25日、通常国会として過去最長となった国会が事実上閉会した。これにあわせ、安倍総理大臣が会見を開き、安全保障関連法案の成立など、今国会での成果について強調した。会見の内容は以下のとおり。
総理の冒頭発言
60年ぶりの農協改革、患者本位の医療制度改革、電力・ガス事業の自由化。長年日本の成長を阻んできた、岩盤のように堅い規制を打ち抜くための法案がいずれも成立いたしました。行政改革、女性の活躍、教育再生のための法案も成立し、戦後最長、8ヶ月にわたった通常国会は、まさに戦後以来の大改革を成し遂げる、歴史的な国会となりました。
この国会では、平和安全法制も成立をいたしました。"二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない"。戦後70年守り続けてきた、この"不戦の誓い"をより確かなものとしていく、そのための強固な基盤を作ることができたと考えています。
我が国を取り巻く安全保障環境は、私たちが望むと望まざるとに関わらず、厳しさを増しています。北朝鮮は日本の大部分を射程に入れる数百発の弾道ミサイルを保有し、そのミサイルに搭載可能な核兵器の開発も深刻の度を深めています。さらにテロの脅威は世界中に広がっています。
いかにして子供たちに平和な日本を引き渡していくか。あらゆる事態に切れ目のない対応が出来るよう、しっかりとした備えを行う。万一、日本に危険が及んだ時には日米同盟が完全に機能する。そして、そのことを世界に向かって発信していく。戦争を未然に防止し、地域の平和と安定を確固たるものとする。それが平和安全法制であります。
衆・参合わせて200時間を超える審議を通じて、維新の党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革といった、野党の皆さんからは、こうした厳しい現実、危機感を共有していただき、具体的な対案が提出されました。単なる"抵抗野党"ではなく、"責任野党"として、現実を直視し、自らの政策や立場を明確にする。国民から付託を受けた国会議員としての極めて誠実な態度に心から敬意を評したいと思います。
真剣な政策協議の結果、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の野党3党のみなさんには平和安全法制に賛成していただきました。前提として、自衛隊出動について国会承認など、民主的統制を強化することで合意いたしました。
民主主義のもと選ばれた政府が、国民の代表が集まる国会のしっかりとした関与のもとで判断をしていく仕組みであります。
私も含めて、日本人の誰一人として、戦争など望んでいない。当然のことであります。世界に誇る民主主義国家の模範であるこの日本において、"戦争法案"といったレッテル貼りを行うことは根拠の無い不安を煽ろうとするものであり、全く無責任である。そのことを改めて申し上げたいと思います。
もし、戦争法案であるならば、世界中から反対の声が寄せられることありましょう。しかし、この法制については、世界のたくさんの国々から支持する声が寄せられています。
先の大戦で戦場となったフィリピン、東南アジアの国々、かつて戦火を交えたアメリカや欧州の国々からも、強い支持を頂いております。今回の法制が、決して戦争法案ではなく、戦争を抑止する法案であり、世界の安全と平和と安全に貢献することの証であると考えております。
こうした点について、国民のみなさまの理解が更に得られるよう、政府として、これからも丁寧に説明する努力を重ねたいと考えております。
いかなる事態にあっても、国民の命と平和な暮らしは断固として守り抜いていく。そのためには安全保障の基盤を強化すると同時に、平和外交を力強く進めていくことも重要であります。早速、明日から国連総会に出席するため、ニューヨークに向かいます。欧州に押し寄せるシリア難民の問題をはじめ、世界は常に様々な課題を抱えています。そうした時代にあって、世界の平和と繁栄に貢献する日本の強い意志を表明してまいりたいと考えております。
国連総会は、世界中の首脳が集まる絶好の機会でもあります。可能な限り首脳会談を行いたいとも考えています。秋には3年ぶりに日中韓3か国による首脳会談も実現したい。これから中国、韓国、ロシアなど、近隣諸国との関係改善にこれまで以上に力を入れてまいります。地球儀を俯瞰する視点で、今後も積極的な外交を展開していく考えであります。
日本に戻れば10月であります。
アベノミクスはいよいいよ"第二ステージ"。"本丸攻め"へと移っていきます。国民のみなさんのご支援、ご協力を引き続き賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
質疑応答
