一体どうなるんでしょう?
今や音楽の聴き方はサブスクリプションサービス全盛です。Apple MusicにAWA、Google Play Music、LINE MUSIC……定額で聴き放題、もちろんユーザーにとっては喜ばしい限り。だけど音楽を届ける側であるアーティストはどう考えているのか?
この度新曲「愛し合って世界は回る」をリリースするホフディランさんも、“自分たちの音楽を、できるだけ多くの人に聴いてもらうにはどうしたらいいだろう?”と楽曲のリリースに関して悩まれた一人。結果……
「無料であげちゃおうよ!」
と相成りました。つまりフリーダウンロード(ダウンロードはこちらから)。どうしてそうなったのか? 今回は、当の本人ホフディランの小宮山雄飛さんと、音楽にとても詳しいGoodsPressの編集長・長谷部敦さん、そしてギズモード編集長・松葉信彦が、音楽の現状、そして未来について熱く語ります。
ギズモード松葉(以下松葉):本日は新譜のお話も含めて、まずはその取り組みをされるに至るには、背景に音楽サブスクリプションサービスがあると思うので、そのあたりについてからお伺いしたいのですが。
小宮山さん:今回無料で出すのは……今、CDがホントに売れてない。ミュージシャンやレコード会社……みんながいろいろ考えているけれども、基本的にはビジネスベースで考えているわけです。カッコいいこというわけじゃないですけど、もっとビジネスより手前で考えたら、やっぱり曲が聴かれてこそなんぼだろうと思ったんです。過去に10万枚も売れていたと言われても、本来は10万枚という枚数じゃなくて、10万人が聴いてくれるというものの媒体がCDであって。だから聴かれるというのを基本に考えたら、無料であげたらいいんじゃないかと、すごくシンプルなことに行き着きついた。実際に配信だけで出そうとか、CDをライブ会場で売ろうとか、いろんな案はあったんですけど……もちろん無料というのは、レコーディングして、ジャケットを作って、タダであげたんじゃ1円も入ってこないので、ビジネス的に考えたらまったく成立していないモデル。ただ、たくさんの人に聴いてもらいたいという原点に帰ると、無料で出してみたら何かが変わるかなと思って……。
松葉:サブスクリプションサービスの中に入るのとは、また違うインパクトを求めていたということでしょうか?
小宮山さん:そうですね。定額制はまたちょっと別の話で、長谷部さんと同じ話をしていたんです。Apple Musicとかものすごいインパクトだったんですけど、気付くと自分の好きな昔のモノばっかり聴いてたりするんですよね。
松葉:そうですよね。
小宮山さん:ズーッと当時買えなかったモノとか、CDを買ってたけど、どこか奥にいっちゃったのとか……体感的になんですけど、あれは新曲を聴くところじゃないかなと。新曲が聴かれない場所な気はするんです。
松葉:僕もいい意味でも悪い意味でも、昔の音楽に出会う場所なのかなと思っているんです。レコードの売り上げが上がっているという話がありますが、僕の周りで、Apple Musicで久々に聴いた音楽をアナログ盤で買ったという人もいて、意外とパッケージを買う動機として、サブスプリクションがきっかけになるのかなと思うんです。
長谷部さん:僕はかなりそのモードになっていて、日常的に音楽を聴くのはサブスプリクションで、どうしても手元に持っておきたいってなったら、さすがにCD買うのはアホらしいと思って、それならアナログ盤を買って……。
小宮山さん:アホらしいってなんかすごいですよね(笑)。
長谷部さん:CDって極端なこと言えば、CD-Rに焼いちゃえば、同じようなものができちゃうじゃないですか? 自分でキチンと持っておきたいとなるとアナログ盤かなと……現状ではアナログってリリースが多いわけじゃないから、出てないから買えないというのはもちろんあるんですけど、普段聴くのはサブスプリクションでいいやと思っている。個人的にはそうなっているし、世の中の潮流的にもそういう流れはあるだろうなと思ってるんです。おっしゃるように、まだサブスプリクションがまだ釈然としない感じが……。
小宮山さん:みんな釈然とせず使っているけど(笑)。
長谷部さん:1ユーザーとしてはかなり使っていますが、ビジネスのことを考えると、もっとサブスクリプションサービスを使う人が増えて、今まで、音楽好きで月に何枚もCDを買う、僕みたいな人たちの多くがサブスクリプションにいっちゃったら、売り上げドンドン落ちてしまう。だからもう少し一般ユーザーに広まらないと、ミュージシャンやレコード会社など業界的には潤わないところがある。本当はなんかもっと敷居の低いものに……。でも少なくともApple Musicは、現状かなり高機能でハイスペックがゆえに難しいじゃないですか?
