今月25日に控えるiPhoneの新機種 「6s」と「6s Plus」の発売に先駆けて、KDDIは新たに月額1700円の音声定額プランを11日に発表した。1回の通話時間が5分を超過すると、1700円に加えて30秒につき20円がかかるといった制限はあるが、従来プランより1000円安い。「長電話をほとんどしない」「データ通信がメイン」といったユーザーの支持を集めそうだ。
KDDIは昨年、ドコモの月額2700円の音声定額プランに同額で追随したが、田中孝司社長は「本音を言うと少し高い気もしなくはない」などと漏らしており、社内でも「割高ではないか?」という議論があった。また、auショップ店頭からも「電話をほとんど使わないのに月2700円は高い」といった声が寄せられていたという。iPhone発売に向けて新プランを提供することで、料金に不満を持つユーザーの獲得に打って出たわけだ。
ソフトバンクは同日、ドコモは16日にKDDIと同じ1700円の音声定額プランを発表した。しかし、データ通信について、2社のプランはKDDIと大きく異なる。データ通信料金を合わせた総額が既存プランより高額になるのだ。
KDDIの場合、既存プランは6500円から利用できる。(音声定額2700円+2ギガバイトのデータ通信料金3500円+ネット接続料300円)。一方、新プランの場合は6200円だ。(音声定額1700円+3ギガのデータ通信料金4200円+ネット接続料300円)。組み合わせるデータプランが従来の2ギガではなく3ギガ以上となるにもかかわらず、総額では多少安く利用することができる。
ところが、ソフトバンクとドコモの場合、既存プランは同じく6500円から利用できるが、新プランでは7000円にハネ上がる。(音声定額1700円+5ギガのデータ通信料金5000円+ネット接続料300円)。組み合わせるデータプランが5ギガ以上と決まっているためだ。もともと5ギガ以上のプランを利用していたユーザーは値下げになるが、それ以外で「音声定額の料金を安くしたい」と考えるユーザーはむしろ値上げになってしまう。
現在の最安プランはデータ通信量2ギガのプランが対象だが、5ギガに引き上げた理由について、ドコモは「スマホユーザーの月間平均データ使用量が2.9ギガ(4~6月期)であることや、ユーザーの7割超が5ギガ以上のプランを利用しているため。通話が少なくデータ量が多いユーザーを対象としている」(広報部)とコメント。ソフトバンクは「戦略について詳細は申し上げられない」(広報室)としている。
ドコモとソフトバンクが値上げした理由
なぜKDDIのように値下げできなかったのか。ソフトバンクとドコモの悩みは共通している。ユーザー獲得のためには追随しなくてはならないが、1契約当たりの通信料収入を下げるわけにはいかないのだ。
ソフトバンクは今期、ガンホー・オンライン・エンターテイメントが非連結化となり、米国スプリントも回復半ば。ヤフーもアスクル連結による評価益などが発生するが、実質的な大幅成長は望めない。グループ業績の牽引役であるモバイル事業が新プランに足を引っ張られるわけにはいかないのだ。
ドコモも単価下落を避けなければならない事情がある。今期は値引きサービスの負担増加を押さえることや、より高額なデータプランへユーザーを移行させること、さらには徹底したコスト削減によって3期連続の営業減益から復活の兆しを見せる年だ。加藤薰社長は営業益予想6800億円について「コミット(約束する)の数字。結果にこだわって事業を推進したい」としている。iPhone商戦期にユーザーの流出は避けたいが、KDDIの値下げプランまでは踏み切れない。そこでソフトバンクのプランと同じ内容で追随したわけだ。
各社とも既存プランについては今後も提供する。データ通信を多く使っているユーザーにとっては新プランが割安になる場合はあるが、「なるべく安く使いたい」というユーザーは既存プランが無難、といった点は押さえておくべきだろう。
現時点では目立った高額キャッシュバックの話題もなく、静かに立ち上がった印象のiPhone商戦だが、3社とも予約台数については「堅調に積み上げている」と回答している。
中でも新色のローズゴールド(ピンク色に近い)が大人気のようだ。「女性が待ち望んでいた色で、予約台数も多い」(販売店関係者)。新・音声定額プランの微妙な違いは、携帯3社の顧客獲得競争に影響をもたらすのだろうか。秋のシルバーウイークに突入し、予約合戦はさらに熱を帯びそうだ。