“もっこり”は世界共通語!? マンガ家・北条司と編集者・堀江信彦が明かす『シティーハンター』裏話 | ニコニコニュース

(左)堀江信彦、(右)北条司。
おたぽる

 今年、連載30周年を迎えた『シティーハンター』(集英社)。凄腕のスイーパー“シティーハンター”こと冴羽獠が活躍する同作は、今もなお、多くの人々に愛されている作品だ。そんな『シティーハンター』の裏話が、原作者の北条司とその担当編集者・堀江信彦によって明かされた。

 9月6日まで行われたアートイベント「新宿クリエイターズ・フェスタ2015」は、5日に北条司と堀江信彦によるスペシャルトークショー「シネ・フェスタ新宿2015 シティーハンター トークセッション」を開催。このイベントは応募制で、幸運にも当選した『シティーハンター』ファンが集った。

 北条司によるトークショーはとても珍しいうえ、作品の舞台の中心となった新宿で開催されるとあって、イベント当選者たちのテンションものっけから高い。だが、意外なことに、観客の7~8割は40代くらいの女性だ。筆者も『シティーハンター』にハマっていたひとりだが、これまで『シティーハンター』の話で盛り上がっていたのは男同士。主催者サイドも、この現状には首をひねっていたようだ。聞けば、応募者比率は男女半々とのこと。会場に集まった観客の年齢層を見ても、リアルタイム世代といえるため、この女性たちが作品の新規ファン層とも考え難い。「もしかしたら、作品が好きというよりも、繊細で美しい絵を描く北条先生のファンなのかもしれませんね」とイベント担当者。アートイベントの主催らしい見解だ。

 トークショーでは、北条司がマンガ家になった背景、連載デビュー作となった『キャッツ・アイ』『シティーハンター』やそのリメイクで現在も2ndシーズンを連載中の『エンジェル・ハート』の誕生秘話などが語られた。その中で特にじっくり(?)語られたのが、「『シティーハンター』といえばコレ!」ともいえる“もっこり”だ。

 連載当初、堀江信彦が担当を掛け持ちしていた『北斗の拳』(集英社)の影響でハードボイルド的な話になり、思ったほど人気が振るわなかった『シティーハンター』。テコ入れで明るい話にするために、言葉のあやで「“もっこり”とかやっちゃったら?」と北条司に言ったところ、本当に“もっこり”を描いてきてしまったという。北条司によれば「いや、大人だから、こんなの少年誌でやってもいいのかと思いましたよ。でも、前例があったんですよ。徳弘正也さん(『シェイプアップ乱』の作者)が最初に“もっこり”をやったので、その陰に隠れてこっそりやれば、文句言われないんじゃないかと……」ということらしい。

 当時はその原稿をひやひやしながら入稿したと振り返る堀江信彦をよそに、「(当時流行っていた)パンチラをするのは“変態”だけど、もっこりは“生理現象”、当たり前の話じゃない?」と北条司。事実、“生理現象”のもっこりは世界に通用し、海外でも訳されずにそのまま使われているそうだ。堀江信彦もアメリカの大学生と“もっこり”を英語でどう表現するか議論をした際、英語では表現できないので、“もっこり”のままでいいという結論に至ったという。この日、会場にいた外国人の観客も、2人から“もっこり”に該当する言葉はあるのか質問されていたが、やはり翻訳できる言葉がなく「“もっこり”は“もっこり”」だと話していた。

 北条司も「それを表現する言葉はありますが、ニュアンスが合わないんですよ」と語る。そして、堀江信彦も「“もっこり”だと女性でもニヤッと笑えるユーモアがあるでしょ? そういうユーモアを含んだ表現が、どの国の言葉にもなかったんです。だから、世界共通語、“もっこり”」と結論(?)づけた。

 また、今回のトークショーはクリエイターにも向けたものであったため、北条司の才能についても語られた。その中でも特に会場を唸らせたのは、北条司によって描かれる“ペン線の美しさ”。堀江信彦によれば、きれいな原稿を描く北条司の作品は、より精密な印刷で見た方が作品の空気感がさらに伝わるそうだ。『シティーハンター』は今年、『シティーハンター XYZ Edition』という新たな単行本を刊行しているが、再び新しい印刷の本が出る背景には、こうした作り手の思いがあったといえる。

 さらに堀江信彦は、今回特別に北条司がステージ上で描き下ろした下絵を指し、「下絵は鉛筆の線がいっぱい描かれていますが、この中から気に入った線にペンを入れていくんです。だから、多くの人は、下絵の方がよく見える。ペンを入れると、下手な絵になる人がいっぱいいますよ」と、“ペン入れ”についても言及。なんでも、下絵からどの線を選んでペンを入れるかで絵は決まるそうで、堀江信彦いわく、北条司は「的確な線を選ぶことができる」そう。北条司だけでなく、『北斗の拳』の原哲夫もその才能があるとか。

 その一方、「ペン入れをした瞬間にダメになる人がいっぱいいて、山ほどがっかりしました」とも語っていた堀江信彦。筆者もペン入れをしたら絵が下手になる口だったが、そこが才能の分かれ目だったのだと、ようやく合点がいった。トークショーの最後には、サイン入りポスターや描き下ろされた下絵が当たるじゃんけん大会も行われ、ファンにはたまらないイベントとなった今回。“才能”を持つ北条司、“才能”を見抜ける堀江信彦の話は、クリエイターにとっても刺激となり、有意義な時間となったのではないだろうか。
(取材・文/桜井飛鳥)

■新宿クリエイターズ・フェスタ2015
http://www.scf-web.net
■「シティーハンター」生誕30周年特設WEBサイト
http://www.hojo-tsukasa.com/ch30/