折形とは和紙で包み、水引で結んで贈り物を贈る日本の伝統的な礼法です。冠婚葬祭の「熨斗(のし)袋」や「掛け紙」などが現在の折形としては一般的ですが、古くは昆布や扇子など、贈答する際にはすべてを和紙で包み、結びをほどこして贈っていました。
何を贈るにしても、大前提にあるのは相手を思いやる心。贈る側と受け取る側の関係性や場面によって、思いや気持ちをどう伝えるかによって、折形の形は決まっていきます。
折形に取り組んだきっかけは、伊勢貞丈の『包之記(つつみのき)』という江戸時代の一冊の本。本に描かれた美しい図版に惹かれて購入した本ですが、内容を読み取ろうと、折形を研究する先生のもとを訪れたことがすべての始まりでした。
当時西洋を中心に海外の文化ばかりに目を向けていた私は、先生の教えを受け、自分の足元にある日本文化の奥深さにのめり込むことになりました。伝統的な文化の集約されている“奥ゆかしさ”こそが、日本におけるデザインの根本ではないかと感じたからです。
たとえば西洋的なラッピングにしても折形にしても、相手に喜んでもらいたいという気持ちは同じですが、異なるのは贈り手の個性を主張するかどうか。その視点で2つのあり方を観察してみると、装飾が多くて派手な西洋のラッピングに対して、折形は白い和紙をベースにしてシンプルさを追い求め、決して主張することがない。それは慎ましくて奥ゆかしいことを求める日本の生活様式や文化にも通じています。
そうして、折形について知れば知るほど面白くなると同時に、現代生活にかなった折形の必要性も強く感じるようになりました。結果として、和紙作りから折り手順までをデザインすることに。2001年からは「折形教室」を開き、現在まで生活の知恵としての折形を伝えています。
折形教室は、折形の歴史を学びつつ、必要に応じて受講生自らが折形を折れるようになることを目標にした教室です。もちろん、守らなければならない最低限のルールも教えます。折り端が左側にきてお祝い事に使う「右前」、折り端が右側にきて凶・ご不幸に使う「左前」というルールも、重要なことの1つとして伝えています。
こうしたことを踏まえたうえで、最終講義では実際に誰に、何を、いつ贈るのかを想定して、贈答品を各自教室に持参してもらいます。そして、どのような和紙を使うか、どういう手順で折るかを考え、その贈答品を包む折形を、贈る相手のことを考えながら心を込めて完成させていきます。
この折形教室では、実は広義のデザインを教えているつもりです。相手の存在との間にはインタラクティブな関係性があるのだということを気づいてもらいたいと思っています。折形を通して学んだモノの見方や考え方は、その後の日常生活でも生かせるはずです。
「折形教室」は16人の生徒を集め、1カ月に2時間の講義を6回、半年で終わるプログラム。設立から現在まで、受講生の数は約500人超。折形の購入は、東京・青山の折形デザイン研究所など店頭販売のみ。写真の紙幣包みのほか、箸包み、美濃手漉和紙の職人と共同開発した折形半紙などがある。
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山口信博(グラフィックデザイナー/折形研究家)----------