アメリカの情報機関・国家安全保障局(NSA)が日本政府や日本企業に盗聴を仕掛けていたことが、「ウィキリークス」の公表により明らかになった。安倍晋三首相は「仮に事実であれば、同盟国として遺憾である」と表明したが、ジャーナリストの落合信彦氏は「日本は過去にも同じ過ちを繰り返してきた。スパイ工作に対する日本の意識はまったく変わっていない」と甘い考えを厳しく指摘する。
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振り返れば、日本は同じことを繰り返してきた。ちょうど20年前の1995年。スイスのジュネーヴで行なわれた日米自動車交渉でも、日本はアメリカの盗聴対象となった。CIAが日本の交渉チームがいる部屋の電話などに盗聴器を仕掛けていたことが、ニューヨーク・タイムズのスクープで明らかになったのだ。
当時、通商産業大臣として交渉にあたっていたのは橋本龍太郎だ。橋本をはじめとする日本交渉チームの会議や官僚との電話はすべて盗聴されてワシントンで分析され、アメリカ貿易代表のミッキー・カンターら交渉チームに提供された。
橋本は盗聴が明らかになると、「アメリカが同盟国に対してそんなことをするわけがないが、事実だとすれば不愉快だ」と語った。アメリカ側がそれに対し「ノー・コメント」であるというと、日本側は「否定しないのは遺憾である」とコメントを出した。何というブラック・ジョークなんだろう。
今回も、まるで同じことをやっている。この20年間、日本はまったく成長していない。世界の諜報機関からやられ放題なのだ。ロシア・中国・北朝鮮などはフリーハンドで活動しまくっている。
2004年には、上海の日本総領事館に勤務していた領事がハニートラップに引っかかり、中国当局に脅されて自殺する事件があった。2006年には海上自衛隊の自衛隊員が内部情報を持ち出して上海に無断渡航し、のちに自殺した。
そして今回の盗聴である。繰り返しスパイ工作を仕掛けられているのに、日本側の意識はまったくといっていいほど変わっていない。
アメリカの諜報機関は、日本のすべての大臣や主要な国会議員、知事、さらには大企業の幹部に至るまで、盗聴対象にしている。オバマ政権は2014年に「緊密な同盟国や友好国を標的とした盗聴・監視活動は原則として行なわない」と発表したが、あれはただのリップサービスだったのだ。
日本の政治家たちは「同盟国が盗聴するはずない」と考えているようだが、そんなおめでたい発想では情報戦争の現代を生き抜くことなどできない。
アメリカは日本の要人の電話などを分析することに加えて、賄賂などのスキャンダルを探している。いざというときに、そのネタをちらつかせてなんでも言うことを聞く人間にするためだ。インフォーマー(情報提供者)に仕立て上げるのも簡単だし、アメリカにとって邪魔なら追い落とすことも自由自在である。
日本は現在もそこまでやられていることを自覚することが必要だ。
(文中敬称略)
※SAPIO2015年10月号