平和安全法制は、国民の命と平和な暮らしを守るために必要不可欠なものであります。安全保障環境が厳しさを増す中、法案の成立によって、子供たちに平和な日本、安定した繁栄した日本を引き渡していくことが出来ると確信をしています。
国会審議では野党の皆さんからも複数の対案が提出をされました。深い議論が出来たと考えています。真摯な討議の結果、民主的な統制を強化することで合意に至り、野党三党の賛成も得ることもできました。より幅広い合意を形成することが出来たと考えております。それは、この法案の成立に当たって、大きな意義があったのではないでしょうか。200時間を超える充実した審議の中で、野党の中にも我々の問題意識を共有していただいた結果ではないかと思います。
他方で、「戦争法案」とか「徴兵制になる」といった無責任なレッテル貼りが行われたことは、大変残念に思います。国民の命を守り、幸せな平和な暮らしを守っていくための法制であり、安全保障の議論というのは、しっかりと国際情勢を分析をしながら、どのように国民を守っていくのか、という冷静な議論をしていくべきだろう、我々は国会議員はそういう中において、単なるレッテル貼り、無責任な議論は厳に控えなければならないと思っています。そういう無責任な議論があったことは大変残念なことであります。
実際に、もし「戦争法案」ということであれば、世界中から非難が寄せられているはずです。非難轟々だったのではないでしょうか。ところが、全く違います。多くの国々から支持や理解の表明があったわけであります。圧倒的な支持を受けているといってもいいと思います。この点からしても「戦争法案」という批判が、ただのレッテル貼りに過ぎないということの証ではないかと考えています。
今後とも私自身、そしてまた関係閣僚をはじめ、あらゆるレベルで国民の皆様のご理解を得るべく、努力を重ねていきたい。そして、根拠のないこうしたレッテルを晴らしていきたい。こう考えています。
かつての安保条約改定時もそうでした。また、PKO法制定の時もそうでありましたが、時を経る中において、その実態について国民の理解が広がっていったという実績、事実もあります。そういう意味におきましては、今後時を経る中において、今回の法制の実際の意義については、充分に国民的な理解は広がっていく。このように確信しております。
―外交方針について。北朝鮮との協議は再調査から一年が経過しているが報告が示されていない。この現状と今後の展望について。
また、ロシアとの関係において、プーチン大統領の年内の訪日、この現状について。また、首脳会談を予定されている中国、韓国との外交姿勢についても聞かせてほしい。
拉致問題については、安倍政権において必ず解決していくという強い決意で臨んでいます。調査の開始から1年経っても拉致被害者の帰国が実現していない。これは誠に遺憾であります。8月には外務大臣から、リ・スヨン外務大臣に対して、拉致問題の解決を強く要請いたしました。
制裁についてでありますが、制裁は課す時、解除する時、2回効果があるわけであります。それを如何に活用して、最終的な解決に結びつけていくかが大切であります。対話と圧力、行動対行動の方針の元、北朝鮮から具体的な行動を引き出す上で何が最も効果的かという観点から、拉致問題の解決に向けて全力を尽くしていく考えであります。
近隣諸国の外交については、冒頭申し上げました通り、私はロシア、中国、韓国との関係改善にこれまで以上に力を入れていきたいと思います。
ロシアとの間には北方領土問題があり、戦後70年近くたっても平和条約が締結をされていないという厳しい現実があります。先日行われた日露外相会談では、突っ込んだ議論を行いまして、事実上、中断をしていた平和条約締結交渉が再開し、北方領土問題や首脳間のやりとりなくして解決することはできません。これまでプーチン大統領と10回会談を重ねてまいりました。国連総会においても、プーチン大統領と会談する予定であり、北方領土問題についても直接議論をしたい。
また、プーチン大統領の訪日については、ベストな時期に実現したいと考えており、具体的な日程については、諸々の要素を総合的に勘案しながら決めていきたいと思います。
中国、韓国との関係では、私は従来から日中韓の首脳会談の早期開催を働きかけてきております。秋にはこれを実現したいと考えています。首脳会談の議題は、今後調整していくことになりますが、地域の平和と繁栄のために3か国の首脳で有意義な議論を行いたいと思います。
日中間のサミットが開催される際には、朴槿恵大統領と李克強首相と、それぞれ日韓、日中の首脳会談を行いたいと思います。それぞれ隣国ゆえに難しい問題、課題もあります。だからこそ、首脳間で議論を行うべきであろうと考えます。
―「一億総活躍社会」、「介護離職ゼロ」「GDP600兆円」という目標を掲げているが、どのような道筋で達成するかは明らかにされていない。いつ頃までに、どのような政策で達成していくのか。(共同通信)
