アニメ作品と聖地巡礼。近年は、地域活性の目玉に据える自治体も多いが、筆頭に挙げられるのが『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で、一躍注目を浴びた埼玉県秩父市である。同作スタッフの新作映画『心が叫びたがってるんだ。』は、同じく秩父市を舞台にした物語が描かれるが、秩父市観光課の中島学さんに、『あの花』や『ここさけ』への思い、そして聖地巡礼の実情を伺った。
中島さんが『あの花』を知ったのは2010年の終わり頃、アニメが放送される半年程前だったという。「偶然にも秩父市で“秩父アニメツーリズム実行委員会”が設立された年でもあり、何かご協力できないかと急いでアニメ制作サイドに挨拶へ伺いました。実は、自治体としても委員会としてもロケハンなど携わってはいません。唯一の協力といえば、キャラクター・ぽっぽが乗るバイクのナンバーの参考に、ナンバープレートの画像を送ったことくらいです」。
作品の感想を「どの場面にも自分の知っている景色が描かれていて、素直に嬉しかったです。描写が鮮明で、今でも街中のどこかで“キャラクターに逢えるのでは?”と考えるほどです」と話す中島さん。季節ごとに開催される『あの花』のイベントでは「全国から訪れるファンのみなさんに楽しんでもらいつつ、最近は個人的にも楽しんでいます」と語るが、「初めはそれこそ“聖地巡礼って何だろう?”と思うほどでしたが、アニメが持つ力を実感しました」と、作品の反響を語る。
さらに、「ファンの集える場所に設置した『あの花』自由ノートにたくさんの感想も頂き、実際、今年になってから作品をきっかけに東京と北海道で遠距離恋愛をしていた方々が、引っ越してきたり、聖地で知り合った方々が結婚したりと、嬉しい報告も聞かれます」と意外な影響もあったという。
また、『あの花』以降、地域では「住民の方々とファンの方々による新たなコミュニティも生まれ、みなさん一緒に楽しんでいるようにみえます」と印象を語る中島さんは、聖地化をきっかけとした地域の変化を振り返る。
「埼玉県内の観光地として知られていたものの、『あの花』以前は若い方々を呼び入れるのに苦戦していました。『あの花』により街中へみなさんが訪れて下さるようになり、商店街も活気付く中で、住民の方々からもご理解を頂けるようになりました。『あの花』をきっかけとして、心から秩父市が“変わった”と実感できるようになった気がします」。
そして、同作のアニメ放映から5年目を迎えた今年、新作『ここさけ』で再び秩父が舞台となったことについては「新しい作品で選ばれるとは思っていなかったので、本当に嬉しいです。隣町の横瀬町と共に、心地よく流れる名曲と合わせて、新たな街並みや自然豊かな風景も味わってほしいですね」と笑顔。
最後に、アニメの持つ力について尋ねると、中島さんは「他には類をみない力ですし、まだまだ大きな可能性を秘めていると思います。『あの花』はもちろん、『ここさけ』を通して、さらに未来へと繋げていきたいですね」と、力強く話していた。
映画『心が叫びたがっているんだ。』は、絶賛公開中。秩父市と横瀬町の景観を舞台に、あることがきっかけで言葉を封印し心を閉ざしてしまった高校生の少女・成瀬順が、共に心に傷を負ったクラスメイト達との交流を通して、再び自らの“思い”と向き合う姿を描いた青春群像劇。(取材・文・構成/カネコシュウヘイ)