国内初の「春画展」が9月19日から東京・目白台の永青文庫で開催されている。海外では2000年代から春画の芸術的、文化的な価値が再評価され、フィンランドやスペインなどで展覧会が開かれてきた。最も話題になったのが、2013年10月から2014年1月に英ロンドンの大英博物館で開催された「大春画展」だった。
大英博物館の常設展は普段なら無料だが、その時は7ポンド(約1300円)の入場料を徴収し、さらには大英博物館の歴史で初めての「16才未満は保護者同伴」という年齢制限を設けた。それでも会場は多くの入場者でごった返し、入場制限がかかる盛況ぶりだった。
驚くべきなのは、9万人に迫る入場者数の約6割が女性だったということだ。
なぜ春画は女性の心を惹きつけたのか。春画に詳しい日本美術史家の早川聞多・国際日本文化研究センター名誉教授が言う。
「欧米では女性器を露わに描いた芸術はほとんど存在しないので驚かれましたが、真正面からのエロティックに“下心を感じない”という声がありました。
現代のポルノの多くは“男性目線”で作られています。女性の裸体がメインで、視線は必ずこちらを向いています。男性の鑑賞者を意識しているからでしょう。
春画は違います。描かれている男女の視線はこちらに向いていません。それは男と女が共に春画を楽しんでいたからです」
大英の展覧会では女性パネリストだけのシンポジウムも開かれた。そこでは、「女性器を含めて、性の美しさが描かれている」「女性の性を正面から肯定している」という意見が出たという。
女絵の第一人者といわれる歌麿の春画の最高傑作の一つとされる作品が『歌満くら』。
相手のあごに手をあて、そっと引き寄せる女性。その大胆さに、驚くように薄く目を開く男性――。
「春画においては女性も積極的に性の歓びを味わっている様が多く描かれています」(早川氏)
性の絢爛が描かれた春画を通じ、現代の私たちは江戸時代の「性の豊かさ」を感じることもできる。
性をタブー視するカトリック的宗教観が日本にわたってくる以前の江戸のセックスにはほとんど禁忌事項はなかったといわれている。オーラルセックスや複数人でのセックス、媚薬や道具を使っての行為もはばかられることではなかったようで、春画のなかにはそうした場面も数多く描かれている。
「女性の性」も明るく、開放的な時代だったのではないだろうか。
※女性セブン2015年10月1日号