昨日は、日本の構造的な問題である少子高齢化に真っ正面から挑み、「『一億総活躍社会』をつくる」と申し上げました。そのために、「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」といった具体的な目標を掲げました。
いずれも困難な課題です。その実現は、一朝一夕でなし得ないことは元より覚悟の上です。20年近いデフレが続き、日本人は自信を失いました。少子高齢化の克服は「どうやってもこれは無理だ」と最初からあきらめていたのではないでしょうか。しかし、このまま放置していいわけではありません。どこかでスタートをしなければ、輝く未来を描いていく、あるいは実現していくことはできないわけであります。
政権を我々が奪取した時、あるいは3年前に私が総裁に就任した際、「デフレから脱却をする」という大きな目標を掲げました。15年間も続いている中で、「デフレを前提にして考えるべきだ」という人たちも随分いました。そういう中で、しかし、まず目標を掲げ、そのためにこういう手段をとっていくということを表明しました。
その時、「それはもう不可能だ」ということをずいぶん言われました。しかし、実際今、「もはやデフレではない」という状況を作り上げることができた。あの時、「給料やボーナスがあがっていく。そういう時代はもう来ない」とすら言われていました。しかし、政治で決断をして、目標をもって、しっかりと処方箋を示していけば、私はそれは実現できる、実現に向かって進んでいくことができると確信をしています。
今、自身を取り戻すことができた。我々は再び成長することができるという自信を取り戻すことができた。今こそ、長年手つかずであった課題に向かって具体的な目標、明確なビジョンを掲げてチャレンジするべきだと思います。その強い決意と、あらゆる政策を総動員して取り組んでいく。基本的な考え方を昨日申し上げたわけであります。
来月の新体制発足にあたっては、この「一億総活躍社会」づくりに腰をすえて取り組むため、しっかりとした体制をつくり、新たな担当大臣を置くことに加えまして、その下に国民的な議論を深め、多岐にわたる政策を総動員するため、国民会議を設置する考えであります。
目指すべきは大きな節目でありまして、やはり日本でオリンピック、パラリンピックが開かれる2020年。団塊の世代が70超える年でもあります。この2020年に向かって、そしてその先を見据えて、新たな国づくりを進めてまいります。
こうした観点から、今後新しい体制の下で、いわば「一億総活躍社会」機関を作り、その実現に全力をつくしていく、考えであります。
―先日内閣参与である本多氏が3兆円規模の景気対策が望ましいと述べた。総理は、この3兆円という数字について、どう考えるか。(ウォールストリートジャーナル)
政権交代後、三本の矢の政策によって、雇用においても所得においても環境は間違いなく改善をしていて、デフレ脱却までもう一息というところまで来ています。景気の現状は、今のところ、一部に鈍い動きも見られますが、緩やかな回復基調が続いております。
そういう中で、アベノミクスの第二ステージに「名目GDP600兆円」という大きな目標を掲げました。引き続き、経済最優先でしっかりとした成長戦略を進めていくことによって、雇用をさらに増やし、給料さらに上げ、消費を拡大してまいります。
補正予算による経済対策を策定することは、現時点では考えておりませんが、経済動向をよく注視し、機動的な経済、財政運営によって万全を期していく考えであります。
―「GDP600兆」という目標を達成する上で、最も重視する政策は何か。また成長戦略の柱となるTPP交渉が足踏み状態となっているが、いつまでに妥結するのが望ましいと考えるか。(NHK)
まず「GDP600兆」を達成するためには、デフレから脱却をして、力強く経済を成長させていかなければいけません。企業の人材やITへの投資を喚起をして、生産性革命を大胆に進めていく。女性や高齢者の皆さんにももっと活躍していただけるよう、多様な働き方改革を進めていきたいと思います。コーポレートガバナンス改革、規制改革、制度改革も大胆に実行しまして、過去最大の企業収益を積極的な設備投資、雇用、所得のさらなる改善や消費の増加に結び付けていく考えであります。
あわせてTPPを含め大きな経済圏を世界に広げていき、投資や人材を日本に呼び込む政策を力強く進めていきたいと思います。
TPPについてでありますが、9月30日からアタランタでTPP閣僚会合が開催されます。交渉は最後が一番難しいわけでありますが、今回の閣僚会合を最後の閣僚会合としたいと考えておりますし、これはすべての参加国がそういう考え方の基にこの閣僚会合に参加すると思います。
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