松葉:そうですね。
長谷部さん:ハードルが低いわけでもないから、音楽好きのためのツールになってしまっている。AWAやLINEの方が、もう少し敷居の低い感じもするし、実際にライトなユーザーが多いのかなと思っています。今小宮山さんがおっしゃった“新しい曲に出会いにくい”というのはマニアックなユーザーが使うとどうしても過去のアーカイブがすごくあるから、どうしても過去の名盤探しになってしまう。AWAやLINEのインターフェースは今のミーハーっぽい曲に出会う作りになってて……。
松葉&小宮山さん:そうそう。
長谷部さん:Apple MusicもRadioやBeats1を中心に使う人だったら、新しい曲に出会う気がするんですけど、今日本でApple Musicにいってる人は、そっちじゃなくて……。
松葉:まだアーリーアダプターだけのもの。
長谷部さん:だから過去の珍しい曲が聴けてとか、前に持ってたけど最近聴いてないみたいな人が多いと思う。だから小宮山さんがおっしゃるような状況になっている気がする。マスになってもっとライトなユーザーが増えたら環境が変わるのかな、と思いますけど、そこまでにはまだ結構ステップが必要なのかな。現状ではLINEが有料化した瞬間に、若い子は“数百円払えないよ” って言ってやめちゃうというのは……。
松葉:セコいとか言われてました。
小宮山さん:お金とるとセコいと言うのは……名言ですよね(笑)。
長谷部さん:名言です。でも時代を象徴している。それくらい“コンテンツはタダ”が当たり前になっている。それは音楽だからまだ違和感がありますけど、僕らの世界でいうテキストや情報というのが、紙のメディアはお金出して買うというのがまだありますけど、単に情報となると、例えばギズモードは無料じゃないですか? それがもう当たり前で、有料サイトに登録してニュースを見るってホントに限られた人になってしまっている。
長谷部さん:不思議なのは、ネット上にあるとタダだけど、ライブだとお金払う。若い子たちもイベントとかそういうのはお金払うし。ネット上にあるもの、スマホから行くものは、すべからくタダっぽい感じがあるのかな? そういう点では、小宮山さんがこのタイミングにタダで出すってのはなるほどって思います。
小宮山さん:やっぱり若い子に、ホフディランは“セコくない”って言われたい(笑)。
長谷部さん:これをタダで出すことによって、この先のイグニッションというプランは考えているわけではない?
小宮山さん:いや、今回は全然考えてないんです。当然今後ズーッとタダで出すわけにいかない。ただ確実に、今までの形だと行き詰まっていることはひしひしと感じるので。昔は例えば金曜のミュージックステーションに出ると土曜日にCDの売り上げが上がる、みたいに明確な手応えがあったんですけど、今ラジオに出てプロモーションしたところでCD買うか?っていっても買わないんですよ。
長谷部さん:うーん。
小宮山さん:だからそうなると、今度はラジオの方も困ってくる。要はミュージシャンが“出てもCD買わないんじゃ出てもしょうがない”となると、ラジオもそういう人が、ミュージシャンや有名人が出なくなると、今度はラジオもスポンサーもつかなくなるし、みたいな。音楽だけじゃなく、何もかもが“どうするんだ?”という状態になってきている。 “セコい”と言っている人たちに、とりあえずタダなら聴くだろうというのが今。ひとまずそこに踏み出した状態で、これがどうなるか分からないですけど……もう一度聴いてもらうところから始めて、聴いた人たちがライブに来てくれたり、何か物を買ってくれたり、新たな挑戦というか。
長谷部さん:1つの方法っぽい感じもしますよね。
小宮山さん:面白いなと思ったのは、今回無料にしたので、iTunesでは出せないんです。Apple側も儲からないから無料で出せないんですよね。
松葉:だから、自分のところでダウンロード配信する。
小宮山さん:それしかないんですよ。
長谷部さん:例えばApple Musicでは聴けないわけだ。
松葉:既存のプラットフォームを使えないと、自分がちゃんとサーバーに置いてそういうことをするわけじゃないですか? でも逆に今までのプラットフォームを使わないことでほかの人にリーチできることがあるかもしれない。
小宮山さん:そうですね。今回自分たちでやるんですけど、iTunesを入れて何でアクセスして検索してくださいじゃなくて、 “hoff.jpって入れてください”と言えばスマホでもなんでもアクセスできる。
松葉:そこは先ほどおっしゃっていた、まだApple Musicがそこまで浸透しきってない中で、よりカジュアルに聴く層にリーチしたいという狙いもあるんでしょうか?
