日本の学生のPCスキルが先進国で最低レベルだというデータが、衝撃を広げている。グラフを作成し分析した武蔵野大学講師の舞田敏彦さんがPCの所有率とスキルに着目したきっかけは、3~4年前から学生のパソコンスキルが低下していると感じたからだ。それは、ちょうどスマホが普及し始めた時期と重なっていた。
「大学3年生対象の『調査統計法』でエクセルを使って簡単な棒グラフを作成するのですが、3年くらい前から作り方がわからないと言う学生が増えました。1年生のときにエクセルやワードの使い方を必修科目で学習しているはずなのですが、その後PCを使わないので忘れてしまうようです。そこで内閣府やOECDのデータを調べたら、スキルとPC所有率に相関性があり、日本の若者のPCスキルが他の先進国より低いとわかりました」
韓国、米英など7か国の若者が情報機器をどのくらい所持しているかという2013年の内閣府調査によれば、日本が最も高い所持率を示したのは携帯ゲーム機器のみだった。携帯・スマホやタブレット、ノートPCやデスクトップPCといった他の項目について日本の所持率は7か国で最低の水準。若者ならだれでも使っているように思われている携帯・スマホの所持率も74.6%で、トップのスウェーデン((96.6%)、次ぐ韓国(95.7%)とは大きな開きがある。
そしてOECDの調査によると15歳生徒のうち表計算ソフトでグラフを作れる、パワーポイント等でプレゼン資料を作れる割合が日本はどちらも約30%と低い。ドイツやオーストラリアはいずれも50%を超え、韓国も日本より高い水準にあり、ここでも日本は調査45か国のうちでもっとも低いレベルだ。
この結果に対する反応は「大変な問題だ」「何の問題があるのか」の二つに大別されたと前出の舞田氏はいう。前者は会社の人事担当者といった大人から、後者はグラフ化されたデータの当事者、つまり学生たちからだった。
PCスキルは必要あるのかと疑う学生たちだが、就職活動を始める時期から必要に迫られ所有率が上がると神奈川大学非常勤講師で情報処理の授業を担当する尾子洋一郎さんは言う。
「新入学生にPC所有状況をきくと家族と共用が多いですね。使う機会が少ないからでしょう、中学や高校の『情報』でも教わったはずのワードやエクセルの使い方を覚えていない学生が少なからずいます。PCメールの使い方も一から教えています。それでも、学部3年になると就職活動用にPC購入相談が増えます。『3万円でワードやエクセルも使えるPCを購入したい』と相談されたときは、ネットストアのバーゲンセールを一緒に探しました」
前出の舞田さんも尾子さんも、学生のPCスキルが低いのは、使わざるをえない場面が少なすぎるからだ、とそろって言う。
「入学祝でPCを買ってもらったのに、必要なときがないからスマホばかりという学生が少なくないです。受験とは関係ない科目かもしれませんが中学や高校の『情報』でもっとしっかり教えて、早くからPCスキルを活用させて慣れさせてほしい。PCについては習うより慣れろという側面が強いので」(前出・尾子さん)
「動画編集はできるのにエクセルの棒グラフが作れない学生がいるのは、必要に迫られないから。レポートはスマホで書けるとPCを使わない学生もいます。でも、グラフや図を適切に挿入するにはスマホだけでは無理です。コピペ防止に役立つからとレポートを手書きで提出させる授業が少なくない大学側の対応も、学生のPCスキルが低い原因のひとつでしょう」(前出・舞田さん)
デジタル・ディバイドといえば、かつては世代によって生じる情報格差だった。ところが最近では、世代に関わりなくスキルによって格差が生じつつある。
「日本は教育のICT化が大きく遅れています。OECD調査から学習におけるPC利用頻度を調べたところ、日本は最低ランクでした。高度情報社会という事実があるのに、社会人になって初めてPCの使い方を学習するのでは遅い。大学も含め学校は、もっと若者のITリテラシー教育を担うべきです。若者にはエネルギーがあるのですから、それをよい方向に向けてやるのは大人の責任です」(前出・舞田さん)
規律の正しさや高水準の学力を養える日本型教育を輸出しようという動きがある。しかし、ITリテラシーについては足もとを整えることが必要な状況のようだ。