“マリオギャラクシーメドレー”。“エッグプラネット”や“天文台のロゼッタ”といった曲を混ぜたメドレーを披露すると、会場中から手拍子が起こるほど、大盛り上がり。すべての演奏を終え、宮本氏、手塚氏、近藤氏、そして演奏メンバーがステージ前に出て手を挙げると、さらなる拍手と歓声が贈られ、鳴り止まない拍手の中、ライブは幕を閉じた。
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30年にも及ぶ歴史があるということは、それだけ多くの曲があるということ。こういった記念ライブ、コンサートの場合、その歴史を紡いだ楽曲からいいとこ取りのセットリストにしたものの、いまいち中途半端な構成になってしまうことも少なくない。だが、今回の“スーパーマリオ30周年記念ライブ”は、非常にすばらしい構成だった。もちろん、聴きたい曲が演奏されなかったという人もいるだろうが、巧みにメドレーを織り交ぜた構成は、多くの人の満足度を高めたはずだ。楽曲とともに映されるゲームの映像も、多すぎず少なすぎず、ゲームの映像だけに集中するのではなく、ときに、演奏するプレイヤーの見事なソロパートが堪能できたりと、映像のバランスもとてもよく感じた。ライブが終わった後、会場を後にする観客から、「『スーパーマリオ3』やりたくなった」、「『スーパーマリオメーカー』買って帰ろうかな」、「“ドルピックタウン”の曲が生で聴けて最高だった!」といった感想が漏れ聞こえてきたのだが、そういった感想が出るくらい、思い出を喚起される観客の多いライブだったのだろう。かくいう記者も、『スーパーマリオワールド』を引っ張り出して、エンディングを見ようかなと思っている。そんな風に思わせてくれる『スーパーマリオ』に、「30周年おめでとう」という言葉と、「ありがとう」という気持ちを伝えたい。
■セットリスト
・2部
・アンコール