小宮山さん:そうですね。手前味噌ですが、聴いてくれれば気に入ってくれるだろうという自信があって、とにかく聴かせよう!と。買わせようじゃなくて、聴かせよう! みたいな。ただ、その分iTunesストアにもAmazonにもないし、CD屋に行ってもないので、それがどう結果として出るかは分かりません。
長谷部さん:タダでも配信できるプラットフォームはYouTubeくらい。
小宮山さん:ビジネスとしてどう扱うか、どうしていけばいいんですかね……。
長谷部さん:音楽の歴史的な本を読むと、ラジオが始まったときって、ラジオが音楽をタダで流すじゃないですか。その時はやっぱり業界中の人たちが、最初“タダで流すなんてレコードが売れなくなるじゃないか!”と反発したそうなんです。実際ラジオが始まって何年かはちょっと落ちたんですよ。だけどその後、ラジオがキチンと広がってプロモーションツールになったら、ラジオ聴いて買うという動線ができて、レコードのマーケットが爆発的に大きくなったという歴史あるんです。百年前にそういうことが始まって、今そこからまた大きい環境の変化が来ていると、僕は思ってるんです。
松葉:LINE MUSICはゲストを読んでストリーミングでインタビューしたり、楽曲を披露したりしていて、10代に作品を届けたいというアーティストをキチンと魅せる面も作りつつ、サブスクリプションしてるという感じはします。
長谷部さん:AWAとLINE MUSICはレコード会社がしっかりやっているので、CDや音楽のプロモーションとなるように作られてる感じはしますね。より若い子をとっていこうとしているんでしょうね。ただ受け手側のユーザーにしたら、たった1,000円とか500円を払って何でも聴ける環境は、そんなハッピーなことはないんですよね。
小宮山さん:そんなハッピーなことはないんですよ……ミュージシャンでさえなければ、こんな素晴らしい未来はない(笑)。
小宮山さん:ちょうど今回ジャケットを作っている小田島(等)君と、今後どうなって行くんだろうという話をしてたんです。彼もくるりやサニーデイ・サービスとか手がけている音楽好きなので。長谷部さんが言った通り、ユーザーとしてこんな天国みたいなことはない。例えば自分が学生のころを考えると、20年後 “お前、聴き放題になるぞ”って知ったら、“そんな天国みたいな未来あるのか!?”って驚きますよ(笑)。
長谷部さん:思いましたよね。うん。
小宮山さん:牛丼とかハンバーグとか食べ物も低価格になって、どうなっていくんだろうと業界としては言っていますが、そういう40〜50年前の、戦後食べ物がない時代の人にしたら“そんな300円で牛丼が喰える、そんな素晴らしい未来があるのか!?”というぐらいね。叶っているんですよね。
長谷部さん:スティーブ・ジョブスは昔からそういうことを言っていて、やりたがっていて、実際それがやっときたということなんでしょう。だから今、自分が10代だったらすごく楽しいよね。
小宮山さん:最高ですよね。
長谷部さん:ただ今回違う“裏”もあるというのをすごく感じたんです。今月の「GoodsPress」が楽器特集で、その後半で今日のテーマ見たいな、“アナログレコードが人気”だとか、ハイレゾとか、サブスクリプションとか、その企画でアナログレコードに関してピーター・バラカンさんにインタビューしたんです。バラカンさんって、ああいうバランスの取れた人だから、もちろん“アナログはいいよ”という話もしてくれるんですけど、サブスリクプションに対してもすごく肯定的なんです。
長谷部さん:バラカンさんの娘さんはロンドンに住んでいて、音楽はずっとSpotifyで聴いているので、身近に感じるし、今の若い子は、自分たちが昔1枚しか買えなかったレコードをダウンロードして聴けるってすごくいいよねって話をしていたんです。でも時代を経るごとに……アナログレコードは1枚置いて、針を落としてという面倒な作業があって、CDになってリモコンで動かせるようになった。例えば、3曲目つまんねえなと思ったら飛ばす、そういう聴き方ができるようになった。音楽の聴き方がレコードからCDになったら、ちょっとラフになったよね? デジタルになったら、もっと雑になったよね、と。
