本日、10月1日から住民票を有する全ての人にマイナンバーが順次通知される。制度の利用自体が始まるのは平成28年1月からだが、法人は対応に向けて準備を整えられるよう、マネーフォワードは8月から法人向けに従業員のマイナンバーを管理する「MFクラウドマイナンバー」を試験的に提供してきたが、9月30日にはサービスを正式版としてリリース。10月2日からは、ソースネクストと提携し、パッケージ版製品を全国の家電量販店などでも販売する。正式版の提供にあわせてマネーフォワードでは、マイナンバー制度やそれに対応すべき中小企業の環境などを説明した。
あたらめて説明するとマイナンバーとは、個人の社会保障や税金などの管理に使用するための12桁の個人番号のことだ。これを国民に付与することで、省庁間の情報連携による業務効率化、行政手続きの簡素化を実現するほか、年金受給や公租公課を公平で公正にすることを目指す。企業は従業員の給与の支払いや社会保険などの登録の際にマイナンバーが必要となるが、マイナンバーは特定個人情報にあたるため、取得から保管、そして破棄までの管理を徹底しなければならない。これまでの個人情報保護法で個人情報の適切な管理が求められていたのは、保持する個人情報が5000件以上の事業者だけだった。しかしマイナンバーはたとえ1件であっても取り扱う際には適切な管理を行う必要がある。
今まで個人情報保護法の対象外だった中小企業もマイナンバーの管理が求められることになるが、MFクラウドマイナンバーでは、マイナンバーの取得から破棄までを一括で管理する機能を提供するという。セキュリティー面を特に重視し、ログイン履歴やシステムから出力した履歴を保存したり、保管期限を自動で計算し、削除時期を知らせることで削除漏れを防ぐなどの機能を搭載していると山田一也氏は説明する。「特に人材派遣業などは取り扱う登録スタッフのマイナンバー数も多くなり、管理が難しくなります」と山田氏はいう。一度情報漏えいが起きれば、損害賠償や評判が落ちて事業の継続は厳しくなるリスクが想定される。
税理士法人ほはばの前田興二氏によると、同法人が抱えている法人顧客は約400社。その中でマイナンバー制度に対応しているのは1割程度と、制度への理解度は低い。また、多くの中小企業のオーナーはどこから手を付けてよいか分からなかったり、制度自体が住基ネットのように利用率が5%程度で制度が活用されないのではないかと不安に思う人も多いと話す。一方、業種によってはマイナンバー制度への対応に積極的な企業もあるそうだ。例えば、理美容の分野で複数店舗に渡り多くの従業員を抱えている場合や人材派遣業界など、マイナンバーを多く取り扱わなければならない企業だ。他にも、例えば多数のライターやデザイナーに仕事を発注している事業者の場合もマイナンバーの取得や管理の方法が煩雑になり、早目の対応が必要と話す。
個人に関連するところでは、マイナンバー制度が始まることで副業を辞めざるを得ないという人の話を良く聞くと前田氏は話した。また、法人とマイナンバーをやりとりするのに、セキュリティー面で不安に思う人もいると言う。
マネーフォワードにMFクラウドマイナンバーの利用者層について尋ねたところ、正式ローンチして間もないが、法人顧客にサービスを提供したいと考える税理士や会計士、そしてテクノロジー企業からの問い合わせが多くあるという。全ての従業員を雇用している法人、そして個人と取引して支払調書、源泉徴収票などを発行する企業はマイナンバーへの対応が必要だ。それは、クラウドソースで個人とインターネット上で仕事の受発注を仲介するクラウドワークスやランサーズといったプラットフォームサービスを展開する企業も例外ではない。ユーザーが安心してインターネットサービスにマイナンバーを預けられる体制を整えられるかどうか、またマイナンバーの適応によって副業としてサービスを利用していたユーザーの離脱が起きることも考えられる。プラットフォームサービスを始め、将来の働き方においてマイナンバーがどのような影響を与えるかは、制度の利用が開始されてから明らかとなるだろう。
マネーフォワードの他に、会計ソフトのfreeeも昨日マイナンバー管理のためのサービス、「マイナンバー管理 freee」をローンチしている。前田氏は、会計士や税理士、他の業者もマイナンバーの代行管理といった分野などで、機転を利かせることができる人はこの新制度をビジネスチャンスと捉えることができるだろうと話す。制度の運用が浸透するまで4、5年かかるかもしれないが、マイナンバー制度で様々な手続きは簡略化し、年金の不正受給といった問題も減って公正な行政に近づくといったメリットも多いという。