先週僕は米国サンフランシスコで開催されたTechCrunchのイベント「Disrupt San Francisco 2015」に参加していた。そこで衝撃的だったことの1つは大麻に関する新メディア(ラッパーのSnoop Doggが10月に「Merry Jane」なるサイトを立ち上げる)や大麻ショップ向けのPOSシステム「Green Bits」が、そのステージで発表されていたことだ。
日本で生まれ育った僕としてはテック系のイベントでこういう話が出ること自体が驚きだが、米国では医療用に加えて娯楽用での大麻の使用を認めている州が複数存在しており、その数は増えつつあるという。その是非はさておき——1つはっきりと言えるのは、今まさに新しいマーケットが生まれており、スタートアップが活躍するチャンスがあるということだ。
では日本にはそんな新しいマーケットがあるのだろうか? 僕が最近よく聞くキーワードは2つ。2020年の東京五輪を見据えた「インバウンド」、そして2016年4月よりスタートする「電力自由化」だ。今回はその電力自由化のマーケットにチャレンジするスタートアップ、エネチェンジについて紹介する。同社は9月30日より、電力の価格比較サイト「エネチェンジ」において、専用ダイヤルでオペレーターが電力会社選択の相談・支援を行う「エネチェンジ優先予約」をスタート。電力自由化に向けてサービスを本格化する。2016年の年始にも各電力会社から価格等が発表されると見られるが、それ以降はより具体的な乗り換えプランの提案などを行う予定だ。また、動画コンテンツを提供する「エネチェンジTV」も開始する。
エネチェンジは2015年4月の設立。そのルーツは英国発のスタートアップだ。もともとは建築・エネルギー事業を手がけるJASDAQ上場のエプコの代表取締役 グループCEOの岩崎辰之氏や、英・ケンブリッジ大学の卒業生らが英国で2013年に電力関連の技術を研究する「Cambridge Energy Data Lab」を設立。そこで電力データの解析をはじめとして研究やサービス開発を進めていたが、そこから価格比較サービスを切り出す形で日本にエネチェンジを立ち上げた。
エネチェンジの代表には、同ラボの創業メンバーである有田一平氏が就任する。有田氏はJPモルガンで債権やトレーディングなどにかかわるシステムの開発に従事。その後グリーの海外向けプラットフォームの開発に携わった。
ところでこのエネチェンジ、なぜ英国発なのか? それは英国が2002年から電力自由化を進めており(ヨーロッパ各国は2008年までにすでにほとんどの国が電力を自由化している)、なおかつ経済規模が大きく、かつ地理的には島国という、日本のモデルとなる環境なのだそうだ。そこでの研究成果を日本の市場に生かす考えだ。
エネチェンジ創業メンバーの1人であり同社のアドバイザーを務めるのは、ケンブリッジ大学で電力データ解析の研究を行う城口洋平氏。同氏はかつてはAndroidのログ解析サービスを提供するミログを立ち上げた人物だ。ミログは2009年に創業したが、ユーザーの同意を得る前にデータを収集・送信するという仕様が問題となりサービスを終了。2012年に会社を解散した。城口氏はその後渡英し、現在はケンブリッジ大学で日本人唯一の電力データ研究者として活動している。
城口氏によると、英国では電力自由化に伴って、「『ライフネット生命』モデルと『ほけんの窓口』モデルの新会社が登場した」のだという。もちろん前述の2つのサービス名は例でしかないが、要は新興の電力会社と、その販売窓口が生まれたそうだ。前者は相当の資金力が必要となるし、競合となる既存の電力会社は巨大だが、後者はスタートアップでも比較的挑戦しやすいマーケット。2006年にスタートした価格比較サイト「uSwitch.com」は1億6000万ポンド(約291億円)で売却されるなど、イグジット実績も出ている。
ちなみに日本の電力市場は約7.7兆円。オール電化や電気自動車の登場を背景にしてオールドエコノミーながらまだまだ成長している領域でもある。すでに価格比較サービスの価格.comでも電力比較のサービスをスタートしているし、他にも競合サービスを準備中のスタートアップがあるとも聞いている。
エネチェンジはすでにエプコやB Dash Venturesから合計2億2000万円を調達している。今後は採用やカスタマーサポートの強化、電力自由化に関する啓蒙も含めた広報・宣伝活動などを進める。また本日より、タレントのデーブ・スペクター、京子スペクター夫妻が広報アドバイザーとして就任するという。