小宮山さん:確かに。
長谷部さん:これがサブスクリプションになったら、もっと雑になるよねと言っていて……するとやっぱり、1曲への思い入れや愛みたいなのものはなかなかない。僕らは子供のころに“この1枚すげー欲しい”と探し回って買った経験があるから、想いが深くなったり愛が深くなったりするけど、今はそれが無くなっちゃう……。こう、何でも聴ける幸せの反面、そういう想いみたいなものを育てる過程がなくなって、ドンドン音楽の聴き方がラフになっていくんじゃないか、そんな話を聞いて、なるほどと思ったんです。
松葉:そこは小宮山さんからすると、今回フリーとはいえダウンロードしてもらうというのは、積極的、能動的な行為じゃないですか。やっぱりそっちの方が関わり合いとしては深いコミュニケーションになると思ったんですか?
小宮山さん:そうですね。やっぱり音源を持ってもらう……それはフリーという意味では、例えばYouTubeで聴けるでも同じですが、いつでもアクセスできるのではなく、自分がちゃんと持っている……それはデータでも全然違うと思うんです。アクセスしてなんでもあるというのは、便利だけど愛情は減りますよね。限られてる方が……いいかは分からないけど(笑)。
僕、昔からコレクト癖があって、アメリカのおもちゃとかを集めてるんです。一回収集を完全にやめたときに何があったかっていうと、NIGO君に会ったんですよ。NIGO君の家に行ったらものすごいわけですよ(笑)! この人と友達になれたら、ここに来ればコレクションがあるから、僕が集める必要ないかなと思って(笑)。その後ネットが出てきて、買おうと思えばヤフオクでもAmazonでも探せばいつでも買えると思えてきて、買わないまでも見れるってなると、別に欲しくなったら買えばいいってなるから、いらないんですよね。それがいいか悪いかは別として。それと同じで、そこにあると思うと別に今日聴かなくていいか、買わなくていいかとなる。愛情は減る気がしますね。
長谷部さん:一期一会みたいな出会いが無くなりますよね。ここで買っておかないと二度と手に入らないと思うけど。今はネット検索すれば珍しいものも買えちゃうかもしれないという環境ですもんね。
松葉:それでいうと、ライブには一期一会な体験があるからお金を払うというのが、まだ共通認識としてあるんですよね。
小宮山さん:そこは果てしないテーマですよね。例えば映画でも本でも何でもそうだと思うんですけど、それこそ古本屋に行って本を見つけて“買っておかなきゃ”みたいなものが、全部ネットにあるとなると、映画も本も音楽も、基本的にもう見きれない。極論で言うと“じゃあ、新作がいらないんじゃん”となってきちゃうんですよね。音楽を聴こうと思えば一日中、毎日違うアルバムを聴いても、多分死ぬまでに聴ききれないほどのものが常にあるわけだから。
長谷部さん:今まで出たものを聴いておけば、新譜なんていらないってことですね。
小宮山さん:しかも音楽好きになればなるほど、みんな昔の音源が好きだったりするし、例えば映画好きでも昔の映画が好きだし。そうなるとクリエイトする必要が、受け手側の感覚からするともう実はなくてもよくて、僕ら作り手が作りたいという欲で作るけど、受け手からするともう……。僕らは音楽好きだから新しい音源が出ると欲しいなと思うけど、例えば僕が本に興味がないとしたら、別に新しい本は出なくていいですから。昔のを読んでいればいい。
長谷部さん:この話をすると音楽だけではなく、うちの業界でもそういう話になって、小説、マンガも同じ状況なんです。今ちょっと始まってますけど、もしかしたらすべてがサブスクリプションになる可能性がある。じゃあ、新しい小説は必要あるという疑問が出てくると、作り手側としては過去の超名作とされるものと戦うには、いかに同時代かというところで戦うしかない。
小宮山さん:そうですよね。
長谷部さん:ライブが見られるとか……。
小宮山さん:今、小学生がドリフを見てるんですよ(笑)? ドリフの“ダメダこりゃ”みたいなことを今の子供が言ってる。おそらく長さんが死んでいることすら知らないんですよ。でも子供からしたら面白さは同じなんですよね。時代性で戦わない限り、純粋なコンテンツとしては昔のものを見ても聴いても同じなんですね。
長谷部さん:そういう時代ですよね。
松葉:例えばNetflixは映像のサブスクリプションですけど、彼らオリジナルのコンテンツを自分のところでしか見られないようにしてる。もしかしたら音楽もプラットフォームはいくつかありますが、ここでしか聴けないものをアーティストさんと一緒に作るというのが、それぞれのプラットフォームで生まれてきたり、そういう差別化があるかもしれないですね。
長谷部さん:Apple Musicは一部やってますよね? Apple Music限定みたいなのがあって……。
松葉:オンラインでフェスもやってますし。
小宮山さん:でも絶対みんな困っているとは思うんです。新しいコンテンツがなくなったら昔のものを見てればいいかというと、それもいろいろと“限り”が出てくると思うんですよね。皆がよくも悪くも“さあどうしよう?”となっている時代……デバイスやサービス、いろんなものが出そろって、じゃあ20年後のためにどうしますかねということを、みんなで一回考え直さないといけないような気がします。デバイスは現状ではもうiPhoneがあったらいいわけじゃないですか?
松葉:それで言うと、今回の作品作りでは同時代性を作品に込めるといったところを考えられたのでしょうか? そもそもその曲をダウンロードにしようというのは、制作のどの辺で決めたのか、お聞きしたいのですが。
小宮山さん:今回はシングル1曲だけなんですが、決めたのはホントに最後ですね。作り終わってから、どうやって出そうかと。話が戻りますが、一番重要なのは回数を聴いてもらうことなんです。最初に音楽配信が出てきたとき、これから音楽を買うのはアレだけど、ライブは残るということを音楽業界で言ってたんですが、それ、まったく嘘で負け惜しみなんですよ(笑)。やっぱり僕らの世代みたいに、CDでもレコードでも何回も聴いて染み付いてからライブに行くのと、大して聴いてなくてライブに行くのとでは思い入れが違う。例えば思い入れがあったら、ライブに行ったらTシャツも買おう!とか、シングルの別バージョンも買おうと思う。だから多分、同じライブの動員があっても、確実に昔より売り上げは低いと思います。あるいはライブ来る人も 、東名阪、全部行くか、というのと“東京だけ観るか”ってので、確実に情熱が薄くなってるんですよね。
小宮山さん:原点回帰のようなやり方なんですけど、とにかく聴いてもらう。曲なんて買っても聴いてもらわなければ、次のステップまで行かないんですよ……これまで結局聴かせるではなく、売りつけるような方向に行っちゃっていたのかな。もしかしたら音楽業界がもっと前から純粋に聴かせる方向にキチンとなびいていれば違っていた気もします。CD1枚、国内盤だと高かったですもんね。3,000円だったところと無料の間がないじゃないですか。
長谷部さん:確かに。その間ってレンタルしかなかった。
小宮山さん:レコード会社はそこで対策をしてなかったと言えばしてなかったですよね? ビジネスとしての対策を講じてたけど、ファンがどうやったらもっと聴いてくれるか、どうやったらもっと思い入れを持ってくれるかみたいなところの作戦というのは、僕が現場にいてもあんまり語られる感じはなかった。言い方は悪いけど、とにかく売れ行きみたいな面があった。
松葉:消費されちゃう感じですよね。そういう意味では、多分一番消費されないやり方なのかも知れないですね。
小宮山さん:この記事を読んで、タダなんだからとにかくダウンロードしてくれという話なんですよ。タダのためにこんなにしゃべってるんだから(笑)。
松葉:確かに。
小宮山さん:ライムスターのインタビューが面白かったじゃないですか? みんな考えているんですよね。どうしようかということを。
松葉:レーベルが考えるより、ある意味、アーティストの方がよく考えている。
小宮山さん:レーベルは結局、物を売っている人たち。だから当然売れないと話にならない。そういう意味で根底の聴かせるという部分はやっぱりミュージシャン本人が考えないといけないですよね。
長谷部さん:もちろんレーベルも昔とは違うビジネスをしないといけないし、もうCDは売れないという前提の上で、じゃあ自分たちがいいと思ったミュージシャンをどうやって売り出していこうかっていうのをやってると思うんです。
小宮山さん:もちろんビジネスが悪いわけじゃない。同じ仕事に関わってたとしても本でもそうだと思いますけど、書く人もいれば作る人もいれば、それを売るお店もあれば……同じものなんだけど関わり方は全然違っている。今の時代になってくるとミュージシャンたちでも考えないと。ただいい曲作ってあとはお任せしますでは多分難しい。
長谷部さん:ミュージシャンの在り方みたいなものも随分変わりそうですよね。小宮山さんは象徴的にそうなんでしょうけど、良質な音楽をそれなりにずっと作って、そんなに大きいマーケットじゃなく音楽をやっているミュージシャン……今、日本っていいバンドが増えたじゃないですか。
この間見た、toeのライブがすごくよかったんです。全米ツアーをやって戻ってきたタイミングで。日本にもこんなカッコいいのがいるんだなと思ってたんですけど、メンバーの1人がアパレルのブランドをやっていて、もう1人はグラフィックをやってて。別の仕事をしながらバンドをやっている。音楽もやりつつこっちもやるっていうふうに、表現者という人たちの仕事はそういうふうに変わってきているという感じがすごくしたんです。小宮山さんも実際音楽だけじゃなくていろんな表現手段で仕事しているじゃないですか? そういう時代になってきてるのかなという……。
松葉:最後にダウンロードしてくださいというのを、我々としてもプッシュしたいんですが、
長谷部さん:どんな曲だという話を全然できてないですね(笑)。
小宮山さん:これはハッピーな曲なんです。作っているときに、みんなが聴ける曲を考えたんですよ。自分のこだわりよりも、みんなが愛せる曲。垣根を超えて純粋に誰が聴いても“あ、これいいね”みたいなものを、ここ最近作りたくなってきてたんです。
* * *
いくつもの音楽サブスクリプションサービスが始まり、聴き方はまさに過度期。たくさん聴けるのはうれしいけれど、お小遣いを貯めて、ホントに欲しい1枚を買って、初めてプレイボタンを押す、あのドキドキ感は薄れてしまっているかもしれません。
また、レコード会社やレーベル、アーティスト本人と、作り手側も含めて、音楽業界は、ネクストステージへ向けて混沌としているようです。小宮山さんのような新たなるチャレンジが、次世代のイノベーターを生むのかもしれません。
だけどやっぱり音楽が好き。どんな状況になっても好きな音楽を聴きたいという気持ちは変わりませんよね? 早速コチラをダウンロードして、思い出の1曲にしてみたいと思います。
ホフディラン「愛し合って世界は回る」
そしてホフディランの二人が全国の名所を巡るライブツアー「ホ二人旅」も決定!!
チケット発売中。
10/29(木)渋谷WWW ホ二人+ドラムまつり
11/03(祝)山形 ホ二人×夢灯り
11/21(土)新潟 LIFE
11/23(祝)静岡サールナートホール
12/06(日)名古屋 楽運寺
12/11(金)札幌 musica hall cafe
12/13(日)博多STEREO
12/20(日)神戸 FELICE TRANSMIT FLOOR HARBOR
12/22(火)岡山 城下公会堂
12/23(祝)高松 element
12/27(日)京都府庁旧本館正庁
詳しくは「ホ二人旅特設サイト」。
source: ホフディラン
(ホシデトモタカ)